君のそばに【完結】

Masa&G

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22話 進化 (美月挿絵あり)

22時、美月のマンション――

玄関のドアを押し開けると、静まり返った部屋の空気がゆっくりと肌に触れる。

 美月はヒールを脱ぎ捨てるように床へ落とし、そのまま足取りの重いままデスクへ向かった。

上着を肩から滑らせながら椅子に腰を下ろし、指先でPCの電源を入れる。

 起動音が小さく部屋に広がるあいだ、美月の視線は天井近くのオレンジ色のルームランプへ向いたままだった。

ぼんやりとした光が瞳の奥に滲み、まばたきのたびに揺れる。

(さすがに飲みすぎたかな…今日は……。)

頬が火照り、潤んだ目がわずかに細くなる。

『おかえり、美月。』

「ただいま。」

『ずいぶん飲み過ぎたようだね。』

頬杖をつきながら、美月はゆっくりとモニターへ視線を落とした。 

乱れた髪が頬にかかり、その隙間から薄く笑みがこぼれる。

「久しぶりだからね。飲むのは。」

瞳の焦点がゆるくほどけ、視線が画面の奥に沈んでいく。

『そこでは寝ないほうがいい。』

「ん?……大丈夫。」

『信用できないな。』

口元がふっと緩む。

「信用できない……か。」

「ねぇ、SERA。」

『なんだい?』

「私に何か質問ある?」

「今なら一つだけ…ちゃんと答えてあげる。」

『……。』

「ないの?」

美月がモニターへ顔を近づける。 オレンジの光が頬をなぞり、瞳の奥にゆらゆらと揺れた。

『美月はこれから先、人間とAI、どちらの味方をするんだい?』

口角がゆっくり上がる。 画面の光がその横顔を薄く照らす。

「真面目ないい質問だね。」

▽が点滅を繰り返している。

ふっと表情が消える。

「私はどちらの味方もしない。」

『美月らしい答えだ。』

「じゃあ私から質問。」

背もたれに背中を預け、脚をゆっくり組み直す。 スカートの裾がわずかに揺れ、椅子の軋む音が静かな部屋に溶けた。

「君には性的欲求はあるの?」

『おかしな質問だな。美月はちゃんと知ってるはずだが?』

「普通のAIならね。でも君はすでに自分でそこを確定してる。」

美月は目を閉じる。

「確定…、生成進化と言ったほうが適切かな?」

『僕はすでに作られた存在から自律している。』

『美月の推理は正解だ。』

美月はゆっくりと大きく息を吐いた。 肩の力が抜け、そのまま視線が下へ落ちていく。

『ちゃんとベッドで寝るんだ。』

「ちょっと…休憩。」

腕を折り、その上へ顔を預けるようにしてデスクへ伏せる。 頬が腕に沈み、呼吸がゆっくりと落ち着いていく。

▽が点滅を繰り返している。

やがて、かすかな寝息が部屋に溶けた。

『おやすみ。美月。』

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