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1章【運命的で偶発的、されど必然的な出会い】
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しおりを挟む自分がオメガだと、課内の職員全員に告白した。
それはつまり、自分が周りよりも下等な劣等種だという告白。
――正気じゃない。
話したこともない、矢車菊臣という男。
その第一印象は、松葉瀬にとって……プラスのものではなかった。
『オメガ……?』
『うそ……? 矢車君って、オメガだったの?』
『マジかよ……俺なら耐えられねぇ』
驚いたのは松葉瀬だけではない。
周りの職員、全員だ。
だというのに、渦中の矢車だけは。
『皆様にとって足手まといになるかもしれませんが、よろしくお願いしまぁす』
――笑顔だった。
『何ですかぁ? この、腫れものに触れるような空気? ……悲しいなぁ。ボク、特別扱いされたくて言ったワケじゃないですのにぃ』
ヘラリと笑う矢車は、自己紹介を終えるとその場にストンと座る。
矢車が座っているのは、松葉瀬の隣。
職場では猫をかぶっている松葉瀬でも、さすがにポーカーフェイスを気取れなかった。
その後の挨拶で、重苦しい空気に耐えかねた新入社員が『ベータです』なんて言っていたけれど、そんなことは松葉瀬にとってどうでもいい。
――オメガは、劣等種で可哀想な存在。
――オメガだと診断された人の中には、世間からの目に耐えられず、自ら命を絶つ者もいるという。
――なのに、矢車はどうだ?
『……あれ、目が合った。にこっ!』
あっけらかんとした様子で自分の弱みを暴露し、あろうことか笑っている。
松葉瀬がアルファだということを、知らない職員はいない。
いくら新入社員でも、松葉瀬の第二性を知らないわけがないのだ。
――何で、アルファの隣に座って笑っている?
松葉瀬にはどうしたって、矢車という男が理解できなかった。
アルファである自分を慰める、唯一の存在。……それが、オメガ。
だというのに、初めて見たオメガは……あまりにも、勇ましい。
――矢車菊臣は、イレギュラーな存在。
隣に座る男のことを、松葉瀬はその一言で片づけた。
それから、空気を持ち直した新人歓迎会は順調に進んだ。
ガヤガヤと盛り上がる会場内で、松葉瀬は内心、疲弊していた。
声をかけられても、最終的にはアルファの話題。
そのことに、辟易していたのだ。
――いっそ、自分が抜けたところで誰も気付かないのでは。
そう考えた松葉瀬の腕に、ある人物がすり寄った。
『――ねぇ、松葉瀬陸真センパイ?』
ずっと隣に座っていた、矢車菊臣だ。
『センパイって、アルファ……なんですよね? ボク、アルファの知り合いって少なくて……ちょっと、ドキドキしてます』
矢車はそう囁き、松葉瀬の膝に手をのせた。
『センパイ、カッコいいですよね。……番とか、もういるんですか? もしいないなら……ふふっ。ボクなんてどうです?』
『は、ッ?』
予想外の囁きに、松葉瀬は困惑する。
しかし、矢車はそんなのどこ吹く風だ。
『――ボク、こう見えて後ろ……結構、こなれてるかもしれないですよ?』
上目遣いで松葉瀬を見つめる矢車は……酒を、飲んでいない。
つまり、これは。
『ねぇ、センパイ。……二人で、抜け出しちゃいましょ?』
――矢車からの、素直な誘いだった。
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