スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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1章【運命的で偶発的、されど必然的な出会い】

3

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 自分がオメガだと、課内の職員全員に告白した。

 それはつまり、自分が周りよりも下等な劣等種だという告白。

 ――正気じゃない。

 話したこともない、矢車菊臣という男。

 その第一印象は、松葉瀬にとって……プラスのものではなかった。


『オメガ……?』
『うそ……? 矢車君って、オメガだったの?』
『マジかよ……俺なら耐えられねぇ』


 驚いたのは松葉瀬だけではない。
 周りの職員、全員だ。

 だというのに、渦中の矢車だけは。


『皆様にとって足手まといになるかもしれませんが、よろしくお願いしまぁす』


 ――笑顔だった。


『何ですかぁ? この、腫れものに触れるような空気? ……悲しいなぁ。ボク、特別扱いされたくて言ったワケじゃないですのにぃ』


 ヘラリと笑う矢車は、自己紹介を終えるとその場にストンと座る。

 矢車が座っているのは、松葉瀬の隣。

 職場では猫をかぶっている松葉瀬でも、さすがにポーカーフェイスを気取れなかった。

 その後の挨拶で、重苦しい空気に耐えかねた新入社員が『ベータです』なんて言っていたけれど、そんなことは松葉瀬にとってどうでもいい。

 ――オメガは、劣等種で可哀想な存在。

 ――オメガだと診断された人の中には、世間からの目に耐えられず、自ら命を絶つ者もいるという。

 ――なのに、矢車はどうだ?


『……あれ、目が合った。にこっ!』


 あっけらかんとした様子で自分の弱みを暴露し、あろうことか笑っている。

 松葉瀬がアルファだということを、知らない職員はいない。

 いくら新入社員でも、松葉瀬の第二性を知らないわけがないのだ。

 ――何で、アルファの隣に座って笑っている?

 松葉瀬にはどうしたって、矢車という男が理解できなかった。

 アルファである自分を慰める、唯一の存在。……それが、オメガ。

 だというのに、初めて見たオメガは……あまりにも、勇ましい。

 ――矢車菊臣は、イレギュラーな存在。

 隣に座る男のことを、松葉瀬はその一言で片づけた。





 それから、空気を持ち直した新人歓迎会は順調に進んだ。

 ガヤガヤと盛り上がる会場内で、松葉瀬は内心、疲弊していた。

 声をかけられても、最終的にはアルファの話題。

 そのことに、辟易していたのだ。

 ――いっそ、自分が抜けたところで誰も気付かないのでは。

 そう考えた松葉瀬の腕に、ある人物がすり寄った。


『――ねぇ、松葉瀬陸真センパイ?』


 ずっと隣に座っていた、矢車菊臣だ。


『センパイって、アルファ……なんですよね? ボク、アルファの知り合いって少なくて……ちょっと、ドキドキしてます』


 矢車はそう囁き、松葉瀬の膝に手をのせた。


『センパイ、カッコいいですよね。……番とか、もういるんですか? もしいないなら……ふふっ。ボクなんてどうです?』
『は、ッ?』


 予想外の囁きに、松葉瀬は困惑する。

 しかし、矢車はそんなのどこ吹く風だ。


『――ボク、こう見えて後ろ……結構、こなれてるかもしれないですよ?』


 上目遣いで松葉瀬を見つめる矢車は……酒を、飲んでいない。

 つまり、これは。


『ねぇ、センパイ。……二人で、抜け出しちゃいましょ?』


 ――矢車からの、素直な誘いだった。




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