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1章【運命的で偶発的、されど必然的な出会い】
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しおりを挟む松葉瀬の耳元に、矢車は唇を寄せた。
『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』
不意に。
矢車から、甘い香りが漂った……気が、した。
矢車はやはり、松葉瀬がアルファだということを知っている。
だというのに……その態度は、どこまでも毅然としていた。
――だからこそ、松葉瀬にとっては気に食わない。
『……ついて来たいなら、好きにしたら?』
頼んでいた酒を、一気に呷る。
そして、松葉瀬は立ち上がった。
宴会場を後にする松葉瀬に、矢車はついて歩く。
その表情は……自己紹介の時と変わらず、笑顔だった。
松葉瀬にとって、オメガの知り合いは矢車だけ。
矢車以外のオメガを、松葉瀬は知らない。
――だからこそ、侮っていた。
『あはっ! センパイってぇ、意外とせっかちさんなんですねぇ?』
ホテルに連れ込み、ベッドに押し倒された矢車が、煽るように囁く。
『もっと慣れてる感じで、余裕綽々って顔するのかと思ってたのに……ふふっ、オスくさい表情ですねぇ?』
オメガからは、アルファを誘うフェロモンが漏れている。
そんな話を、松葉瀬はどこかから……あるいは誰かから、聞いていた。
しかし、実際のオメガは……想像以上だったのだ。
『んっ、や……センパイ。いきなり脱がそうとするなんて、マナー違反ですよ……っ?』
矢車が着ていたスーツに手をかけ、松葉瀬は乱暴に脱がしていく。
それでも、矢車は笑顔だ。
『今日の新人歓迎会に行く前……ボク、家で準備してきたんです。……何の準備か分かりますかぁ?』
ワイシャツのボタンを外していた松葉瀬の手を、矢車は掴む。
そして、自分の臀部へと引っ張った。
『ココの、準備ですよ』
今から、矢車は――オメガが、アルファに抱かれる。
だというのにどうして、矢車は笑顔なのか。
――オメガのくせに、気色悪い。
松葉瀬の仮面が剥がれるのには、十分すぎる理由だった。
『――お前、こういう経験……ないワケじゃねェんだろ』
社内の誰も知らない、松葉瀬の本性。
粗暴で、乱暴。オマケに粗悪で口が悪く、傲慢なその態度。
松葉瀬は素の自分を、隠すことなく矢車へぶつけた。
『お前も知ってる通り、俺はアルファだ。そして、お前はオメガ。……お前は今、アルファと一つのベッドにいるんだぞ。身の危険とか、そういうモン……感じねェのかよ』
臀部に引かれていた手を、矢車の首筋へ伸ばす。
そして……矢車のうなじを、撫でた。
『――お前、他に番でもいるのか』
アルファは、オメガのうなじに咬みつく。
それはただの暴行ではなく、強く、重い意味を成す行為だった。
――結婚なんて、生ぬるい。
――相手の為なら命を捧げることすら、惜しくない。
――そんな、死よりも重い契約を意味する行為だ。
うなじに咬みついたアルファと、咬みつかれたオメガ。
その二人の関係性を……世間では【番】と呼んだ。
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