スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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3章【大乗的にはなれない、威圧的なアルファ】

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 脳内で、女性職員を数回、ナイフで刺す。

 そんな妄想で何とか自分自身を宥めつつ、松葉瀬は返答する。


「まさか。後輩は後輩です。オメガとか、そんなことは関係ありませんよ」
「ヤッパリ、アルファは言うことが違いますね!」
「うんうん! オメガにも優しいだなんて……カッコいいです!」


 握っていた箸を折ることなんて、松葉瀬にとっては容易だった。

 あと一言。なにかを言われたら、確実に折る。

 怒りに駆られた松葉瀬は、返答に間を置いてしまう。

 すると、話題の人物が介入してきた。


「――ちょっとぉ? 女の人でも、セクハラですからねぇ?」


 いったい、どこから聞いていたのか。

 話題の人物……矢車はそう言って、女性職員に笑顔を向けている。


「あ、矢車君……っ」


 途端に、女性職員の表情が曇った。


(アルファには申し訳ないと思わなくて、オメガにはそう思うのかよ……)


 松葉瀬は内心で、盛大に舌打ちをする。


(まぁ、同情されるなんてまっぴらごめんだけどな)


 話題の矛先が自分から逸れた隙に、松葉瀬はサッサとコンビニ弁当を食べ進めた。


「ち、違うのよ、矢車君! 今のは、悪口とかじゃなくて……っ」
「分かってますってばぁ」


 矢車はケタケタと笑いながら、松葉瀬が座る椅子の背もたれに腕を載せる。


「でも……もしもボクが、本気でセンパイを狙ってたらぁ? そういう横やりは、フツーに失礼ですよぉ?」
「「え……っ?」」
「なぁんてねっ! 冗談ですよぉ?」


 女性職員に対して、思うところがあったのか。

 それとも純粋な、松葉瀬に対する当てつけなのかは……松葉瀬にも、分からない。

 女性職員の呆気にとられた表情。それで満足したのだろう。

 矢車は上機嫌そうに、松葉瀬が座る椅子の背もたれを揺する。


「ちょっと、矢車君? 俺、今、ご飯食べてる最中だから――」
「オメガのボクも食べますか、セ~ンパイっ」


 聖人の仮面をつけたまま、松葉瀬は後ろに立つ矢車を見上げた。

 それが愉快なのか、それとも滑稽なのか……矢車はわざと、松葉瀬を挑発する。


(この、腹黒ヤローが……ッ)


 わざと、松葉瀬は悲しそうな表情を作った。


「ごめんね、矢車君。……俺はそういう冗談、あんまり笑えない」
「ふふっ、ですよねぇ? ヤッパリ、センパイは分かってくれますよねぇ?」


 矢車は今すぐにでも、松葉瀬に抱き着かん勢いだ。

 松葉瀬は内心で中指を立てつつ、空になったコンビニ弁当の容器を持って立ち上がる。


「それじゃ、俺はここで失礼します」


 ゴミを捨てに行くという免罪符を掲げて、松葉瀬は会話から離脱した。

 その後ろを、誰もついてこない。


(――なにが『オメガに惹かれるんですか』だ……ッ! ふざけんなよ、クソメス共がッ!)


 思わず、箸をへし折る。

 しかしその様子を注視している者は、誰一人としていなかった。




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