私の守護霊さん

Masa&G

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スピンオフ『西川&沙織の恋愛作戦』

第3話 カラオケ作戦②

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「よし!じゃあ次……宮司ちゃん、いける?」

「あ、私?」

「うん。」

少し慌てた様子で、彩音はリモコンを手に取る。

「えっと……じゃあ、これで。」

送信――

画面に表示された文字を見て、西川が声を上げた。

「お、いいね~。フレンズ。」

伴奏が流れ始める。

彩音は、当たり前のように立ち上がった。

(立って歌うタイプか……実力はいかほどかな……)

西川が、半分冗談、半分本気で様子を見る。

♪くちづ~けを~、かわした~日~は~♪

「……。」

部屋の空気が、ふっと静まった。

♪ママの顔~さえも~見えなかった~♪

(これは……普通にヤバい……)

(この声質はヤバい……男が好きなやつだ……)

彩音の声は、張り上げるでもなく、抑え込むでもなく、自然に伸びていく。

伸ばすフレーズでは、マイクを口元から少しだけ離す。

その所作に、作為はない。

ただ、そうするのが一番気持ちいい――それだけだ。

桜木も、沙織も、いつの間にか動きを止めていた。

画面に映る歌詞を見つめ、誰からともなく口ずさむ。

それが、魅了だった。

数曲が過ぎ、時間は思った以上に流れていた。

なんだかんだで、気づけば四時間が経っている。

部屋の空気はすっかり馴染み、最初に感じていた緊張感はどこかへ消えていた。

 テーブルの上には空になったグラスや、途中で放置されたリモコン。

ピロロロ…ピロロロ…

突然、内線の音が鳴る。

「はい……わかりましたー」

受話器を置いた西川が、軽く手を上げてみんなを見る。

「あと十分です!」

「もうそんな時間か。」

桜木が時計を見る。

「最後……俺的には宮司ちゃんに締めてもらいたい!」

「え……私?」

少し驚いたように、彩音が目を瞬かせる。

「僕も宮司さんの歌、聞きたいです。」

桜木がすぐに同調する。

一瞬だけ迷うように視線を泳がせてから、彩音は小さくうなづいた。

「うん……じゃあ……みんなが知ってるの……これで。」

送信――

画面に表示された曲名を見た瞬間、西川は思わず息を吸った。

「栄光の架け橋……」

(宮司ちゃん……そりゃやばいよ……俺は泣くぞ……)

前奏が静かに流れ始める。

部屋の空気が、また一段落ち着く。誰も話さない。 誰も急かさない。

彩音はマイクを持ったまま、無理に前に出ることもなく、いつも通りの距離感で立っている。

歌い出しの声は、強くもなく、張りもなく、ただ自然だった。

それなのに――

気づけば桜木も、沙織も、画面の歌詞を見つめていた。

誰からともなく、口元が動く。

一緒に、静かに口ずさむ。

サビに入るころには、西川は完全に俯いていた。

曲が終わる。

少しの沈黙。

「……。」

「西川……何泣いてんの?」

沙織が呆れたように言う。

「こっち見るな…ぐす…」

西川が顔を背ける。

そのまま、終了の時間になり、俺たちはカラオケ店を後にした。

夜風が少し冷たい。

――本日の収穫……宮司ちゃんが歌が上手いってことだけ……。

反省会だな、こりゃ……。
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