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2章【先ずは貞操を守らせてくれ】
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しおりを挟む俺の真剣な表情から、伝わってほしい。
先輩に、分かってもらえているのだろうか。
俺は先輩のことが苦手だけど、傷付けたいほど嫌いなわけじゃない。だから、脈のない俺なんかにかまける時間があるのなら、新しい人を好きになってほしい。そしてその人と幸せになった方がずっと、先輩のためだ。
俺に気持ちを募らせるなんて、時間の無駄だと思う。
俺は先輩から視線を逸らさず、しっかりと顔を見る。振る相手から逃げるのは、失礼だと思ったからだ。
すると先輩は泣くわけでも、そして怒るわけでもなく。
──突然、笑い出した。
「あははっ! 随分とハッキリ言うねっ?」
……笑った、だって? もしかして、アルコールが回って正常な判断ができていないのか? それとも俺に振られたのがショックで、頭がおかしくなった?
予想外の反応に、俺は狼狽える。
「すっ、すみません。……いや、好きじゃないのは本当なんですけど」
「あはっ! ……それに笑っているんだよ」
どういうことだ? 『好きじゃない』と言われて、笑っているって? ……ヤッパリ、ショックで頭がおかしくなったのか?
先輩は二缶目のビールに口を付けて、何度か喉を鳴らした後に、俺を見た。その顔は、変わらず笑顔だ。
「君が笑える話をしてくれたお礼に、僕も笑える話をしてあげる」
「……はいっ?」
そう言うと先輩は立ち上がって、テーブルを挟んで正面に座っていた俺の隣に来た。……かと、思うと。
──グイッ、と。突然、俺の肩を力強く掴み、後ろへ倒すように押してきた。
「うわッ!」
俺は咄嗟に抵抗もできず、そのまま先輩に押し倒されるよう、床に倒れる。背中に鈍痛が奔るけれど、そんなことを気にしている時間はない。
──これはいったい、どういうことだ?
──俺は先輩を振って、そこで終わりのはずなのに……っ!
「先輩っ! 俺、先輩のこと好きじゃ──」
「──僕もだよ」
俺の肩に手を押し付けたまま、俺の上にのしかかっている先輩が……。
「──僕もね、別に子日君のことは好きじゃないよ」
──ヤッパリ笑顔のまま、楽しそうに【笑える話】をした。
……先輩は今、なんて? 『好きじゃない』って言ったのか?
先輩は、俺が好きじゃない? ……じゃあ、今のこの、先輩に押し倒されている状況は、なんだ?
俺は体をひねって抵抗するが、上にのしかかられている以上、俺の方が圧倒的に不利。逃れようと奮闘するが、思うように脱出できない。
告白してもいないのに突然振ってきたから、俺はモテ男のプライドを傷付けたのか? それで、これは報復? そういうことなら理由は分かるが、それと同時に【自分が危険だ】ということも分かる。
「さっき『不満はないよ』って言ったけど、ちょっとだけ訂正」
俺の抵抗なんてものともせず、先輩は淡々と話す。
「女の子と遊ぶのも、女の子と寝るのも……まぁ、それなりに経験したよ。一応ね」
先輩の手で押さえ付けられている肩が、痛い。先輩の力は思っている以上に強くて……ひねっても、びくともしなかった。
「だけどね、皆同じなんだ。だから、訂正すると『不満はない』けど『満足感もない』かな」
俺の肩からやっと手を離すと、先輩は俺のネクタイに手を掛ける。
──これは、かなりマズい。
俺は背筋だけじゃなくて、全身をゾワゾワさせてしまった。
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