九段の郭公【完結】

四葩

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4章

44【媾合テンペスト】※

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「なあ、誰か璃津りつ見てないか?」
「確か午前中は外出って聞いてますけど」
「それは知ってるんだけど、まだ携帯繋がらないんだよな。もう昼過ぎてるってのに」
「オフィスには居なかったぞ。さっきメシ誘おうと思って見てきた」

 オフィスラウンジに顔を出した阿久里あぐりは、開口一番、丹生たんしょうの居所を問うた。相模さがみとのやり取りに、しれっと口を挟んできたなつめにイラついたが、なんとか堪える。

「みょうだな……。外出が長引くなら連絡来るはずだし……」
「じゃあ部長絡みじゃね?」
「いや、部長は会議中だから、それは無い」
「出たついでに現場行ってるんじゃないの? あの子、よくふらっと見回り行くし」
「そういう事は辞めるように言ったから、違うと思うんだけどな」
「なんか阿久里、急に厳しくなったな。ちょっと前まで、椎奈しいな以外にまったく興味なかったくせに」
「やっぱり補佐がつくと変わるものなのかね」
「あ、ああ……まぁな」

 つじ郡司ぐんじに苦笑を返し、腕時計を見る。14時半。午前の外出からはとっくに戻っているはずの丹生がどこにも見当たらず、阿久里は苦い顔をしていた。

「急ぎの用でもあるのか?」
「ああ、午後イチで確認してもらいたい書類があってな。今日中に郵送したいから探してるんだ」
「社用携帯のGPSは?」
「デスクに置きっぱなしなんだよ。最近あんまり使わないからって、しょっちゅう忘れていくんだよな」
「棗が知らないんなら、もう朝夷あさひなさんに聞くしかないんじゃね? あの人なら絶対、知ってるだろ」

 辻のひと言に、ますます眉間のシワを濃くする阿久里と、不機嫌そうな溜め息をつく棗。郡司は苦笑いだ。しかし、背に腹は変えられないのである。

「はぁ……1番頼りたくない相手だが、そうも言ってられないか……」

 腹を括った阿久里が、渋々ながら携帯を取り出していた、その頃。
 イントレルームで濃厚に絡み合う男が2人。

「ンッ! あ、ァ……ながとッ……しつ、こい……ッ!」
「こーら、逃げない。いつもながら、その弱々しい抵抗がたまらなく可愛いなぁ、もう。璃津、煽るの上手すぎだよ」
「ぅあッ……んんっ、も……は、やく……終われって! 仕事が……あっ……から、ぁ!」
「これも大事な仕事でしょ? 1ヶ月も休んだんだから、しっかり働いてもらうよ」

 風真かざまとの歓談を終え、局へ戻った丹生はオフィスへ戻る間もなく朝夷に拉致され、イントレルームへ引きずりこまれていたのだ。これもまた、通常運転と言えなくもない。
 と、ヘッドボードに置かれていた朝夷の社用携帯が、呼び出し音を立てて振動を始めた。

「っ、おい……鳴ってるぞ……ッ!」
「知ってるよ」
「だったら、早く出ろって……!」
「この状態で? へーえ、璃津はそういうプレイが好きだったのかぁ。知らなかったなぁ」
「ちが……っ! 誰がこのままって言ったよ! 退けッ!」
「ん? 阿久里からだ。どうせ璃津どこだーとか言われるんだよ、これ。面倒だからさっさと教えてすぐ切るね」
「やめっ、馬鹿か……っ! ひぁッ……揺らす、な……ァ、あッ!」
「だって出ろって言ったの璃津だよ? 大丈夫、お前が声ださなきゃ良いだけだから。得意でしょ、マグロ」

 にんまりと口角を吊り上げ、朝夷は着信に出た。

「どうした、阿久里」
【お疲れ様です。今、お電話構いませんか?】
「良いよ。なに?」

 丹生は内心、ぜんぜん良くねぇだろと叫ぶ。

【璃津が外出から戻ってなくて。急ぎの書類があるので探してるんですが、ご存じないですかね】
「ああ、それなら……」

 と、朝夷は言葉を切り、浅く動かしていた腰をいきなり深く突き上げ、同時に丹生の睾丸を強く握った。

「ぃ゙ア゙ッ!!」

 予期していなかった衝撃と痛みに、高い悲鳴が上がる。しまった、と慌てて手で口を塞いだが、同時にゾクゾクとえも言われぬ興奮が駆け抜け、危うく吐精しかけた。

(なんだコレ!? こんな感覚、初めてだぞ!? そういえば、こういう状況は何度もあったけど、いつもマグロで通してたもんな……。それとも痛かったせいか? いやいや、どっちにしろ超変態じゃん、俺!)

 そんな丹生の胸中を知ってか知らずか、朝夷は笑みを深くしながら一層、深く奥を穿うがち、竿を激しく上下に扱く。
 元々、前後の同時攻めに弱い丹生は、強引で強烈な快感にたがが外れ、もう声を抑えるどころではなく、物理的な快楽と精神的な愉悦に呑まれていた。

「ァんッ! ぁ、ア! っそれ、やだぁ……! ひい゙っ……や゙、ぁあん゙ッ!」
「あーあ。聞かれちゃってるよ? 良いの? そんなに大声出して」
「だっ、てぇッ……とまん、なっ……ア、ぃやァっ! ぁ゙ッ、んぁ、も……しぬっ! ァ゙、あぁッ!」
「ハハ、もうぐちゃぐちゃのどろどろだね。わけ分かんなくなっちゃってるよ。阿久里、聞こえたよな? こういうことだから、書類は後にしてくれ。じゃあな」

 終話ボタンを押すと、朝夷は激しく息をつぐ丹生に頬ずりして笑った。

「アハ、すごいねぇ璃津。いつもの何倍も声出てたし、締め付けもキツくなってる。こんなに興奮するなんて、やっぱり好きなんだなぁ、羞恥プレイ。それとも、痛いのが良かったのかな?」
「ッ、るさいな! 自分でもびっくりしてんだよ……っ!」
「耳まで真っ赤にしちゃって。たまらなく可愛いよ」
「はァ……っ、お前こそ……さっきより、かたくしてるくせに……」
「そりゃ、こんなにエロ可愛いの見せられたら当然だよ。お前こそぎゅうぎゅう締めて、俺の精巣空っぽになるまで搾り取る気でしょ。お陰で今日もたっぷり出せそうだ」

 阿久里には良い牽制になったな、と思いながら、丹生は朝夷の与える快楽と壮絶な色気に呑まれていった。
 一方、阿久里は何の音も出さなくなった携帯を耳に当てたまま固まっていた。

「居場所分かったかー……ってどうした? お前、顔こえーぞ」
「そっとしといてあげて、辻……」
「もしかして、さっきチラッと聞こえたのって、丹生さんの……」
「え、うそ、まじ? 真っ最中に出たのかよ。朝夷さん、えげつねぇー」

 事情を知った辻、郡司、相模は引きつった顔で阿久里を見やる。

「そんなことだろうと思ったぜ。良かったじゃねぇか、行方不明じゃなくて」
「意外と落ち着いてるな、棗。もっと不機嫌になるかと思った」
「別に。あれも璃津の仕事だからな。お前もさっさと割り切れよ、阿久里」

 棗は辻に鼻を鳴らして答え、阿久里にはやや上から目線で言う。

「お前に言われると妙に腹立つな……。大体、仕事ってなんだよ! イントレが任務より優先度高いなんてことあるか!? 無いわ!」
「うるせぇな。何を今更わめいてんだ、てめぇは。璃津にとっちゃ、どんな任務より最優先だろうがよ」
「はぁ? さっきから何をワケ分からんこと言ってんだ! からかってんのか!?」

 棗との会話に苛立ちをつのらせる阿久里を、郡司がやんわり制する。

「まぁ待ちなよ、阿久里。いったん落ち着こう。なんか噛み合ってない気がする」
「俺もまったく話が見えねーわ」
「そうですね。イントレが最優先って、どういうことなんですか? 棗さん」
「どうもこうも、そのまんまだ。朝夷の跡取りを射精させることは、璃津の最優先任務だ」

 棗の妙な言い回しに、怪訝な顔をする一同。

「射精させるって、なんでそんな持って回った言い方なんだ? 大体、任務ってのがピンとこねーんだけど」
「俺たちにも分かるように話してくれないか?」

 棗は片眉を跳ね上げて皆を見た後、「ああ」と何かに気付いたような声を上げた。

「これ機密だったわ。ま、同僚なら良いだろ。あのな、朝夷 長門は原因不明の勃起不全で、どんな薬も治療も効果無し。どんな相手にも無反応。自慰さえできねぇ筋金入り。ところが唯一、璃津にだけは反応するのさ」
「えぇ────ッ!?」

 さらりと投下された爆弾に、全員が悲鳴じみた叫びをあげた。

「そんくらい把握しとけよ、阿久里。仮にも班長だろ」
「はあ!? むちゃ言うなよ!」
「そ、それってもう国家機密レベルじゃないですか……」
「だよね……。朝夷家の跡取りがEDだなんて、大スキャンダルだよ……」

 驚愕する阿久里、相模、郡司。

「お前ら、おかしいと思ったことねぇのか? あの男がこんなとこで調査官やってるなんて。普通ならとっくに高級官僚だぜ」
「ああー、それでか。あんだけユーバでならしてりゃ、誰もEDだなんて思わねぇもんな。なるほど、完璧な偽装カバーだわ」

 辻は半ば納得しつつも、片眉を上げて問う。

「でもさ、だからってなんで射精させるのが璃津の任務になるんだ?」
「だからだろ。璃津で射精させて、精子を採取してるんだよ。人工授精させるためにな。だから毎週、新鮮なブツを回収してるわけ。もう何人か出来てるはずだが、まだ納得できてないらしいな、あそこの御大は」
「なるほど……。そうでもしなきゃ、朝夷の直系男子が作れないのか」
「だからあの2人、どうあってもバディ解消しないんだな。というか、続けざるを得ないって感じか」
「お前、どうやってそんな機密調べたんだ?」
「普通に本人から。10年前、璃津から手ぇ引けって直談判しにいった時に聞かされた」
「あー……そりゃ食い下がれねぇわなぁ。てか、そんな前から好きだったのかよ。びっくりしたわ」
「駄目だ……。衝撃情報が多すぎて、処理しきれない……」
「全然知らなかった……。どうしてこう厄介事ばかり抱えてんだ、あの人は……」

 あまりに突飛な事実に苦笑する辻、理解が追いつかない郡司、頭を抱える阿久里である。

「なのにあのサイコ野郎、乱暴に扱いやがって。まじで殺してぇわ」
「いかんせん、璃津に別れる気が無いからなぁ。そこもミステリーだよ」
「やっぱり丹生さんって、朝夷さんのこと……」
「黙れ相模」
「千切るぞ相模」
「……すみません……」

 阿久里と棗に殺意を向けられ、相模が縮こまる横で、辻は首を傾げている。

「色恋や情じゃないってのは何となく分かるけどさぁ。じゃあなんでってなると、やっぱ分かんねぇよな」
「それが璃津なりの処世術なんだろ。学歴に負い目感じて、なんとか役に立とう必死なんだよ」

 棗の言葉に、皆がはっとして押し黙る。いつも明るく、奔放に振る舞う丹生の胸中など、想像もしていなかったのだ。沈んだ空気を、棗が鷹揚な口調で打ち破る。

「ま、俺はそういう所も含めて愛してるけど」
「お前って偏執的だけど肝が据わってるよな。そこだけは感心するぜ」
「当前だ。相手を知るには、まず調査と観察が大前提だからな」
「ストーカーの思考だな! 怖いわ! せっかくちょっと見直したのに!」

 丹生らの新たな事情が発覚しつつ、本日の特別局も、おおむね通常運転である。
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