スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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1章【運命的で偶発的、されど必然的な出会い】

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 彼女から告げられた、悪意のない言葉。

 あの日から、松葉瀬は変わってしまったのかもしれない。

 ベータを見下し、心の中で罵倒し、邪魔だと切り捨て、払いのける。

 けれど、松葉瀬がどれだけ他人を見下したところで……寄ってくる虫は減らなかった。

 ――アルファというだけで、他人は寄ってくる。

 そうして初めて、松葉瀬は【アルファ性】がどういうものなのか。そして、いかに魔性の存在なのか……痛感した。

 他者を拒むだけでは、なにも変わらない。
 そう考え直した松葉瀬は、あえて自分に仮面をつけた。

 ――人に好かれる、完璧なアルファという仮面を。


『松葉瀬さん、お先に失礼します』
『はい、お疲れ様です。……今日は雨が降ってますから、帰りは気を付けてくださいね?』


 声をかけられれば、美しく微笑み。


『松葉瀬、今いいか? ちょっと、仕事を頼みたいんだが』
『勿論ですよ、主任。いつでも相談してください』


 頼られたら、嫌な顔一つ浮かべずに助け。


『どうしよう……全然うまくいかない』
『どうしたんですか? ……あぁ、コピーの倍率ですか。意外と難しいですよね、この設定』


 困っている人に、手を差し伸べる。

 そんな、万人が求める完璧なアルファに。

 それでも……松葉瀬は不意に、許容できないほどの苛立ちを抱える日があった。

 その度に、松葉瀬は考えるのだ。

 ――ベータでも、アルファでもない、もう一つの性。

 ――オメガじゃなかっただけ、自分はマシだ……と。

 アルファより、更に希少。
 なのに、どの性別よりも劣等種で、立場も地位も低い存在。

 それが【オメガ】という存在。

 不出来な存在という、拭い去れない汚点でしかない証。


『陸真、おめでとう! アルファですって、アルファ!』
『父さんも母さんも、鼻が高いぞ! 陸真は自慢の子供だ!』


 純粋に、アルファは凄いと。

 そう思っていた幼少期の松葉瀬にとって、オメガは対照的に。

 ――ただただ、可哀想な存在だった。

 それは大人になってからも変わらず、松葉瀬の価値観に居座り続ける。

 その考えは一生変わることなく、松葉瀬にとって唯一無二な心の支え。

 ――そうである、はずだった。

 ――そうでなくては、ならなかったのだ。

 その価値観が揺らぎ始めたのは……去年の四月に行われた、新人歓迎会。

 そこで意気揚々と挨拶をした。


『四月から入社しました、矢車やぐるま菊臣きくおみです。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』


 ――矢車菊臣との、出会い。

 ――それが、松葉瀬の心を大きく揺さぶったのだ。




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