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続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】

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 数分後。


「酷いぜブン! あんまりだぜブン! 薄情だぜブン! ブ~ン~ッ!」


 ブンブンうるさい俺の同期──竹虎幸三が、俺の背後でさめざめシクシクと泣いていた。……なんだこれは。俺の後ろで大の男が泣くのは、今のトレンドなのか?

 俺はカタカタとキーボードを叩きながら、眉間に皺をしっかりと刻みつつ、返答する。


「悪かったって、幸三。兎田主任に呼ばれてたんだから仕方ないだろ」
「その前! 内線! 出たくせにお前、わざと切っただろ!」
「幸三、しっ」
「子供扱いするなよバカーッ!」


 やめろ、目立つ。

 眼鏡の上から顔を覆いながら、幸三は依然として俺の後ろで「汚れっちまった、悲しみに……ッ」とか喚いている。お前それ、意味分かって言ってるのか?

 俺たちの気心知れたやり取りを見て、隣の先輩はなぜか目を細めている。


「子日君が『しっ』て言ってるの、初めて聞いた。……いいなぁ、竹虎君。僕も子日君にそんな可愛く叱られたい」
「未来永劫黙っていてくれませんかね、先輩」
「う~ん。……どうせなら『しっ』て言われたいかな」

「まったく、仕方のない人ですね。先輩は特別に、幸三の倍は言ってあげますよ。……先輩、シッシッ」
「意味が変わってるよ子日君っ!」


 なぜだ。右隣も背後もうるさいぞ。いつからここは託児所になったんだ。

 ……さて、話を戻そう。就業時間だというのに、なぜ幸三がこっちの事務所にいるのか。その理由を話そう。

 幸三が、ここにいる理由。それは意外にも、兎田主任からの内線とも関係があった。

 この時期、うちの会社から毎年出している商品がある。その最新版を企画するよう任されていた兎田主任は、どうやら期日ギリギリまで気が乗らなかったらしい。

 さすがに毎年の恒例商品を作ってもらえないのは、会社としても困る。急いで作るようせっつかれた兎田主任は渋々、作成。……勿論、完璧な仕事をしてくれたが。

 しかし企画などの初期段階により時間を想定以上に使われ、データ入力の締め切りは今日まで。開発は終えたというのに、プレゼン資料としてのデータだけが完成していなかったという現状。

 そういうわけで俺は今、兎田主任や幸三に急かされながらデータを入力しているということだ。……まったく。先ほどまでの平和はどこへ行ったのやら。

 商品のサンプルは完成しているので、後は俺が資料を作成するのみ。出来上がった資料を持って、幸三は午後から早速、営業に出掛けるらしい。俺もだが、幸三も相当な被害者だったのだ。

 ……しかしそう考えると、兎田主任が俺たちで憂さ晴らしをしたがった理由も納得である。いくら自由奔放とは言え、やはり会社の上層部には従うしかないのが、俺たち社員の限界なのだ。兎田主任と言えど、そこは同じらしい。

 だがそんな八つ当たりで俺たちを虐めるのでは、堪ったものではないな。

 なんてことを考えているうちに、どうやら後ろの赤ちゃん──じゃなくて、幸三は泣き止んだらしい。


「ブ~ン~っ! は~や~く~っ!」
「うるさい。椅子をガタガタ揺らすな」


 泣き止んだ幸三は手持ち無沙汰らしく、俺が座る椅子の背もたれをガッシリと掴み、そのままガタガタと揺らしてきたのだ。

 馬鹿野郎が。そんな妨害をされると仕事に支障が出るのだぞ。……と言いたいが、黙ろう。たぶんコイツ、俺が構った分だけ調子に乗るからな。




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