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12章【そんなに愛を誓わないで】
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しおりを挟むそっと、ツカサはカナタの口から手を離す。
「……分かった、観念するよ。正直に、俺の考えを話す。カナちゃんに【それ以上】を言わせたくないし、これ以上そう思わせたくもないから。だから……だから、聴いてくれるかな」
「はい、勿論です」
ツカサはカナタの手を握り、一瞬だけ瞳を不安気に揺らした。
しかしすぐに、ツカサは口を開く。
「……困りもの、だよね。俺が頼りたいのも、弱っているところを見せられるのも、ましてや悩みを相談したいと思える相手も。この世界に、たった一人だけなのに……」
カナタの手を握るツカサの握力が、僅かに増した。
「その子にだけは、弱いところを見せたくない。その子にだけは、頼ることも相談することもできないなんてさ。本当に、滑稽だよ」
「そんなこと──」
「俺が逆の立場なら、キミと同じことを言うね。……だけどそれは、キミも同じ。カナちゃんだって、俺に心配をさせるのはイヤでしょ?」
秒速の完敗だ。カナタは小さく、縦に頷く。
先回りをされたカナタは、すぐに言葉を失くしてしまう。カナタの想いは、逆の立場であればツカサの想いであり、今のツカサの考えは逆の立場になったカナタの考えでもあるからだ。
ツカサはどこか弱々しい笑みを浮かべてから、カナタの手を離す。
「心配させてごめんね、カナちゃん。だけど、俺なら平気だよ。悩みがあっても今まで一人でどうにかできたし、俺はなんだかんだでどうにかするだろうし。……ただ、今回は内容が内容だから、いつもよりちょっと時間が必要かも」
「ツカサさん……っ」
「ごめんね。俺、カナちゃんにそんな顔をさせたいわけじゃないのに……」
──こんな時、リンならどうするのだろう。
恋愛オタクのリンはよく、そういった内容の相談を受けることがあったらしい。その時、リンはどう対処していたのだろうか。
──こんな時、ウメならどうするのだろう。
マスターが実の家族に対して上手に接することができないと悩んでいたのを、ウメが解決した。ならばその時、ウメはどうマスターに接してあげたのだろうか。
──こんな時、マスターなら……?
ガバッ、と。カナタは顔を上げて、不安気なツカサを見上げた。
突然顔を上げたカナタに驚くツカサは一度、保留にして。カナタはキリッと眉尻を上げつつ、ツカサを見つめた。
「──ツカサさん、ベッドをお借りしますね!」
再度、ツカサが驚くのは想定の範囲内だ。だからこそカナタは、ツカサの驚愕を保留にした。
予想外すぎれば脈略もないカナタの発言に、ツカサの表情は【不安】から【戸惑い】へと変わる。
「えっ、カナちゃんっ? ベッドって、えっ?」
「それと、ペンギンのぬいぐるみもお借りします!」
「えぇっ? ちょ、ちょっと、カナちゃんっ?」
シャカシャカと足を動かし、カナタはツカサのベッドへと近寄った。
その際カナタは枕元に置いてあったペンギンのぬいぐるみを両手で掴み、そのままぬいぐるみと共に毛布の中へ。
……あまりにも、唐突な離別。毛布一枚を隔てた世界にカナタが突入してしまったことにより、ツカサは驚愕と悲哀を同時に抱く。
「カナちゃん? どうし──」
落ち着きなく、ツカサはカナタが包まる毛布の膨らみに手を伸ばした。
その瞬間──。
「──や、やぁっ! ワシは可愛い可愛いペンギンじゃよっ!」
──なんの前触れもなく、カナタによる人形劇が始まった。
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