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続 2章【先ずは想いに上限を設けてくれ】
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しおりを挟むやはり、様子がおかしい。俺は多少身じろぎつつ、先輩に返事をする。
「俺は嫌がったりしないって、前に言ったじゃないですか」
「だけど、耳にキスをしたら怒った」
「それはこういう関係になる前の話でしょう? 今の状況には適用されません」
「そう、だけど……」
どうしたと言うのだろう。今の先輩は、変に子供っぽい。
……いや、訂正。正しくは【臆病】だな。
いっそ俺から、キスのひとつくらい贈ってやればいいのかもしれないが。それは、できない。
──くそっ。いつまで経っても俺は、情けないな……ッ。
「好きだよ、文一郎」
そう言って、先輩は額をグリグリと押し付けてきた。
……なんだよ、いきなり。俺はアンタから下の名前で呼ばれると、落ち着かないんだぞ。
ここぞという場面で俺の名前を先輩が呼ぶと、胸がグチャグチャするんだ。そうやって【自分以外の誰か】によって心を乱される経験が少ない俺は、どうしていいのかも分からないんだぞ。
こんな経験、あまりない。むしろ皆無だ、皆無。
それなのに先輩は、あっさりと俺の心を乱す。まったくもって、不穏な男だ。
「文一郎。……こっち、向いて」
「……っ」
振り返ると、すぐにキスをされた。……クソッ。心臓が、うるさい。
キスが終わると、先輩はまたしても俺に額を押し付けてきた。
「文一郎は、僕以外の人に体を許しすぎだよ。心配で、気が狂いそう」
「そんなはしたないことをした記憶、欠片もないのですが」
「──兎田君に顎を触らせた」
……なんだ? なんか、先輩の様子がおかしいような……?
「竹虎君に、後ろからこうして抱き締めさせていたじゃない。それに、鎖骨だって触らせた。……酷いよ、文一郎。僕だってまだ、文一郎の鎖骨をグリグリなんてしたことないのに」
まさか、と。俺はようやく、先輩が俺に甘える理由に至った。
『ねの──……う、ん。分かった』
なにが『俺の考えを分かってくれたらしい』だ。そんなもの、言わずにして伝わるわけがないだろう。
俺は慌てて先輩を振り返り、そのまま勢いで口を開く。
「──まさか先輩、ヤキモチですかっ?」
あまりにも遅い、気付き。だって、仕方がないじゃないか。
男が男の顎を触って、いったいなにになる? 首は痛いし、相手が相手だから怖いしで、なにも発展するわけがない。
男が男の鎖骨を撫でて、いったいなにになる? くすぐったいし、仕事の邪魔だし、シンプルにウザったいだけでそこから発展するわけがない。
だが、それは前提条件によって変わる。それが【男が】ではなく【恋人が】だとしたら? 馬鹿みたいに心配性な先輩が、心穏やかでいられるわけがないのだ。
こんなにも先輩を大切に想っている俺が、たかが顎を掴まれたり鎖骨を撫でられたりしただけで心変わりをするはずがない。どれだけ俺自身がそんな自信を持っていても、それを伝えなければ先輩にとってはなんの安心材料にもならない。
──先輩がどれだけ俺にヤキモチを焼いてくれても、俺には同じものが返せないのだとしても。俺は先輩の気持ちを、汲まなくちゃいけないのに……っ。
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