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第四章
第四十六夜 【我慢くらべ】
しおりを挟む「……で、なにこの状況」
「何度も言わせんな。正確かつ詳細な情報収集の一環だ」
11時半。一階の新造寝屋にて、ひと組の布団の前に立たされているのは朱理と吉良である。その横では黒蔓が腕組みをして仁王立ちだ。
「だからって、なにこれ」
「お前が、神々廻のナニがデカ過ぎて問題あるとか、昼見世は身上がりしたいとか言うから、どんだけのモンなのか確認すんだよ。此処じゃ、此奴が一番デカいからな」
にやりと口角を上げる黒蔓は、明らかに楽しんでいる。
「あんたね……俺ら一応、大事な商品よ? 暇つぶしの玩具じゃねぇの。こんな事出来るかよ。なぁ? 吉良」
「えーっと……まぁ、だいぶ複雑な気分っすね……」
「なにも最後までやれって言ってんじゃねぇんだ。ちょっと勃たせて、サイズの比較するだけで良い」
「そんなもん、昨日の映像で確認すりゃ良いじゃん! どうせ未だ録画残ってるんでしょ?」
「さっき確認してきたが、角度と解像度が悪くて、あんま分かんなかったんだよ」
「ぱっと見で良いだろ! 大体分かるでしょうが!」
「それじゃ、正確な情報とは言えねぇだろ」
「言っとくけど、俺だってじっくり見た訳じゃないし、触ってもないからな。吉良がどうだろうと、比べらんねーよ」
「はあ? ったく、しょうがねぇな。なら、挿れた感じで判断しろ」
「はぁぁあああ──!!!!!!!!????????」
恐らく大玄関にまで響いたであろう朱理と吉良の絶叫に、黒蔓は思いきり顔を顰めて舌打ちした。
「五月蝿ぇなぁ。俺だって苦渋なんだよ、我慢しろ」
「なにが苦渋かっ! 身上がりしてまで休みたいっつってんのに、なんだ、挿れろって! そもそも、そんなの吉良が無理だろ!!」
「…………」
「まんざらでも無さそうだぞ」
「嘘だろオイ。いや、まじで、ちょっと待って。冗談だよね? 一旦落ち着こうよ、ね、黒蔓さん」
「冗談なワケねーだろ、落ち着いてるわ。これも仕事のうちだ」
「ええ……そんなに詳細な情報が必要? ここまでするほどに?」
「まあ、今後の付け廻しの問題点が、サイズだってんならな。お前が言い出した事だろ」
「二度と通すなとは言ってないでしょうが! 頻度を減らしたいって言っただけで、こんな事までやらせる!? あんなに無理するなって言ってた癖に、ちょっと話がおかしくないかなぁ!?」
「相手が相手だからな。お前も、手駒にしたいと思う程度には、重要視してるんだよな? 幸い、彼処さんは大層、気に入ったらしく、今日の昼見世に予約入ってんだわ。それを身上がりしてキャンセルするとなると、相応の理由と説得力がねぇとなー」
うぐ、と言葉に詰まった朱理は唇を噛み、暫しの沈黙の後、絞り出す様に言った。
「……分かった、もう良い……。昼見世に出る……」
「ほーお、流石にお前はお利口さんだなぁ。吉良の方がデカかった時の事を想定したか」
「仰る通りだよ! もしそんな事になったら、まじで身が持たねぇ! 万が一の地獄より、昼出たほうがまだマシだわ! なんとかして、床入りしない流れに持っていけば──」
怒り心頭で座敷を出て行こうとした朱理の腕が、がっしり掴まれる。
「駄目だ。ちゃんと確認して報告しろ。もし吉良の方がデカくても、きっちり報告すりゃ、昼見世は許してやる」
「は? 何の為に?」
「吉良の教育にもなるし、情報も得られる。一石二鳥だからだ」
「ぅぎゃっ!!!!」
黒蔓はそう言って朱理の腕を引き、あっさり布団へ転がした。余談だが、黒蔓には柔術の心得がある。
「おい吉良、さっさとやれ」
「い、いやぁー、ちょっと……これは流石にやりづら……」
「いーから早く」
「うぉわっ!!!!」
朱理が逃げ出す間も無く、黒蔓に蹴飛ばされた吉良が馬乗りになる。
「ちょ……ちょっと待って……。嘘だろ吉良……まさか、やんないよね……?」
「……っ」
「き、吉良……? ねぇ、やだ……やめて……? お願いだから……」
半分脱げかかった襦袢から覗く白い肩、鎖骨、胸元。太腿の付け根あたりまで肌蹴た裾。
加えて潤んだ瞳、弱々しく震える声で切なげに訴えられ、普段とのあまりのギャップに、吉良の変なスイッチが入った。
「……すいません、朱理さん!! 優しくしますから──ッ!!!!」
「ひぃッ」
と、叫んで朱理へ飛び掛かった吉良の襟首がぐいっと掴まれ、背中から畳へ引き倒された。すかさず下着が降ろされ、携帯の連写モードの撮影音が座敷に響き渡る。
吉良の襟首を捕まえたのは、怒りを通り越して呆れ返る冠次だった。
「はーっ……本当に馬鹿だよな、てめぇは。何が優しくしますだ。あっさり乗せられてんじゃねーよ」
「か、冠次、さん……?」
「おー、綺麗に撮れたわ。これでしっかり比較できるな。もう起きて良いぞ、朱理」
「うあー、怖かった。まじでやられるかと思ったわ」
「俺が止めてなかったら今頃、確実に剥かれてたぜ」
「……え? なに、これ……」
「吉良、後で折檻な。冠次も連帯責任だ」
「は? 何でだよ。俺は関係ねぇだろ」
「関係なくねーわ。兄貴は弟分の責任を負うもんだろ。あれしきの誘惑で崩壊する理性の脆さは、お前の教育が悪い所為に他ならねぇからな」
「くっそ……」
さっさと布団から這い出た朱理は気怠げに着物の乱れを直し、冠次は不満丸出しで舌打ちしたきり黙り込んだ。
黒蔓は淡々と携帯を操作して、撮った写真を見張り方のPCへ送信している。
未だに状況が把握できていない吉良は、その場にへたり込んだまま固まっていた。そんな吉良を、朱理が覗き込んで声をかける。
「おーい、吉良ー。大丈夫かー? 帰ってこーい」
「……何なんすか、一体……」
「まぁ、抜き打ちテストみたいなもんだよ。上手は如何に誘惑を躱せるか、下手は如何に相手を思い通りに動かせるか、ってね。この仕事の必須スキルだから、突き出し後の新造はもれなく全員、やらされるってワケ」
「テスト……? って事は、さっきの遣り取りは全部、嘘だったんですか……?」
朱理は無造作に髪をかき上げ、首を傾げた。
「いや、半分は本当。神々廻のがエゲツなくて黒蔓さんに相談したら、テストも兼ねてお前を誘惑しろって言われたんだよ。勃ったら写真撮って映像と比較するって」
「じゃあ、最初から、致すつもりじゃなかったと……?」
「当たり前だ、阿呆かてめぇは」
じろりと吉良を睨む黒蔓に、冠次は諦めた様に煙草へ火を点けて嘆息した。
「ったく、真実混ぜ込んでくる嘘吐きはタチ悪ぃぜ。ま、この二人にやられたんじゃ、引っ掛かっても仕方ねぇわな。運が悪かったとしか言えねぇよ」
「いやいや、待て待て。俺は合格させる方向で進めてたって、まじで。あんなあざとい演技で勃つなんて、夢にも思わなかったもの」
「いや勃つだろ、バキバキだろ。いい加減に自覚しろよ、自分の破壊力」
「五月蝿いなー。元気なのは冠次の弟だからだろ。どんまい、吉良。次は頑張れよー」
朱理にぽんと肩を叩かれた数秒後、漸く状況を理解した吉良の絶叫が、朝の万華郷にこだましたのだった。
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