眠そうな令嬢は最強です。

あさり

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王都の西、封印の森。
魔物が多く生息し、誰も近づかぬその奥――静寂の中心に、ひとりの女が立っていた。

白銀の長髪が風にたなびき、深紅のドレスが大地をなでるように揺れる。
長いまつげ、薄く笑う唇。
見る者すべてを魅了し、同時に震え上がらせるほどの――“圧倒的存在感”。

「……ふふっ、懐かしい匂い。
どうやら、愛娘がまた何かやらかしてるようねぇ」

その女の名は、マティルダ・アルディネ。
レティシアの母にして、かつて『赤き魔女』と呼ばれ、王国の貴族すら頭を垂れた“伝説の魔術師”。

――いや、今も現役だ。
ただ貴族どもの陰謀に飽き、魔物討伐を理由に貴族社会から引退。
趣味で陶芸とお菓子作りに目覚めていただけ。

「あの子、意地っ張りで可愛いとこあるからねぇ……フフ、私に似ちゃったかしら?」

マティルダは腰に手を当て、ケラケラと笑う。

その瞬間――

空間がひしゃげた。

“何か”が彼女の気配に反応して逃げ出したのだ。
魔物すら本能で察知し、全速力で“退避”するほどの、無意識の威圧。

「わぁ、また空間ひび割れちゃった。
ちょっと魔力出しすぎちゃったかしら。えへ」

彼女はまるで他人事のように笑いながら、ワインを片手に歩き出す。

「そろそろ愛しいダーリンの元へ帰ろうかしら。」



そして――


王宮では、突然姿を消したレティシアを捜索していた騎士団・魔術師団に事情を説明し、国王と宰相、そしてアレクシスと今後の方針について話し合いをしていた。
が、そのとき。


「やっほ~、娘ちゃん♪」

「……」

扉をぶち抜いて、母が現れた。

「……は?」

「え? なんでそんな顔してんの。ママよ、ママ。マ・テ・ィ・ル・ダ!」

「……なにしてんの、」

「あ~ん、娘に冷たい~。アレクくん、久しぶり~。大きくなったねぇ!」

「え? あ、あの、はじめまして……?」

「あらまぁ、忘れちゃった? 赤ん坊の頃あなた、私の髪の毛しゃぶってたのよぉ~♪」

レティシアは額を押さえていた。

「……これが、私の母です。最強にして最悪。
私がどうにかならない、唯一の“脅威”」

「ちょっとぉ、褒めてんの? それとも呪ってんの?」

「両方よ。てか何の用。」

マティルダはくるりと笑い、娘の髪をくしゃくしゃに撫でた。

「“過去”が動いたみたいだからね。――向き合う時が来たってことよ」

そしてその目は、ふと鋭くなる。

「――“魔王の片鱗"の封印が弱まってきちゃたよ」

静寂。

それは、ノクターンすら恐れた“古代の闇”。
かつてマティルダが国の要請を受け、封印した“存在”――

「え、聞いてないんだけど」

「だって、話すと止めに来るじゃない。だから勝手に封印しといたの。
楽しかったわよ~。一人で戦って、一人で封印して、一人でケーキ食べて。孤独って最高~♪」

「……マジでこの女、敵よりタチ悪い」


「えっと……陛下、このご婦人は――」

「あれは“国家戦略兵器”じゃ。敵に回してはならぬ。」


王も困惑していた。
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