お願い乱歩さま

のーまじん

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奈穂子の野望

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 夕方、奈穂子と薫に混ざり葵も夕食ゆうげの支度を手伝っていた。
 遥希は、お客様なので料理に参加はしなかったが、乱歩の話を考える役にされたので、葵は少し遥希に同情した。

 本当に……何をどう書けば良いと言うのか?
 奈穂子はイラストは書かないと断言した。

 葵はキッチンテーブルで玉ねぎを切りながら奈穂子の車での発言を思い出していた。

 「私は、挿し絵を書いたりしないわ。」
「え?描かないの?」
遥希の声に失望が混ざる。
「当たり前よ、私の絵なんて、書いたって人は集まらないもの。」
奈穂子は楽しそうに運転しながら言う。

 「叔母さん……絵、描こうよ。協力しないでどうするのよっ、
 私たち、中央商店街の町おこしをするんでしょ(T-T)」
葵の冷静な突っ込みに奈穂子が説明を始める。

 「そうよ、私達の中央商店街を世界に知ってもらうんだから、半端な宣伝じゃ、どうにもならないわ。
だから、絵師は今の人を探さなきゃ。」
奈穂子の言葉を遥希は少し寂しそうに聞いていた。
「そんな人…いるの?」
葵は思わずボヤく。
「夢は大きく!!それに、探せばいると思うわ。エモい絵師。」
奈穂子は力強くそう言った。
「エモい…そんなの…いないよ。」
葵は、ちらりと遥希を見た。どうせ、そんなにアクセスもあるとは思えないし、奈穂子には遥希のために挿し絵を書いてあげて欲しいと思った。
「そうかな…まあ、それはおいおい探せばいいわ。大丈夫。富山はあの漫画のレジェンドの故郷なんだから。」
奈穂子は少し得意気にそう言った。

 叔母さん…それ、ツチノコ探しみたいなもんだよ(T-T)

 葵は運転する奈穂子の背中を見つめながら、小学6年のクラスメートを思い出していた。
 彼女はご当地アイドルを夢見ていた。
 クラスでもかわいい部類のあの子ですら書類選考で落選するのだ。

 叔母さんの小説なんて、書籍化どころか、秀実のレビューを貰えるかすら難しい気がする。
 ラノベじゃあるまいし、漫画のレジェンドがそうそう富山に転生するわけがない。叔母が痛いと葵は思った。

 「どんな話にするの?」
遥希が静かに奈穂子に聞く。
 奈穂子は可愛らしいアニメ声優の歌声に包まれながら自分の夢を語る。

 「うん、舞台は大阪。明智は商店街に住んでいるの。
 大阪はね、昔ながらの商店街が結構残っていて……活気があるのよ。
 あの世界観で舞台が取れれば、我々にも利があると思うわ。
 一番、気を付けたいのは東京にもって行かれる事。
 もともと、明智小五郎は東京に住んでいる設定だから、本来の東京が有利なんだけれど、東京で話を作られたら、絶対、スタイリッシュになるんだもの。
 それでは、ダメなのよ。
 まずは、舞台を大阪に。
 原作をひっくり返して作るんだもの。
 2025年。100周年。明智小五郎のデビューに合わせて何かを作るのが良いと思う。

 これだけ条件が揃った今なら、奇跡が起こるかもしれないわ。」
奈津子の声に本気を感じる。が、葵は得体の知れない不安が込み上げる。

 「分かった…。」
遥希は真顔でそれだけ言った。

 そして、今、奈穂子の家であぐらをかきながら、何やらスマホで検索していた。

 何が分かったんだろう?
 玉ねぎをテーブルに置きながら難しい顔の遥希の顔を葵は盗み見た。

 奈穂子も遥希も本気のようだった。

 でも、葵には、そこまで本気にはなれずにいた。
 それよりも、この二人が夢に呑まれないか心配になる。

 今時、エンタメでバスるなんて、そう簡単ではない。誰かが、ブレーキを握っていないといけない気がした。

 「よっ、おばちゃん、なおちゃん、焼き肉ご馳走さま。」

 縁側から、大きな男声がした。
「父さん!」
遥希はスマホを置いて立ち上がる。
 遥希の父で、奈穂子の1つ違いの幼馴染み、大川 純一である。
「純一くんは、よんでないよ~」
奈穂子は肉の皿を置きながら純一に文句を言う。
「ひでーなぁ。ケチケチするなよ。ねえ、おばちゃん。」
純一は日に焼けた屈託の無い笑顔で台所の薫に声をかける。

 「まあ。なんか、久しぶりね。」
薫がサラダをもってやって来る。
「ちょっと、副業をしてたんでね。朝、早かったんですよ。そうだ、おばちゃんにお土産買ってきましたよ。」
純一は、大福を取り出した。
「まあ、ここの大福、美味しいのよね。」
と、薫はすっかり純一を焼き肉メンバーに加える。
「なおちゃんには、これだよ。」
と、純一に一升瓶を取り出されて奈穂子の膨れっ面も緩む。
「ワインかぁ…しゃーないか。」
奈穂子の言葉が合図のように焼き肉の夕食ゆうげが始まる。

 「ああ、純一くんはそこだよ。」
と、奈穂子は縁側を指差す。
 少し不満そうな純一の横にコップを置きながら、奈穂子は一生瓶のワインを純一に注ぐ。

 「月見酒と洒落ようよ。旨い白ワインで。」
奈穂子に言われて純一は笑った。
「なおちゃんと月見酒が出来るならなんでもいいよ。来年は皆で花見に行こうな。」
葵に肉の入った皿をもらいながら純一が言った。
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