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4話【オレの大事な人】

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 相変わらず静かな事務所に、冷酷無比に思える言葉が響いた。出所は……当然、オレの口。
 なのにセンは、相変わらず真剣な顔をしている。


「それは、クリスマスデートのお断りッスか?」
「……っ。悪い、セン。それだけじゃ、ねぇんだ」
「ッスよね」


 震えた指先が、オレの手から離れた。


「沖縄先輩のことが、好きだからッスか?」
「そう見えるか?」
「最近の愛山城さん、マジで変だったんで」


 オレは変だったのか。自覚がな──くも、ない。

 初めて、センからオキジョーのカノジョ云々って話を聞いた、あの日のこと。……なんでかオレは、異様に動揺した。
 それは、あれだけ一緒に居てただの一回も気付かなかった自分の鈍感さに落ち込んだんだ、と。そう、本気で思ってたんだ。

 ──でも、たぶん違う。


「隠すとかはぐらかすとか、そういう意味じゃなくて。オレは本気で、オキジョーのことをどう思ってるとか、そういうのが……よく、分かんねぇんだ」


 このままじゃダメだって、いざオキジョーをオレから突き放しても。胸の中によく分かんねぇ感情が降り込めて、苦しい。

 オキジョーとノナガサンが、一緒に歩いてたり話してたりするのを見てると、雪崩みたいに胸ン中がザワつく。この雪みたいな感情がなんなのかは、分かんねぇ。

 ──けど、オレはきっと薄々気付いてる。


「分かんねぇけど、それでも……他の誰かとクリスマスを過ごす気は、起きねぇんだ」
「……そッスか」


 呟くと、センは真剣な表情を緩めて笑う。


「じゃ、帰りましょっか。送るッスよ?」
「えっ。いや、さすがに悪ぃよ」
「今まで散々こき使ってきたくせして、なに言ってるんスか」


 破顔するセンを見てると、なんだかさっきの告白がウソみたいに思えてくる。
 ……でも、ウソじゃない。


「距離、取るつもりないんスよね? なら、俺たちは今まで通りッスよ」


 オレは、オキジョーみたいに面倒見のいいセンパイじゃねぇけど……。

 ──後輩が作り笑いしてることくらいは、分かるからな。


「……分かった。じゃあ、アパートまで頼むわ」
「了解ッス。じゃあ、サクッと帰り支度を始め──ん?」


 立ち上がったセンがそう誘うや否や、突然ピタリと動きを止めた。
 なにごとかと思い、センが見ている方向を一緒になって見やる。


「沖縄先輩、忘れ物してないッスか?」
「ハァ? オキジョーがンなことするわけ──マジだな、忘れモンだ」


 オキジョーのデスクには、家と職場で兼用しているペンポーチが置いてあった。
 センはオキジョーのデスクへ近寄り、そのままペンポーチを手に取る。そして当然の顔をしながら、オレに渡してきた。


「はい。沖縄先輩に渡しといてください」
「……。……おう」
「いやそんな、あからさまに面倒そうな顔しないでくださいよ」


 テーブルにポンと置いておこう。そうしたら、オキジョーは気付くはずだ。……ノナガサンと、デートを終えた後にでも。


「さんきゅ」
「どういたしましてッス」


 ペンポーチを受け取った後、オレたちは普段と変わらない雑談をしながら、駐車場に向かった。




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