地獄への道は善意で舗装されている

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
420 / 466
13章【雨垂れ石を穿つ】

6

しおりを挟む



 翌朝。桃枝はまたしても、普段とは違う意味で眉を寄せていた。


「──なんだ、このパーティーじみた料理は……」


 表情が強張っている理由は、驚愕。……若しくは、ドン引き。食卓テーブルに並んだ料理を見て、桃枝はたじろいでしまったのだ。

 食パンに、目玉焼き。サラダと、スープ。……ここまではいい。ここまでは、朝食の範囲内だろう。

 だが、山吹はさらに料理を運んでいるのだ。


「もしかして、苦手な食べ物がありましたか?」
「いや、それはないんだが。……ないんだが、なにからツッコミを入れたらいいのか」


 テーブルの上には他にも、ハンバーグにコロッケ。既に【食パン】という主食があるのに、なぜか山吹はアスパラガスとキャベツのパスタまで運んでいる。


「あっ、サラダはマカロニサラダの方が良かったですか? シンプルに、サツマイモとリンゴのサラダにしてしまいました……」
「それは果たして、本当に【シンプル】なのか?」


 パスタをテーブルに置いた山吹は、シュンと委縮していた。そんな姿を見せられると、コメントそのものがしにくい。


「夜中に、メーワクかけちゃったから……。それで、朝からモヤモヤしてしまって……」


 山吹は、フラストレーションを家事にぶつけるタイプらしい。桃枝はトントンと己の額をつついた後、一先ず、椅子に座った。


「別に責めちゃいないんだが、これを全部平らげられる自信はないぞ」
「おいしくなさそう、ですか?」
「単純に食欲と胃の容量の問題だ」


 しかし、全力は尽くす。桃枝は「いただきます」と言い、フォークを手にした。
 山吹も続いて、椅子に座る。それから、フォークを手に……。


「それと、昨晩はありがとうございました。ボクが『抱いて』って言っても、諭してくれて」


 ……する前に。桃枝に向かって、ぺこりと頭を下げた。


「あのまま、課長に抱かれていたら……きっとボクは、また同じところをグルグルしてしまっていたと思います」
「いや、俺はなにも特別なことはしてないだろ」


 フォークにパスタを巻きつけながら、桃枝は言葉を続ける。


「むしろ、お前は凄いな。俺の言いたいことを理解して、あまつさえ自分の中に落とし込んでくれている。お前はやっぱり、立派な男だよ」
「それは……過剰評価、ですよ」


 視線を、そっと落とす。山吹は食器に手を伸ばすこともできずに、ただただ瞳を伏せた。

 黙ってしまった山吹を見て、なにを思ったのか。桃枝はさもなんてことないように、会話を続けた。


「不謹慎だと分かってはいるんだが、夜中に俺がいないだけでベソをかく程度には好かれているんだと分かって、気分はいいがな」
「むっ。酷いです、課長。ボク、ホントに怖かったんですからねっ?」

「あぁ、悪かった。……お前は相変わらず、拗ねた顔も可愛いな」
「もうっ! イジワルな課長はイヤですっ! そういうサディスティックなのはベッドの上だけにしてくださいっ!」

「くっ! だから俺はサドじゃねぇって何度も言ってるだろうが……!」


 なんてことない、いつもの日常だ。山吹は思わず、ホッとする。

 桃枝も言っていた。『大丈夫だ』と。だから、なにも心配するようなことなんかないのだ。

 ……なのにどうして、ハッキリとそう割り切れないのか。山吹はフォークで目玉焼きの黄身を潰して、そう考えた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

君と僕の関係は罰ゲーム

くすのき
BL
小学生の時、幼馴染の発した自分との関係性を聞いてしまった十都棗(とそなつめ)は、彼に頼らない人間になる事を決意して生きてきた。でも大学生となったら、まさかその幼馴染と再会し、しかもお隣さんになっていた。 彼は僕の事を親友と呼ぶが、僕はそのつもりはなくて……。 陽キャ✕陰キャ

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

処理中です...