お願い乱歩さま

のーまじん

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大人の顔

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 平日の午後。葵は倉庫にしまわれたビデオデッキを取り出し、久しぶりに古いビデオテープを取り出して見ることにした。

 これは葵の祖父、まことのもので小さかった葵が遺品として貰ったものだった。
 随分と見ていなかったが、テープの保存状況がよく視聴には問題ないようだった。

 ここには、思い出の作品が収録されている。
 明智小五郎の二時間ドラマ『黄金仮面』だ。

 不思議な事に、奈穂子と秀実の意見が一致していた。
 新しく作るなら『黄金仮面』だと。

 なんでも、黄金仮面の正体は、はじめはアルセーヌ・ルパンだったのだが、著作権の関係で使えなくなったのだそうだ。
 そこで、新しく登場したのが、怪人・20面相なんだとか。

 本当かどうか、奈穂子の記憶だけなのでよくわからないが、奈穂子は言った。

 「2025年…テレビ放送をねだるなら、見たいと思う人が多い話がいいわ。
 著作権の関係で『黄金仮面』をおもいっきりアルセーヌ・ルパンでドラマ化した作品は無いわっ…多分。
 少なくとも、とーさんはそう言ってた。」

 奈穂子の父であり、葵の祖父、誠はこのシリーズが好きだった。
 昔と違って、規制も厳しくなり、地上波では、再放送も出来なくなったと嘆いていたが、衛星放送で再放送されると嬉しそうに録画して何度も見ていた。

 葵も小さな時、お正月などに誠の膝に座ってよく見ていた。

 カッコいい眉の太い探偵。
 異世界設定のような激しい銃撃戦。爆発。

 セクシー美人とアドバルーンで空とぶ怪盗。

 今なら、ドローンで飛ぶのかしら?

 思い出に胸を膨らませてビデオテープを再生する。
 懐かしいヒット曲と一緒に販売終了したジュースのCMが流れ、名画劇場のテロップと共にドラマが始まる。

 お父さんとお婆ちゃんは、明智小五郎、嫌いだったんだよね。

 葵は、オドロオドロシイ音楽と共に始まる動画を見つめながら、小学時代の祖父母の家の団らんを思い出していた。

 葵は、兄と一緒に二学期が終わると祖父母の家へと預けられていた。

 そして、大晦日に両親が来るのを祖父母と待っていた。
 台所の手伝いが出来なかった頃には、昔のドラマを見ながら、誠と兄と夕飯と両親を待っていた。

 大晦日は夜更かしが出来ると楽しみにしては、つい、寝てしまった。
 年越しソバが食べられなかったと元旦の朝に泣きわめいた事を思い出す。

 懐かしい思い出に包まれながら、物語は流れて行く…そして、葵は、自分の記憶違いに気がつき始め、混乱した。


 (-"-;)なに…これは…
 全てを見終わると、葵は暗い部屋に一人、物思いに浸る。
 おかしいわ…こんな話だったかしら?

 葵は混乱した。
 そして、探偵が嫌いになっていた。
 ついでに、黄金仮面も!!

 原作はわからないけれど、このドラマでは、嫁入り前の娘を風呂場で黄金仮面が殺すのだ。
 風呂場で殺す動機もわからないが、裸になってから何も殺さなくてもいいではないか。

 しかも、体の大きなフランス人の男である。

 それが、昭和の上流階級のお嬢様の入浴中に刃物で狙う意味が分からない。

 黄金仮面…お嬢様が裸になるまで、こっそり覗いて様子を見ていたの(-"-)
 ただの変質者じゃないっ。

 そして…探偵を含めた男たち!

 葵は、込み上げる怒りをもてあます。

 殺された娘に、誰一人タオルひとつ、かけようとせず、よってたかって死因について議論するなんておかしい。
 その中には、実の父親すらいるのだから、腹が立つ。

 葵は、やるせない怒りを勢いにまかせて奈穂子にメールする。

 あんなエッチな話だったなんて、知らなかったと結論をつけながら。

 「こんなもの見せるなよ。」
と、父親は誠と喧嘩をしていた。
「いいじゃないか~なあ、葵ちゃん。」
と、誠は笑っていた。
「うん。」 
葵は、誠の膝の上で笑っていた。

 おバカな私(>_<。)

 葵は、昔の自分を恥ずかしく思いながら、無垢だった自分を愛おしくも感じる。

 あの頃は、お風呂場だから裸は当たり前で、探偵は事件の為に必死なのだと信じていたのだから。

 こうして、大人になって行くのね。

 葵は、秋の切ない夕暮れに急かされるように立ち上がる。
 今日の夕飯は、葵が用意をする予定だ。
 そろそろ準備をしなくてはいけない。

 部屋の灯りをつけ、台所にカレーの材料を揃えた所で、大事なことを思い出した。

 あのビデオを遥希に貸す予定だった事を。

 「そんな事、絶対無理よっ。(///∇///)」

  葵は、ポロリの回数が多いあのドラマを最高傑作と遥希に勧めた昨日の自分を恨み、貸す前に内容チェックした自分にナイスをおくる。

 エログロ……そう呼ばれた江戸川乱歩を、
 名探偵の大人の顔を少しだけ垣間見た気がした。
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