オーデション〜リリース前

のーまじん

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パラサイト

尊徳フィールド

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 「昼飯?えっ。」
私は少し驚いた。
 ほんの瞬間しか寝ていないと考えていたので、寝過ごしたと思ったのだ。

 時計を見た。10時少し過ぎたくらいだ。私はほっとして、イタズラ者の秋吉を睨む。
「若いからって、10時は早いだろう、昼にはっ。」
「ははっ、怒らないでくださいよ。何しろ、本番まで12時間も無いけど、緊張しちゃって…少し、練習に付き合ってください、その後にランチを。」
秋吉はそう言ってトートバックを振る。
「練習?」
私は話について行けずに聞き返した。
 秋吉は、少し照れながら甘えるように説明を始めた。
「百物語…50話担当なんですよ。短い話の朗読ですが、怪談は…一人だと良くわからなくて。」
秋吉は、目を細めて甘えるような上目使いの笑顔を作る。

 ため息がでる。

 どうしたら、相手が自分の言うことを聞いてくれるか知っている。秋吉の笑顔はそんな、作り込まれた甘さがにじむ。
 呆れはするが、それでも、彫刻のように整うその笑顔を間近で見ると、嫌だと言えないから始末にわるい。
 「怪談の聞き役か。
 一応、長山さんから君ら、役者組の邪魔をしないように言われてるのだけど。」
秋吉の笑顔に釣られそうになった事を隠すようにぶっきらぼうにそう言った。
 が、秋吉は嬉しそうに立ち上がり、私の腕を持ち上げる。
「邪魔じゃないです!むしろ、サポートしてください。役作りの。」
「役作り?」
「ええ。台本を読んだら、きっと、興味がわくと思いますよ。」
と、秋吉は台本を私に差し出した。
 それはA4のブルーの表紙がある、コピー用紙を重ねたもので、テレビでみるような…ありがたみの感じる代物ではない。ふと、中学の文化祭の劇の台本を思い出した。
「私が、見てもいいの?」
私は台本を受け取りながら心配になって確認した。
 前に、テレビなどで役者にとって台本がどれ程大切かを話していた役者の事を思い出した。
「どうぞ。今回は朗読形式なので、特にこの辺り…」と、秋吉は台本を持ち直してページをめくる。

 私は、それのページの少し大きな題の字を読んで秋吉を見た。
 そこには、北宮尊徳先生の文字がっ。

 そう、ファーブルのフィールドを羨ましがってる場合ではなかったのだ。

 ここは…尊徳先生が幼少期を過ごした場所。
 生物学者になる土壌を作った尊徳フィールドなのだ!

 寝てる場合じゃ…ない。
 私は反射的に飛び起きた。
 「秋吉くん。ぜひ、聞かせてくれ。尊徳先生の池の話を!」
思わず叫び、秋吉の笑いを誘った。
「はい、池上さん。」

 秋吉は甘い笑顔で、私より年上のような余裕と、妙な人懐っこさを含ませて私を見た。

 一瞬…違和感が走った。
 が、それ以上、考えもしなかった。
 なぜなら、3時から温室の仕事もあるし、休み時間に近くの池に行ったら、何がいるかを調べたい。
 スニーカーを履いてきてよかった。
 私は、浮かれながらYシャツを脱ぐと、Tシャツの上からジャンパーを羽織る。

 そして、秋吉と二人分のコーヒーをいれた。
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