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第十二話 夜会の後で
しおりを挟む舞踏会が終わった夜。
煌めく大広間を後にした私は、まだ胸の鼓動が収まらないまま、馬車へ向かっていた。
その時――背後から静かな声がかかる。
「……エリシア様」
振り向けば、そこにはレオンハルトが立っていた。
彼は真摯な眼差しを向け、少し躊躇いながら言葉を探すように続ける。
「先ほどは……本当にありがとうございました。私に、あのような素晴らしい舞を共にしていただけるとは」
「いえ……私の方こそ。お誘いいただけなければ、皆の前で踊ることなど叶いませんでしたわ」
言葉を交わすうち、彼の表情にかすかな陰りが差すのを見た。
◇
レオンハルトは小さく息を吐き、視線を落とした。
「……正直に申し上げれば、私は舞踏会という場があまり得意ではないのです。
家の者からは“そろそろ結婚相手を見つけろ”と毎日のようにせっつかれておりまして」
彼は苦笑を浮かべる。
けれど、その目には苦い影が宿っていた。
「数年前……大切な友人がいました。だが、その婚約者に突然言い寄られ……私が拒絶したことで、かえって友人との信頼が壊れてしまったのです」
その声は静かだが、長く心に残る傷の重さを帯びていた。
「以来、私は女性に近づかれるとどうしても身構えてしまう。
家の者からは理解されず、“理想が高すぎるのだ”と……」
◇
胸が締め付けられる思いだった。
彼もまた、私と同じく孤独を抱えている。
奴隷として信じる人を持てなかった私と、友を失った彼。
立場は違えど、その痛みは似ている気がした。
「……だからこそ、今夜は驚いたのです」
レオンハルトが私をまっすぐ見つめる。
「あなたの舞には、打算も虚飾もなく……ただ誇りと真心があった。
私は、あんなに心地よく踊れたのは初めてでした」
◇
顔が熱を帯びるのを感じ、思わず視線を逸らした。
「それは……過分なお言葉ですわ」
けれど、胸の奥では確かに嬉しかった。
彼が抱える孤独を、少しでも癒せたのなら――私の存在にも意味がある。
◇
その夜、馬車に揺られながら私は思った。
――レオンハルト。
あなたもまた、孤独と戦っているのね。
ならば、私たちは互いに支え合えるかもしれない。
そう思うと、心の奥に小さな温もりが芽生えた。
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