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第十一話 舞踏会デビュー
しおりを挟む王都の大広間は、黄金のシャンデリアに照らされ、無数の光が床の大理石に反射していた。
楽団の旋律、笑い声、ドレスの裾が波のように揺れる。
その華やかさに胸が高鳴りながらも、私は緊張を隠せずにいた。
父の腕に手を添え、入場の列を進む。
公爵である父と並ぶことで誰よりも注目を浴びるのは当然だった。
けれど――
「まあ……お気の毒に。お父上と入場なさるなんて」
甘く響く声。視線の先には、ローゼンベルク侯爵令嬢クラリッサ。
扇を口元に当て、周囲の令嬢たちと笑いを含ませる。
「エスコートしてくださる方もいらっしゃらないのね。
でも病弱で踊れないのでしょうし……むしろ、その方が良かったのかもしれませんわ」
小さな笑いが広がる。胸が痛む――けれど、私は微笑みを崩さなかった。
◇
その時だった。
別の方向から、静かだがよく通る声が響いた。
「――その言葉、聞き捨てなりませんね」
振り返れば、紋章入りの外套をまとった若い紳士が立っていた。
ヴェルンハルト公爵家の嫡男、レオンハルト。
王国でも有数の権力を持つ名家の青年だ。
彼は真っ直ぐに私を見つめ、優雅に手を差し伸べた。
「エリシア様。よろしければ、あなたと最初の一曲を踊る栄誉を私にいただけますか?」
ざわめきが広がる。
“病弱で踊れぬ令嬢”と囁かれていた私に、これほどの人物が自ら声をかけたのだ。
◇
クラリッサの顔から血の気が引いていくのを横目に、私は静かにその手を取った。
「……光栄ですわ」
音楽が始まる。
レオンハルトのリードに合わせて一歩踏み出すと、体が自然に舞い始めた。
奴隷時代に強いられた舞踏の記憶が、今は私の誇りとなり、優雅な流れを生み出す。
旋律に身を委ねるうち、恐怖は消え、ただ心地よい高揚だけが残った。
彼の瞳が驚きに見開かれる。
「……見事だ」
◇
曲が終わると、広間は拍手と感嘆で包まれた。
「なんて優雅……!」
「これがグランデール公爵令嬢……!」
陰湿な噂は一瞬でかき消され、私の名は尊敬と憧れの囁きに変わっていた。
その様子を見ていたクラリッサの扇が、ぎり、と音を立てて折れそうに歪む。
笑顔は保っていたが、目の奥には悔しさと――新たな火花が燃えていた。
◇
レオンハルトがそっと私の手を取って一礼する。
「今宵、私は忘れません。あなたの舞は、誰よりも誇り高い」
その言葉に胸が熱くなった。
――私はもう、弱き病弱令嬢ではない。
公爵令嬢として、そして一人の女性として、この場に立っている。
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