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オマケ 1【先ずは一言誘ってくれ】
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しおりを挟む先輩の顔を、ジッと見つめる。
それから、なんとも俺らしくない言葉を口にした。
「──俺ってそういうの、気兼ねなく誘える相手だと思うんですけど。……恋人、なんですし……」
ボソボソと聞き取りづらい声で紡いだ言葉を、先輩はうまく受け止めてくれただろうか。
……いや。きっと、聞こえていたのだろう。
「……明日、君の部屋に行きたい。朝から、晩まで……ずっと、君と一緒にいたい」
膝を抱えていた先輩が、手を動かしたのだから。
俺の頬を撫でる先輩を見ながら、俺はブツブツと文句のような態度で答える。
「どうぞ。……なんなら、今晩からでも一名様のご案内はできますが」
「さっ、されたい! ご案内、されたいっ! 今すぐされたいですっ!」
「着替えくらいは、用意してほしいのですが──」
「──君の下着を貸してもらえるのならそれで!」
「──嫌に決まってるだろこの馬鹿犬」
……嗚呼、なんてくだらない茶番だったのだろうか。
まぁ、こうなってしまった原因が仮に『日頃、子日君が僕に冷たいから』と言われてしまったのならば、そこはかとない申し訳なさはあるけども。
「じゃあ、サッサと帰り支度を済ませちゃいましょう。俺はコンビニでなにか食べる物を用意しますので、先輩は着替えを取りに一回帰ってください」
「君と一回、離れないと駄目ってこと?」
「……そう言えば俺、先輩の住んでいる場所ってどの辺りか知らないです。ついでですし、せっかくの機会ですので、近くまで案内してもらえますか? 先輩の家から近いコンビニでも、買い出しはできますしね」
「っ! うんっ、喜んでっ!」
まったくもって、甘えたな彼氏様だ。迷惑行為もここまでくると愉快に思えてくる。
立ち上がった先輩は意気揚々としていて、ルンルンと鼻歌を歌いながら帰り支度を始めていた。……まったく、本当に厄介な人だ。
……まぁ、そんな馬鹿なところも可愛く思えてくるのだから、やはりどこまでいっても【惚れた弱み】は強烈ということで。
「じゃあ行こうか、子日君」
「はいはい」
鞄を持った俺たちは色の違う笑みを浮かべながら、事務所内を歩く。
事務所の扉を開けて、二人でそのまま通路に出ようとした。
そんなこんなで、大団円。俺たちはハッピーな週末を二人で過ごすことに──。
「──よう、低能共。ごっこ遊びに新たな役が必要じゃねぇか? たとえば『薄い壁の向こうで話を全部聞いていたお隣さん』とかなぁ?」
……時刻は、夜の十一時。これがどういうことか、分かるだろうか?
そう、つまり……。
「通ったのが俺様だけで良かったなぁ? おかげで、楽しく愉快に揶揄われる羽目になったんだからよぉ?」
──夜行性でおなじみ、兎田主任の活動時間だ。
「しゅ、主任君……っ? えっと、こ、こんばんは?」
「なんだよ、冷てぇなぁ? 隣人を役職で呼ぶなっつの。……まぁ、名前で呼んだら社会的に殺してやるけどな」
「主任、あの、お疲れ様です。なにかご用事、でしょうか……?」
「よう、新妻。別に用はねぇよ、ただの散歩だ。……ところで、ネズミ野郎。アレはやらねぇのか? 新婚には定番の、メシにするかフロにするかテメェにするかってやつ。それくらいやらねぇとウシがカワイソウだろ。……なぁ、ウシ?」
「「…………」」
……さて、ここで問題です。俺たちが家に帰れたのは、いったい何時間後だったでしょうか? ……なんて。おあとがよろしいようで。
……あぁあッ、クソッ!
──ヤッパリ俺たち二人が大馬鹿野郎だッ!
【先ずは一言誘ってくれ】 了
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