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8章【親友の弟に真実を伝えて、】

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 両腕でしっかりと、冬人を抱き締める。

 すると、冬人はなにが起こったのか分かっていなかったのか……一瞬だけ固まってしまった。
 だが、すぐに事態を把握したらしい。


「平兵衛さんっ! いきなり、なにをして……ッ!」


 突然暴れ始めたかと思えば、冬人は全力で俺の胸を押し返そうとし、距離を取ろうとする。
 だが俺は俺で当然、冬人を離すつもりはない。


「なんでそんなに可愛いんだよ、お前さん」
「かわ──ぅあ、っ!」


 真っ赤になっている耳たぶに、堪らずキスをする。
 話している途中だったのとビックリしたので、冬人は間抜けな声を出す。


「や、っ。へい、べ……くすぐっ、たい……っ」
「可愛いぞ、冬人」


 キスだけではなく、耳朶に舌を這わせる。するとすかさず、腕の中で冬人はビクンと体を跳ねさせた。


「やめっ、舐め、な──ん、っ!」
「図星なんだろ」
「ちが──ひぅっ」


 いつもの、どこか無機質な声とはまるで違う。ほんの少し。……だけど確実に、熱を持った声色だ。

 セックスした時も思ったが、ヤッパリ冬人は敏感体質なんだろうか。キスをした段階で、胸に当てて抵抗していた手が、縋るように俺の服を握っているのだから。


「じゃあ、さっきのはどういう意味で言ったんだ?」
「意味、とか……っ」
「『意味なんてない』なんて、言わせるつもりはないぞ」
「あ、ぅ……っ」


 耳たぶを甘噛みすると、またもや冬人の体がピクリと跳ねた。


「言ってくれ、冬人」
「や……っ! い、やだ……っ」


 冬人はギュッと、俺の服を強く握る。
 俺も冬人をキツく抱き締めて、耳元で囁く。


「冬人」
「……っ」


 ──観念したな。

 小刻みに震えて、冬人は俺の首筋に唇を押し当てて、囁いた。


「──妬い、た。……ごめん……っ」


 【胸が締め付けられる】なんて。そんなもの、悲しいときとか苦しいときだけに起こる現象だと思っていた。
 ……イヤ、ある意味今は【苦しいとき】か。

 ──冬人があまりにも、恥ずかしそうに震えているから。

 ──冬人があまりにも、いじらしくて。

 ──冬人があまりにも、可愛いから……っ。

 冬人が握っている服の向こう側は、本当に【胸が締め付けられるような】感覚だった。
 恥ずかしそうに、申し訳なさそうに。だけどどこか、甘えるような声色で冬人が認めるから。

 俺は耳朶から唇を離し、俺の首元に唇を押し当てている冬人の肩を掴んで、距離を作る。
 視線が合う距離に、お互いがいた。


「あ……っ。……平兵衛、さ……っ」


 視線が絡み合うと、すぐに冬人の瞳が揺れ始める。
 俺がそのことに気付くと、突然。

 ──冬人は、その瞳から涙を溢れさせた。


「ご、ごめ……っ、私は、わたし……っ!」


 もしも、冬人が俺に対して。

 ──俺と、同じ気持ちでいてくれるのならば。

 自分にとって都合がいいように、解釈しているだけかもしれない。だけど、もしもそうだとしたなら……。

 ──この涙の理由は、言われなくたって分かってしまった。




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