万華の咲く郷【完結】

四葩

文字の大きさ
96 / 105
第八章

第九十二夜 【弁明ヴィヴァルディ】※

しおりを挟む

 14時過ぎ。仲の町通りを上機嫌に歩く神々廻ししばの隣には、例の如く朱理しゅりがべったりと肩を抱かれていた。

「んんーっ! 久し振りに朱理ちゃんとお散歩っ、うっれしーいなーっ!」
「いくらなんでも、ちょっと浮かれ過ぎじゃない? 四十路よそじ男がスキップとか辞めてよ、恥ずかしい」
「だって何ヶ月振りだと思ってんの!? この前の喪服姿で俺、3回は抜いたんだからね!」
「なにとんでもないカミングアウトかましてんだ、コラ。百歩譲って抜くのは良い。けど、それを本人に言うな」
「あ、抜くのは良いんだ」

 数ヶ月振りに登楼して来たかと思えば、相変わらず奔放な神々廻に、朱理は思い切り顔をしかめている。

「まったく……アンタも相当、デリカシー無いよね。それで、しばらく見かけなかったけど、どこで浮気してたワケ?」
「なになに? ジェラシー? かーわいーい」
「なにコイツ、うざい」
「アハハ、冗談だってぇ。浮気なんてしてないよー」
「嘘くさいうえに胡散くさい」
「いやいや、それは本当。大体、この吉原で大関おおぜき指名しといて、よその子なんてげたら、速攻で連絡行くでしょ」
「吉原で、ならな」
「あらら、意外と疑り深いのね、朱理ちゃんって。そんなとこも可愛いけど、誤解されるのは厭だからなぁ」

 神々廻はそう言って、ぱちり、と手に持っていた扇子せんすを閉じた。

「実は、前回の件で大旦那から外禁くらってたのさ。角海老かどえびに喧嘩売るとは何事だー、とかって、くっそキレられたんだよねぇ」
「うわー、想像以上にしょうもない理由で吃驚びっくりしたわ。爺様、心労で倒れるんじゃねぇの」
「いやー、まさかこの歳で説教されるとは、思ってもみなかったわ。陰間に通ってたのも一緒にバレたから、更に激怒された挙句の謹慎だったワケよ。本当、ついてないよねー」
「まぁ、半分以上は自業自得だからな。なんも言えねーわ」

 大袈裟にお手上げのポーズを取って見せる神々廻を横目に、朱理は深く嘆息した。

「ま、そーいうワケだから、まじで浮気はしてないの。信じてくれた?」
「はいはい、信じる信じる。って言うか、別にそこまでの興味も無いけどな」
「もぉー、相変わらず絶妙なツンデレが堪んないねぇ。可愛いすぎてやばい、超好き」
「誰がいつデレたんだよ。脳内お花畑さんめ」

 締まりの無い顔で抱き寄せられた朱理は、心底、厭そうに舌打ちする。
 行き交う人々は2人の様子をいぶかしげに見ており、朱理を更にげんなりさせた。そんなことは御構い無しに、神々廻は陽気な声を上げる。

「というワケで、お詫びと言っちゃ何だけど、今日は朱理ちゃんの行きたい所に行って、欲しい物は何でも買ってあげようと思いまーす!」
「完全パリピだな……。いや、世代的にバブルか……?」
「なにぶつぶつ言ってんの?」
「なんでもねーよ」
「それじゃ、まずどこ行きたい?」
「うーん、そうだなぁ……団子が食べたい。美味いみたらし」
「りょーかい。甘味、好きなの?」
「大好き。俺、超甘党だから」
「そうなんだぁ。じゃ、これからは差し入れに甘い物、持って行くよ。これでも俺、元営業だからさ。その手の情報には、ちょっと詳しいんだよねー」
「まじですか、神ですか、有難うございます」
「リーマン時代につちかったおみやスキルが、まさかこんな所で役立つとは思わなかったなぁ」

 神々廻の言葉に体を擦り寄せ、甘えた声を上げる朱理も朱理で、相変わらず現金な男である。
 そんなこんなで茶屋へ入り、注文した団子を頬張っていると、神々廻がおもむろにふところから小箱を取り出した。微笑みながら、すっと朱理のほうへ押し出す。

「なにこれ?」
「プレゼント。大した物じゃないけど、色々と迷惑かけたお詫び、的な?」
「まじ? 本当に気にしてないのに」
「いやぁ、たまたま見かけて、朱理ちゃんに似合いそうだなーと思ってさ。単純に付けて欲しいからさ」
「へぇ、意外と男前なこともできるんじゃん。開けて良い?」
「もちろん。開けて開けてー」

 おしぼりで手を拭き、シックな黒色の包装紙を開くと、なまり色の小箱が姿を現わす。蓋を開けて中身を見た朱理から、歓声が上がった。

「おおー! 良い感じのバングルじゃん! めちゃくちゃ好み!」
「でしょー? 朱理ちゃん、赤と黒って組み合わせ、好きだろうなと思ってさぁ。見つけたとき、これだーと思ったんだよねぇ」

 漆黒の楕円形で、留め具部分に赤い差し色を使ったクローズドバングルは、シンプルながらも作りの良さが際立っている。
 衣装を選ばない洒落た品に、朱理はすっかり見惚れた。

「つけてあげるよ」
「有難う、凄く良いよコレ! 神々廻さん、案外センスあるんだね」
「喜んでもらえて良かったー。朱理ちゃんは良い物いっぱい持ってるだろうから、こんな安物じゃ、がっかりされるんじゃないかと思ってたのよ」
「俺、このブランド好きだよ。ピアスも同じ所のだし」
「あ、そうだったの? 小さいから気付かなかった。やっぱり細部までこだわってるねぇ」
「こだわってるワケでもないけど、黒いアクセって滅多に無いじゃん? 金とか石付きとか、キラキラした派手なのは、あんまり好きじゃないからさ」

 そんな話しをしつつ、左腕に揺れるバングルを嬉しそうに眺める朱理に、神々廻も満足そうだ。
 しばし歓談した後、再び寄り添って茶屋を出ると、神々廻は耳元へ顔を寄せて囁いた。

「ねぇ、久し振りに座敷、上がって良い?」
「良いけど、夜に響かない程度にしてよ」
「分かってるってぇ。もし響いたら、責任取って夜は倍額で買ってあげる」
「要らねぇから、全力出す前提やめろ。あと、買うっての禁止。ここではげるって言え。まったく、大見世の楼主なら、いい加減それくらい覚えろよな」

 そうして朱理の座敷へとおもむき、襦袢じゅばん一枚になった頃には、神々廻はすっかりおすの顔になっていた。久し振りに見る欲情した表情に、ぞくりとする。
 相変わらず巧みな口付けに酔わされ、丁寧に後孔をほぐされる感覚に、快楽を拾って吐息が漏れた。

「あーあ……しばらく触んない間に、すっかり固く閉じちゃってる。吉原一番人気のくせに、本当、吃驚びっくりするくらい皎潔きょうけつな体だねぇ」
「そ、んなこと……っはぁ、ァ……ぅあっ……」
「すっごい甘い声。自分が今、どんな顔してるか自覚ある? 本当、寝屋ねやでは別人になるんだから、大したもんだよ」
「……るっさぃ……も、しゃべんな……ッ」
「相変わらず口が悪いなぁ。何から何まで俺の好みだよ、お前は」

 ずるりと指が抜かれ、代わりに当てられた物に、僅かな緊張が走る。何度経験しても、神々廻の凶暴なまでの質量には慣れず、厭でも身構えてしまうのだ。

「大丈夫、全部はれないよ。ゆっくりするから、力抜いて」
「……っ……ふ、ぅ……うぁ……あッ」

 慣らされたとはいえ、足りるはずも無く、更に押し拡げながら挿入はいってくるそれに体が強張こわばる。
 ある程度の所で止まった神々廻から、色気のある吐息が零れた。

「はぁ……すご、やっぱ最高だわ……。な、お前も気持ちいい?」
「ふ、っ、ぅあッ……ハっ……くるし……ッ……」
「苦しい? それだけ?」

 えぐるように腰を動かされ、白い喉がる。

「んん゙ッ、ぁ、ア゙ッ!! い゙ゃっ、やっ……待って……ッ!」
「んー? 本当に苦しいだけなら、さっさと動いて終わらせてあげようと思ったんだけど」
「ヒ、ィ゙ッ!! っゔ……ゃめてッ……い゙、やァっ!!」
「厭なの? でも苦しいんでしょ?」

 なぶるような神々廻の声音に、朱理は弱々しく首を横に振った。

「ぃ、い……ッから……! お願い……ゆっくり、して……っ!」
「ゆっくりが気持ちいい?」
「ンん゙っ!! はっ、ゔんッ……気持ちい……っ」
「俺のこれ、好き?」
「ぅ……ン……ッ! す、き……っ、すきィ……! っあ、ア゙ァッ!!」
「ほんと、お前はいじめ甲斐があって堪んないね」

 満足そうに笑って、神々廻は軽く口付けを落とし、ゆっくりと抽送を繰り返す。
 ずるずると引き出され、再びじわじわと挿入されて、徐々に突き入れられる深さが増していく。慣らされていく感覚に、腰の奥から快感が湧くのを自覚した。

「はッ……ぁ! ん、んンっ!! イ、ぃ……っ! ふか、ァ……あぁッ!!」
「はァ、すげぇ気持ち良い……。可愛いよ、朱理ちゃん……」

 やがて、後孔はすっかり神々廻の物を受け入れて馴染み、強く揺さぶられながらその背にしがみ付くと、吐息の合間に名を呼ばれる。
 そうして数ヶ月振りの房事ぼうじふける、晴天の昼下がりであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...