オーデション〜リリース前

パラサイト

溶解

 私は部屋を見渡しながら思案していた。
 どうやって、世紀のミイラを探しだそうか…

 部屋の中では若葉溶生のメドレーが流れている。
 長山が参考にと、デモ音源をパソコンから再生してくれた。
 今回のアニメ『シルク』の挿入歌『溶解』を含む新作アルバム曲だ。

 太鼓の規則的な低音が深い闇の向こうから微かに響いてくる。
 琵琶の不規則な旋律が、捨聖すてひじりの念仏のように物悲しくスローな独奏で近づいてくる。
 それは足音のような規則的なカスタネットの音をつれ近づくごとに高音を、和音を含んでテンポ良くやって来る。

 捨聖
 念仏を唱えれば救われると説き踊りながら諸国を行脚した鎌倉時代の僧侶…

 念仏を唱えれば浄土に行けると説いた時宗じしゅうの開祖一遍いっぺんが躍り念仏を始めたのもこの信州…そんな、音楽と神とのふれあいの感覚が、溶生さんの作品にも生かされている。

 主楽器が琵琶に、そして二胡ニコが加わり、ビオラ、バイオリンに主旋律を渡す頃には、ケルト音楽のような西洋風な音に変わり、激しいリズムを刻みながら電子音楽と融合してゆく。

 竪琴の高い音が、女神の神託のように厳かな独奏を披露し、やがて消えていった。

 最近の音響技術なのだろうか？
 はじめは森で聞いていた音が、しまいには大理石の神殿にたたずんでいるように感じさせる…反響音。

 そして、やってくる静寂…

 『我々は、朝日の根元を求めて旅をしてきた大陸の民なのです。』

 遠くで誰かがそう叫んでいた。
 時代遅れのスーツ姿が思い浮かんだ。

 『はじまったな、日本人シュメール起源説…君の十八番おはこだよね。』
そう言って、誰かが笑っていた…。どこかで見たような懐かしい顔立ち…

 尊徳先生？

そう思い付くと、空想でも出会えたことが嬉しかった。



 催眠から目覚めた人のように、曲が終わると気だるい覚醒感に目を開いた。
 遮光カーテンの隙間を盗んで昼の光が私にキラキラと笑いかける。

 薄暗い雅苗の部屋に、少女の彼女の残像が踊るのを見た気がした。
 それは、ソファに寝ている私に近づいて、少しすねるように長く大きな手で私の右頬に触れてくる。
 「寝てますか？」
低く甘い声に私は朦朧もうろうとしながら笑いかけ、そして、それらが現実だと悟って一気に上半身を持ち上げた。

 「あっ！秋吉くん!!」

 突然の来客に私は、すっとんきょうな奇声をあげた。
 いや、なんで、どうしているんだ？秋吉？

 混乱する私に反して、秋吉は余裕で笑い、遮光カーテンを開いて光を部屋へと充満させた。
「おはようございます。ランチ、一緒にどうですか？」