まさかwebで ミステリー大賞に リベンジする日が来るなんて!

のーまじん

文字の大きさ
96 / 208
1917

7

しおりを挟む
  「まあ、全く無意味でもなかったけどね。
  推理小説で間違った推理を披露して、読者を混乱させる人物の作り方は参考になった。」
私は、自分に言い聞かせるように言った。
  これは、書いてみないと分からない。
  はじめから、間違えようと…正解を知って書こうとすると勢いが出ない。

  さすがに西條先生の名前から間違えるなんて、どうだろうとか、赤い朱房がどうとか、正解が分かっていたら、こんなに自信満々に書いたりできない…(T-T)
「そう言えば、そろそろあそこの芋ドーナツが出るね。」
剛は泣きそうな私など気にもせずに期間限定、焼き芋ドーナツの話題をふってくる。
「そうだね。今年も買おうかな?」
少し嫌みに言ってみた。
こっちは、ドーナツなんてどうでもいい。

  話を終わらせないといけない。
  悪魔の扮装なんて…いつまでもさせてる場合じゃない。
  1917年に…
  ファティマと不思議な話にもって行かなきゃ。

「いいなぁ…芋…卯月さん、2つ買うんでしょ?紫のと黄色いの。」
剛の嫉妬の視線を浴びながら私は不敵に笑い、他の事を…ファティマについて考えていた。
  
  ファティマはポルトガルの地名である。
  しかし、ファティマの語源はアラビア語にある。
  ムーア人の姫ファティマが、キリスト教に改宗し、領主と結婚したエピソードにちなんだ地名だからだ。
  なので、『ファティマの目』なんて中東の護符がヒットして混乱したりした。

  1917年…しかし、この年はオカルティックな年であったのは確かだと思う。

  この年、ヒトラーは空からの声に救われ、
  ファティマでは、聖母が子供たちにメッセージを託し、
  メイザースは、クロウリーの小説で悪役にされて激怒していた…翌年に病気で呆気なくこの世を去ることを、この偉大な魔術師は予知出来ていただろうか?

  そして、もうひとつ、スペインとフランスの県境の小さな教会で、一人の男が謎の死を迎える。
  レンヌルーシャトーの謎として、話題になった人物が…

  ノストラダムスゆかりの巡礼地で、この年、吉江喬松先生たちは、色んなオカルティックな話を見聞きしたに違いない。

  そうして、西條先生に手紙をしたためた…かもしれないのだ。

  「なんてさ、子供の冒険小説みたいに考えたわけよ。西條先生、ハンサムだしぃ…西洋の冒険野郎にひけをとらないと思ってさ。けど、今回、間違って、図書館で調べ直したらさ、違ってた。」
「は?」
「西條先生、この頃、家庭のイザコザで大変でさ、義兄が家財を勝手に散財して、死ぬの生きるの騒いでいたり、株でもうけて、自費出版してみたり、キリスト教でもないのに、聖杯なんて追っかけたりする暇無かったみたいなんだよ。」


  私は喚いた。

  別に、これは私の個人的な主観で、西條先生は悪くはない。
  寧ろ、様々な苦労の末、自力で書籍化するなんて、素晴らしい事だとも思う。
  がっ、底辺生活既に6年目の私は、株で儲けた金で、革の表紙の立派な詩集を作った人物を…羨ましいとは思えても、尊敬なんて出来ないし、聖なるメッセージを受けるような…そんなヒーローポジションにいてほしくはないのだ。

  僻(ひが)みである。

  ああ、僻んでいますともっ(T-T)
  落選してから、まだ、日が浅いんだもん。
  少しくらい、才能がある奴を羨ましく思い、僻んでも良いと思うのよ。

  変な解説文を書いて、大間違いの末に、二年近く作り上げた、西條先生のイメージをぶち壊し、私は、途方にくれていた。

  まあ、株で儲けた西條先生にオカルティックなメッセージが来ないとして、
  私にも、読者の評価も、聖母のメッセージ来てはいない。

  私のもとには、悪魔のコスプレをさせられた、憐れな友人の間抜けなイメージが残っているだけである。

  なにもかも…ぶん投げたくなる気持ちになるし、先をどう書いたら良いのか分からない。

  でも、書かなきゃ、剛を元に戻せない。

  
  1920年代、ヨーロッパでは、ルネサンス時代の文化の再評価がされていた。
  ボッチィチェッリの『プリマブェッラ』春と、題のついた400年近く評価されなかった作品が、ここに来て評価され始めるのだ。

  そして、ダンテ協会なるものを知ることになる。

  文化の再評価は、絵画だけではなく、小説にも…
  ダンテの地獄の物語『神曲』にもスポットライトを当てていた。

  ファティマの聖母の予言について語る人たちは、口々にこんな解説をしていた。
  キリスト教において、地獄の存在を認定した貴重な予言である。と。

  対して、『神曲』は、中世に民衆が分かりやすい、地獄のテンプレとして、小説家、芝居、人形劇などの大衆文化に影響を与えて行く…

  どちらに転んでも、地獄の話であり、
  果たして、トミノが遭遇した地獄との関係はどうだったのか…

  株で一発当てて、革の表紙で、夢の自費出版を果す男の浮かれた気持ちと、後に、北原白秋と童話界でもめる…まるで少女小説のような展開が待ち受ける…
  地獄の展開の西條八十の人生を思うと、どうやって収拾したものか、ため息ばかりがこぼれるのだ。

  隣では、剛が酔っぱらって笑ってる。
  悪魔のコスプレなのに、恵比寿顔で…

  これも…和洋折衷の地獄の表現かもしれないな。
  私は、どこか他人事の様に思えてきた。
  
  『まあ、頑張りなよ。400年たってから、評価される事だってあるんだからさ♪』
  剛に似た体型のボッチィチェッリの幻想が私を励ましていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...