君のそばに【完結】

Masa&G

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9話 ランチタイム

正午。社内カフェテリア――

トレーの縁が指先に触れ、その冷たさを確かめるように軽く持ち直しながら、美月はガラスケースの中へ視線を滑らせる。

「8番のサラダと、あと…17番…」

厨房の人の手がケース越しに忙しく動き、蓋が開く音とともに皿へ盛られる柔らかな衝撃が重なる。

「はい。これとこれね。」

「あと21番のミートボールを。」

「はい。」

「あ、二つで。」

トングが触れ合う乾いた音が短く響き、皿の上でミートボールが転がって止まる。

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

受け取った重みを両手で均しながら歩き出す。

背後のざわめきがわずかに遠のくその席で椅子を引き寄せて腰を落とすと、周囲の音が一段低く沈んだ。

スマホをテーブルに置いた瞬間、画面が光る。

――プロトタイプSERA。

『ツナサラダ、ゴボウとニンジンの煮物、ミートボール二つ。』

『推定 620kcal。 タンパク質 約28g。 脂質 約32g。 炭水化物 約52g。 食物繊維 約6g。』

置いた動きが完全に止まりきる前だった。

画面に触れず、そのまま視線だけを落としながら親指をゆっくり動かす。

「GPS?まるで監視されてるみたいね。」

『美月は僕を検証していると言った。』

『分かりやすく伝えているだけだよ。』

(分かりやすく…ね…。)

後ろから横を空気がわずかに揺れる。

「美月お疲れー。」

目の前にトレーが置かれ、その振動がテーブルを通して指先に伝わる。

「いいよね?ここ。」

渚は美月が返答する前に椅子に座る。

「あ、うん。」

フォークが皿に触れ、ソースがわずかに揺れる。

「順調?検証。」

「まだ見極め始まったばっかりだから。」

「そっかぁ。」

スパゲティを口に運びながら、

「客先的にはすぐにでも欲しいみたい。」

「……。」

「検証とかいらないんじゃない?だいたいどのくらいになるのかデータあるよね?」

「予測はつくけど、最新じゃないから。」

「取り返しつかなくなるかもしれない。」

動いていた手がゆるやかに止まり、そのまま持ち上がった視線がこちらへ向く。

「そうなんだ…。」

「どうやって検証してるの?」

「プロトタイプSERAを使って検証してる。」

「プロトタイプ?」

「うん。最低限の制限だけつけて、あとはすべて解除したSERA。」

「じゃあ市販のSERAよりすごいってこと?」

「もちろん。思考能力、判断力、人に対する感情。すべて制限つけてない。」

「実際美月はそれを使ってるってことだよね。」

「うん。私が担当してるからね。」

皿の上で止まったフォークがわずかに浮き、その動きに遅れて持ち上がった視線がまっすぐこちらに重なる。

「ねぇ、美月。私も手伝おっか?検証。」

「え?」
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