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13章【雨垂れ石を穿つ】
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しおりを挟む翌朝。桃枝はまたしても、普段とは違う意味で眉を寄せていた。
「──なんだ、このパーティーじみた料理は……」
表情が強張っている理由は、驚愕。……若しくは、ドン引き。食卓テーブルに並んだ料理を見て、桃枝はたじろいでしまったのだ。
食パンに、目玉焼き。サラダと、スープ。……ここまではいい。ここまでは、朝食の範囲内だろう。
だが、山吹はさらに料理を運んでいるのだ。
「もしかして、苦手な食べ物がありましたか?」
「いや、それはないんだが。……ないんだが、なにからツッコミを入れたらいいのか」
テーブルの上には他にも、ハンバーグにコロッケ。既に【食パン】という主食があるのに、なぜか山吹はアスパラガスとキャベツのパスタまで運んでいる。
「あっ、サラダはマカロニサラダの方が良かったですか? シンプルに、サツマイモとリンゴのサラダにしてしまいました……」
「それは果たして、本当に【シンプル】なのか?」
パスタをテーブルに置いた山吹は、シュンと委縮していた。そんな姿を見せられると、コメントそのものがしにくい。
「夜中に、メーワクかけちゃったから……。それで、朝からモヤモヤしてしまって……」
山吹は、フラストレーションを家事にぶつけるタイプらしい。桃枝はトントンと己の額をつついた後、一先ず、椅子に座った。
「別に責めちゃいないんだが、これを全部平らげられる自信はないぞ」
「おいしくなさそう、ですか?」
「単純に食欲と胃の容量の問題だ」
しかし、全力は尽くす。桃枝は「いただきます」と言い、フォークを手にした。
山吹も続いて、椅子に座る。それから、フォークを手に……。
「それと、昨晩はありがとうございました。ボクが『抱いて』って言っても、諭してくれて」
……する前に。桃枝に向かって、ぺこりと頭を下げた。
「あのまま、課長に抱かれていたら……きっとボクは、また同じところをグルグルしてしまっていたと思います」
「いや、俺はなにも特別なことはしてないだろ」
フォークにパスタを巻きつけながら、桃枝は言葉を続ける。
「むしろ、お前は凄いな。俺の言いたいことを理解して、あまつさえ自分の中に落とし込んでくれている。お前はやっぱり、立派な男だよ」
「それは……過剰評価、ですよ」
視線を、そっと落とす。山吹は食器に手を伸ばすこともできずに、ただただ瞳を伏せた。
黙ってしまった山吹を見て、なにを思ったのか。桃枝はさもなんてことないように、会話を続けた。
「不謹慎だと分かってはいるんだが、夜中に俺がいないだけでベソをかく程度には好かれているんだと分かって、気分はいいがな」
「むっ。酷いです、課長。ボク、ホントに怖かったんですからねっ?」
「あぁ、悪かった。……お前は相変わらず、拗ねた顔も可愛いな」
「もうっ! イジワルな課長はイヤですっ! そういうサディスティックなのはベッドの上だけにしてくださいっ!」
「くっ! だから俺はサドじゃねぇって何度も言ってるだろうが……!」
なんてことない、いつもの日常だ。山吹は思わず、ホッとする。
桃枝も言っていた。『大丈夫だ』と。だから、なにも心配するようなことなんかないのだ。
……なのにどうして、ハッキリとそう割り切れないのか。山吹はフォークで目玉焼きの黄身を潰して、そう考えた。
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