スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
82 / 89
後日談【一般的とはほど遠い享楽的な休日】

2

しおりを挟む



 松葉瀬はスマートフォンの画面を睨み、考える。

 この面倒なやり取りを終わらせる手っ取り早い方法は、ひとつだけ思い浮かぶ。それは、矢車に『家に来い』とメッセージを送ることだ。

 しかし、松葉瀬は元来プライドが高く、尚且つ他人のために動くことを好まない人間だった。
 ゆえに、考える。『なぜこの俺が、こんな奴のためにそこまでしてやらなくてはいけないのか』と。

 会いたがっているのは、あっち。そして、家に来たがっているのもあっちだ。
 ならば素直に『会いたい』と言い、そして『家に行ってもいいですか?』と申し立てをするのが人としてのマナーだろう。

 ……それと、その方が純粋に松葉瀬の気分がいい。

 なので松葉瀬は、素直にならない矢車からのメッセージを無視することにした。

 スマートフォンを枕元に置き、松葉瀬は普段と同じように一時間の睡眠を貪ろうと、目を閉じる。

 だが、矢車は【面倒な男】だった。


「……あァ、クソッ。ウゼェな、マジで……ッ!」


 突如としてまた、スマートフォンが踊り狂い始めたのだ。

 何度も振動するスマートフォンに手を伸ばし、松葉瀬はメッセージ画面を開く。相手は当然、矢車だ。


『ちょっとセンパイ!』
『まさか、この期に及んで二度寝をするつもりですか?』
『社会人としてそれは恥ずべき行為ですよ?』
『ヤッパリ、センパイはバブちゃんですね!』
『子守歌でも歌ってあげましょうか?』
『こう見えてボク、音楽の成績は真ん中よりもちょっと上でしたよ?』
『まぁ、センパイなんかのために歌ってあげたいとはカケラも思いませんけど』
『でもでも、そうですね~?』
『センパイがお望みでしたら、一回くらい歌ってあげますよ?』
『ボクってば健気な後輩だな~』
『惚れ直しました?』

「──好感度が下がる要因しか見当たらねェんだわ」


 松葉瀬はスマートフォンを睨み付け、独りごちる。
 そうして既読をつけるとまたメッセージが止むのだから、やはり面倒な後輩は手に負えない。

 今までの松葉瀬ならば【通知設定をサイレントにし、二度寝】が最適解だった。そして当然、そうしただろう。

 ……だが、それは相手が【ウザったい後輩】の場合だ。


「クソイカれビッチが……ッ」


 今の松葉瀬と矢車の関係性は、違う。

 ──今の矢車は【恋人】なのだ。

 松葉瀬はスマートフォンを手にし、トントンと画面を叩く。
 すると、軽快な音が鳴り始めた。

 楽し気な音を鳴らすスマートフォンを、松葉瀬は耳に当てる。
 するとすぐに、音が途切れた。

 それと、同時。


『センパイ? 電話なんてかけてきて、いったいどうしたんですかぁ?』


 スマートフォンから、矢車の声が聞こえてきた。
 松葉瀬は眉を寄せつつ、口を開く。


「どこぞのアホがウルせェからかけてんだよ、分かれや。人の安眠を妨害しやがって、どう落とし前つけるつもりだ、あァッ?」
『あれれっ、おかしいなぁ? ボク、借金取りの電話に応じたつもりはなかったんですけどぉ?』
「こちとら貸してもいねェのに返済された気分なんだわ。理由のねェ押し付けならやめろ、迷惑だ」
『ひっどい! いたいけな恋人からのメッセージを迷惑だなんて、センパイって人間のクズですぅ!』
「睡眠の邪魔をしてきた奴の方がよっぽどクズで悪辣で下劣だわ、ボケ」


 キャンキャンと吠える矢車は、どことなく拗ねているような口調だ。
 ……しかし、松葉瀬には分かる。


「はぁ……っ。……テメェ、どんだけ俺のこと好きなんだよ。口角上げんな、叩き潰したくなる」


 矢車が心底、嬉しそうにしているということが。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壊すほどに、俺はお前に囚われている

氷月
BL
【後輩と先輩、交錯する心と体】 春、新学期の大学キャンパス。 4年の蓮(レン)は、人気者らしく女子に囲まれながらも、なぜか新入生・七瀬巧(タクミ)の姿を探してしまう自分に気づいていた。 彼は去年の秋、かつて蓮が想いを寄せていた男の恋人の友人として出会った相手。 ――まさか、この俺様が、また男に惹かれるなんて。 否定しようとすればするほど、目はタクミを追ってしまう。 無邪気に笑う顔。ふと見せる真剣な横顔。 先輩と後輩、互いに抗えない感情に囚われながら、夏の学園を駆け抜けていく――。

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

必要だって言われたい

ちゃがし
BL
<42歳絆され子持ちコピーライター×30歳モテる一途な恋の初心者営業マン> 樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。 そんなしがない中年オヤジの俺にも、気にかけてくれる誰かというのはいるもので。 ひとまわり年下の後輩営業マン麝香要は、見た目がよく、仕事が出来、モテ盛りなのに、この5年間ずっと、俺のようなおっさんに毎年バレンタインチョコを渡してくれる。 それがこの5年間、ずっと俺の心の支えになっていた。 5年間変わらずに待ち続けてくれたから、今度は俺が少しずつその気持ちに答えていきたいと思う。 樽前 アタル(たるまえ あたる)42歳 広告代理店のコピーライター、通称タルさん。 妻を亡くしてからの10年間、高校生の一人息子、凛太郎とふたりで暮らしてきた。 息子が成人するまでは一番近くで見守りたいと願っているため、社内外の交流はほとんど断っている。 5年間、バレンタインの日にだけアプローチしてくる一回り年下の後輩営業マンが可愛いけれど、今はまだ息子が優先。 春からは息子が大学生となり、家を出ていく予定だ。 だからそれまでは、もうしばらく待っていてほしい。 麝香 要(じゃこう かなめ)30歳 広告代理店の営業マン。 見た目が良く仕事も出来るため、年齢=モテ期みたいな人生を送ってきた。 来るもの拒まず去る者追わずのスタンスなので経験人数は多いけれど、 タルさんに出会うまで、自分から人を好きになったことも、本気の恋もしたことがない。 そんな要が入社以来、ずっと片思いをしているタルさん。 1年間溜めに溜めた勇気を振り絞って、毎年バレンタインの日にだけアプローチをする。 この5年間、毎年食事に誘ってはみるけれど、シングルファザーのタルさんの第一優先は息子の凛太郎で、 要の誘いには1度も乗ってくれたことがない。 今年もダメもとで誘ってみると、なんと返事はOK。 舞い上がってしまってそれ以来、ポーカーフェイスが保てない。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~

大波小波
BL
 鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。  彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。  和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。  祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。  夕食も共にするほど、親しくなった二人。  しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。  それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。  浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。  そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。  彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

処理中です...