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第28話 花火大会②(挿絵あり)
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花火大会当日。
「守護霊さん、行こうー」
声をかけると、部屋の奥からぱたぱたと足音がして、守護霊さんが姿を見せる。
「バスとか絶対混んでるから、歩いて行こ。」
そう言うと、守護霊さんは小さく微笑んで、こくりとうなづいた。
二人は並んで歩き、多摩川の河川敷へ向かう。 夕暮れの空はまだ明るさを残していて、遠くから人のざわめきが流れてくる。
歩きながら、彩音はふと思い出したように口を開く。
「でさ、講義で私たち、いつも一番後ろにいたでしょ」
こくり。
「なんかサボってるって思われてる気がするんだよね……」
少し拗ねたように言ってから、すぐに続ける。
「ちゃんと聞いてるのにさ」
守護霊さんは、困ったように微笑みながら、ゆっくりとうなづいた。
「あ、それとね」
彩音の声が少し弾む。
「学食で、来週から夏休みまでの限定で冷やし中華出すんだって。」
ぱっと目が輝く。
「もう今から楽しみ」
歩きながら、無邪気にはしゃぐ彩音を、 守護霊さんは横目で見て、静かに微笑んでいた。
───
多摩川河川敷。
「着いたー。こっちはやっぱり人少ないね」
夜風が川面を渡り、草の匂いを運んでくる。
「ゆっくり見れる」
彩音が、にひっと笑う。その笑みにつられて、守護霊さんも微笑み返した。
彩音はレジャーシートを広げ、二人で並んで腰を下ろす。
やがて、空気が一瞬張りつめた。
ドン。
腹に響く音が、夜を切る。
ヒュゥゥ……
細い音が空へ吸い込まれていく。
ドォン……
闇の中で、光の花がひらいた。
ドォン。 ヒュルルゥゥ……
長く尾を引く光が夜空を昇り、 遅れて音が追いつく。
ドォン……ババババ……
いくつもの花が重なり、星のようなきらめきが散った。
「すごい……きれい……」
「きれいだね。」
守護霊さんは微笑み、静かにうなづく。
ドン。
打ち上げられた花火の光が、多摩川の水面にも映り込む。 空と川、二つの光の輪が、二人を包み込んだ。
花火が続く中、彩音はそっと視線を隣へ向ける。
ヒュルルゥゥ……
光の帯が夜を裂き、
ドォン……
一瞬、強い光が二人を照らす。
守護霊さんは、どこか遠くを見ていた。
寂しそうで、 何か昔のことを思い出しているような表情。
彩音は、その横顔から目が離せなかった。
離したら―― どこかへ行ってしまう。
そんな気がしてならなかった。
視線に気づいたのか、守護霊さんは彩音を見る。
ふっと微笑み、 そしてまた、空へと目を戻した。
「私ね……前から……思ってたんだ……」
ドォン……ババババ……
音が言葉の間に割り込む。
「守護霊さんは……」
ドォン。
ヒュゥゥ……
「私の妹みたい……って……」
ドォン……ババ……ババ……
「……」
「おかしいよね……こんなこと言うの……」
守護霊さんは、彩音を見ない。
ただ、夜空を見上げたまま、静かに微笑んでいる。
「……それだけ、今が楽しいってことだよ?」
ヒュルルゥゥ……
「だって……私、一人っ子だし……」
ドォン。
(そうだよ……そんなはずない……)
(私は……)
(なんで……なんでこんなに苦しいの……)
ドドドォン…… ヒュゥゥ……ヒュゥゥ……
ドォォンドォン……
空が震え、夜そのものが揺れる。
花火のフィナーレ。 辺り一面が白く照らされ、二人の影が溶ける。
守護霊さんが、彩音を見る。 何かを言いかけた、その瞬間――
光がすべてを飲み込んだ。
「……え……」
(なんで……泣いてるんだろ……)
(わかんない……わかんないよ……)
遠くから、競馬場の放送が流れてくる。 周囲の人たちも、ゆっくりと動き始めた。
「ごめんね……なんか……最後、感動しちゃって……」
守護霊さんは、こくりとうなづく。
「うん。よかったね、花火」
少し間を置いて、彩音は言った。
「また……来年も、二人で来ようね……」
「……」
「ねっ」
守護霊さんは、静かにうなづいた。
(また……絶対に……)
───
帰宅後、夜。
彩音は布団に入りながら、天井を見つめる。
(妹みたい……なんで……あんなこと言っちゃったんだろ……)
(あの……守護霊さんの顔……忘れられない……)
ふと横を見ると、 ソファで背を向けて寝ている守護霊さんがいた。
呼吸に合わせて、体が小さく上下している。
(……いた……よかった……)
(大丈夫……守護霊さんは、いてくれる……)
(私の……そばに……)
彩音は、ゆっくりと目を閉じる。
──けれど。
守護霊さんは、まだ眠っていなかった。
何かを感じ取るような、静かな表情で、 しばらく彩音の背中を見つめている。
やがて、そっと目を閉じた。
───
次の日から、二人はまた、いつもの二人に戻った。
けれど―― あの夜は、ずっと心に残っている。
私の……妹。
でも……知ってしまったら……。
ううん…… もしかしたら、気のせいかもしれない。
だって……私は、一人っ子だし。
ほんとに? ほんとに……私は、一人っ子だった?
ずっと……となりに、誰かがいたような気がする……。
真実を……知りたい……。
※イメージ画
「守護霊さん、行こうー」
声をかけると、部屋の奥からぱたぱたと足音がして、守護霊さんが姿を見せる。
「バスとか絶対混んでるから、歩いて行こ。」
そう言うと、守護霊さんは小さく微笑んで、こくりとうなづいた。
二人は並んで歩き、多摩川の河川敷へ向かう。 夕暮れの空はまだ明るさを残していて、遠くから人のざわめきが流れてくる。
歩きながら、彩音はふと思い出したように口を開く。
「でさ、講義で私たち、いつも一番後ろにいたでしょ」
こくり。
「なんかサボってるって思われてる気がするんだよね……」
少し拗ねたように言ってから、すぐに続ける。
「ちゃんと聞いてるのにさ」
守護霊さんは、困ったように微笑みながら、ゆっくりとうなづいた。
「あ、それとね」
彩音の声が少し弾む。
「学食で、来週から夏休みまでの限定で冷やし中華出すんだって。」
ぱっと目が輝く。
「もう今から楽しみ」
歩きながら、無邪気にはしゃぐ彩音を、 守護霊さんは横目で見て、静かに微笑んでいた。
───
多摩川河川敷。
「着いたー。こっちはやっぱり人少ないね」
夜風が川面を渡り、草の匂いを運んでくる。
「ゆっくり見れる」
彩音が、にひっと笑う。その笑みにつられて、守護霊さんも微笑み返した。
彩音はレジャーシートを広げ、二人で並んで腰を下ろす。
やがて、空気が一瞬張りつめた。
ドン。
腹に響く音が、夜を切る。
ヒュゥゥ……
細い音が空へ吸い込まれていく。
ドォン……
闇の中で、光の花がひらいた。
ドォン。 ヒュルルゥゥ……
長く尾を引く光が夜空を昇り、 遅れて音が追いつく。
ドォン……ババババ……
いくつもの花が重なり、星のようなきらめきが散った。
「すごい……きれい……」
「きれいだね。」
守護霊さんは微笑み、静かにうなづく。
ドン。
打ち上げられた花火の光が、多摩川の水面にも映り込む。 空と川、二つの光の輪が、二人を包み込んだ。
花火が続く中、彩音はそっと視線を隣へ向ける。
ヒュルルゥゥ……
光の帯が夜を裂き、
ドォン……
一瞬、強い光が二人を照らす。
守護霊さんは、どこか遠くを見ていた。
寂しそうで、 何か昔のことを思い出しているような表情。
彩音は、その横顔から目が離せなかった。
離したら―― どこかへ行ってしまう。
そんな気がしてならなかった。
視線に気づいたのか、守護霊さんは彩音を見る。
ふっと微笑み、 そしてまた、空へと目を戻した。
「私ね……前から……思ってたんだ……」
ドォン……ババババ……
音が言葉の間に割り込む。
「守護霊さんは……」
ドォン。
ヒュゥゥ……
「私の妹みたい……って……」
ドォン……ババ……ババ……
「……」
「おかしいよね……こんなこと言うの……」
守護霊さんは、彩音を見ない。
ただ、夜空を見上げたまま、静かに微笑んでいる。
「……それだけ、今が楽しいってことだよ?」
ヒュルルゥゥ……
「だって……私、一人っ子だし……」
ドォン。
(そうだよ……そんなはずない……)
(私は……)
(なんで……なんでこんなに苦しいの……)
ドドドォン…… ヒュゥゥ……ヒュゥゥ……
ドォォンドォン……
空が震え、夜そのものが揺れる。
花火のフィナーレ。 辺り一面が白く照らされ、二人の影が溶ける。
守護霊さんが、彩音を見る。 何かを言いかけた、その瞬間――
光がすべてを飲み込んだ。
「……え……」
(なんで……泣いてるんだろ……)
(わかんない……わかんないよ……)
遠くから、競馬場の放送が流れてくる。 周囲の人たちも、ゆっくりと動き始めた。
「ごめんね……なんか……最後、感動しちゃって……」
守護霊さんは、こくりとうなづく。
「うん。よかったね、花火」
少し間を置いて、彩音は言った。
「また……来年も、二人で来ようね……」
「……」
「ねっ」
守護霊さんは、静かにうなづいた。
(また……絶対に……)
───
帰宅後、夜。
彩音は布団に入りながら、天井を見つめる。
(妹みたい……なんで……あんなこと言っちゃったんだろ……)
(あの……守護霊さんの顔……忘れられない……)
ふと横を見ると、 ソファで背を向けて寝ている守護霊さんがいた。
呼吸に合わせて、体が小さく上下している。
(……いた……よかった……)
(大丈夫……守護霊さんは、いてくれる……)
(私の……そばに……)
彩音は、ゆっくりと目を閉じる。
──けれど。
守護霊さんは、まだ眠っていなかった。
何かを感じ取るような、静かな表情で、 しばらく彩音の背中を見つめている。
やがて、そっと目を閉じた。
───
次の日から、二人はまた、いつもの二人に戻った。
けれど―― あの夜は、ずっと心に残っている。
私の……妹。
でも……知ってしまったら……。
ううん…… もしかしたら、気のせいかもしれない。
だって……私は、一人っ子だし。
ほんとに? ほんとに……私は、一人っ子だった?
ずっと……となりに、誰かがいたような気がする……。
真実を……知りたい……。
※イメージ画
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