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6章【連鎖的に解明される、犠牲的な後輩への想い】
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しおりを挟む――やはり、自分はおかしくなってしまったのか。
翌日の、就業時間中。松葉瀬は激しい絶望感に襲われていた。
(この絶望……どこが快感に繋がるのか、マジでちっとも分からねェ……)
昨晩。
松葉瀬は……お互いが満足するまで、矢車を抱き潰した。
いつもなら何の後腐れもなく、翌日を迎える。今回も、その筈だった。
しかし朝を迎えてから、松葉瀬は気付いたのだ。
――昨日の性交は、苛立ちによるものではなかった……と。
(不覚にも、あのクソヤローを……か、わいい……と、思って? それで、アイツが勝手に一人で発情したから……その空気に便乗してやった、んだよな……?)
こんなこと、松葉瀬らしくない。
内心驚愕しながら、松葉瀬は仕事を進める。
そんな中……松葉瀬のデスクに、一人の男が近付いてきた。
「松葉瀬」
それは、茨田だ。
茨田がオメガだと診断されてから……松葉瀬単体に声をかけてきたのは、おそらく初めて。
「これ、決裁の終わった書類。……それとさっき、書庫に行っていただろう? 鍵を貸してほしいんだが……今、使ってもいいか?」
「あ、すみません。全然大丈夫です」
ポケットの中に鍵を入れたままだったと反省し、松葉瀬は鍵をすぐに、茨田へ手渡した。
(必要とあらば声をかける……って感じか)
ほんの少しだけ、以前のように戻れた気がして……松葉瀬は、安堵する。
――それ故に、油断した。
「もしかして、来週の監査で使う書類を探すんですか? 良ければ俺、探してきましょうか?」
完璧な笑みを向け、愛想よく提案をする。
――だからこそ松葉瀬は、予想していなかったのだ。
「――酷いな、松葉瀬。……オメガの私だって、書類を探すくらいはできるんだぞ?」
――そんな、辛辣な言葉を向けられるだなんて。
茨田は困ったように、微笑んでいる。
しかし……松葉瀬に向けられた言葉は、どこまでも悲し気だ。
(……は、ッ?)
あまりにも、予想外な言葉に。
松葉瀬は……理解が、追い付かなかった。
無論……松葉瀬には茨田を蔑むだなんてそんな意図、ある筈ない。
ただ純粋に、いい部下として……お人好しの演技。その一つとして、雑務に対する手伝いを提案をしただけ。
それなのに……返ってきた答えは、あんまりだった。
静かな事務所では、二人の会話は当然、筒抜けだ。
――周りが途端に、ザワザワと小声で会話を始める。
(……何で、だよ……ッ?)
茨田のことを軽んじたつもりなんて、全く無い。
いい部下として、尊敬する上司の為に動こうとしただけ。
それ以外の他意は、本気で無かった。
(アンタがオメガじゃなかったら、笑って俺に頼むとか……丁重に断るとか、してただろォが……ッ!)
たかが、オメガとアルファ。
結局は性別の違いなのだ。本当に、たった……それだけ。
――【たったそれだけ】のことが、あまりにも、重たい。
「……すみません」
松葉瀬はそれだけ言い、茨田から視線を外した。
パソコンに向き直り、ほんの少しだけキーボードを叩き……目を閉じる。
(――矢車)
不意に浮かんだのは、自分に懐いてくる……後輩の笑顔だった。
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