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パラサイト
雑木林
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裏口から庭に出ると、畑の植物に気をとられかける私を引きずるように、秋吉は裏門をでて外に行く。
白樺の林はすぐに終わり、小川を境界線に雑木林が広がっている。
100年の避暑地の歴史は、雑木林に上品な小道を作らせたが、そこから外れれば、遠い昔から、ありのままの自然体で草木や動物が生活している。
耳をすます。
シジュウカラの清んだ泣き声が聞こえる。
私は少年時代に戻り、胸が高なるのを感じた。
そろそろ、シジュウカラも巣立ちの頃だろうか?
元気な小鳥がいると言うことは、元気な虫が沢山いると言うことだ。
林の下に広がる茂みには、タヌキやムジナなどの小動物がいるかもしれない。
小動物とくれば、糞虫!
スカラベとはいかないが、コガネムシが…
尊徳先生の黄金虫が今でもこの茂みにいるに違いない。
「池上さん?」
(;゜ロ゜)…
秋吉の声に我に返った。
「すまん、少しボーッとしたよ。」
慌てる私をからかうように秋吉は見た。
「また、虫の事でも考えていたんですか? 虫の名前を当ててみましょうか?」
秋吉は挑戦的に目を細めた。
私は少し焦りながら、何も言わずに苦笑する。
「フンコロガシでしょ?」
秋吉に当てられて、私は笑って頷く。まあ、糞虫と糞転がしは、正確には違うのだが。
「ファーブルの事でも考えてたんでしょ? 尊徳先生も『ファーブル昆虫記』を愛読されていたようだし。」
秋吉は得意気に推理を披露したが、虫好きといえばファーブルをだしておけ、みたいなどや顔は少し閉口してしまう。
「ファーブルについては考えて無かったよ。」
私は正直に答えたが、それと同時に、長山の話を思い出していた。
100ミリのスカラベのミイラ…
そんなものが、存在するのだろうか?
ぼんやりと考えながら空を見上げると、針葉樹の鮮やかな緑が目に染みる。
池に向かってクヌギやブナの木が見えてくる。
ふと、足が止まる。
あのスカラベのミイラは、別の昆虫…例えば、オオクワガタの雌のようなものだったとしたら、どうだろう?
確かに、オオクワガタは、中国からインド、ベトナムなどのアジアが生息域ではあるが、ミイラなら話は別だ。
外国からの珍しい輸入品だとしたら、多少形が違っても、スカラベとして神殿に納められたのかもしれない!
古代の…オオクワガタの標本!?
軽い目眩がした。それはそれで間近で見たい気がする。
人間のミイラに興味はないが、古代エジプト人の標本の作り方を知りたいと考えた。
「大丈夫ですか?」
秋吉に右腕を捕まれて、私は深いため息をつく。
いかん、いかん!仕事に集中しなければ。
「いや、大丈夫。少し目眩がしただけだから。
なんの話だったかな?スカラベの話?」
「北宮尊徳先生の話ですよ。」
秋吉は少し呆れながらも、私の様子にホッとしたような穏やかな笑みを浮かべていった。
「尊徳先生の…そうだ、この雑木林は、北宮家の夏の避暑地で、少年の尊徳先生も、この林で色々な昆虫を採取して標本にされたと聞いたことがあるよ。」
私は、高校時代のクラブ活動を思い出していた。
「でも、妖怪を捕まえようとしていた事は、知らないでしょ?」
「え?」
私は、シンプルに驚いて秋吉を見た。
妖怪捕獲…そんな、ふざけた話を聞いたことはない。否、興味がなくて頭に残したりはしていなかった。
私の驚く顔に、秋吉は満足そうにニヤリと笑う。
「どうも、これから向かうため池に、いるらしいですよ。妖怪が。」
秋吉が嬉しそうに先を行く。
私はその後ろ姿を見つめながら、不思議な気持ちになった。
池の妖怪といえば、カッパだろうか?
少年の尊徳先生がカッパを探す様子を思い浮かべた。
白樺の林はすぐに終わり、小川を境界線に雑木林が広がっている。
100年の避暑地の歴史は、雑木林に上品な小道を作らせたが、そこから外れれば、遠い昔から、ありのままの自然体で草木や動物が生活している。
耳をすます。
シジュウカラの清んだ泣き声が聞こえる。
私は少年時代に戻り、胸が高なるのを感じた。
そろそろ、シジュウカラも巣立ちの頃だろうか?
元気な小鳥がいると言うことは、元気な虫が沢山いると言うことだ。
林の下に広がる茂みには、タヌキやムジナなどの小動物がいるかもしれない。
小動物とくれば、糞虫!
スカラベとはいかないが、コガネムシが…
尊徳先生の黄金虫が今でもこの茂みにいるに違いない。
「池上さん?」
(;゜ロ゜)…
秋吉の声に我に返った。
「すまん、少しボーッとしたよ。」
慌てる私をからかうように秋吉は見た。
「また、虫の事でも考えていたんですか? 虫の名前を当ててみましょうか?」
秋吉は挑戦的に目を細めた。
私は少し焦りながら、何も言わずに苦笑する。
「フンコロガシでしょ?」
秋吉に当てられて、私は笑って頷く。まあ、糞虫と糞転がしは、正確には違うのだが。
「ファーブルの事でも考えてたんでしょ? 尊徳先生も『ファーブル昆虫記』を愛読されていたようだし。」
秋吉は得意気に推理を披露したが、虫好きといえばファーブルをだしておけ、みたいなどや顔は少し閉口してしまう。
「ファーブルについては考えて無かったよ。」
私は正直に答えたが、それと同時に、長山の話を思い出していた。
100ミリのスカラベのミイラ…
そんなものが、存在するのだろうか?
ぼんやりと考えながら空を見上げると、針葉樹の鮮やかな緑が目に染みる。
池に向かってクヌギやブナの木が見えてくる。
ふと、足が止まる。
あのスカラベのミイラは、別の昆虫…例えば、オオクワガタの雌のようなものだったとしたら、どうだろう?
確かに、オオクワガタは、中国からインド、ベトナムなどのアジアが生息域ではあるが、ミイラなら話は別だ。
外国からの珍しい輸入品だとしたら、多少形が違っても、スカラベとして神殿に納められたのかもしれない!
古代の…オオクワガタの標本!?
軽い目眩がした。それはそれで間近で見たい気がする。
人間のミイラに興味はないが、古代エジプト人の標本の作り方を知りたいと考えた。
「大丈夫ですか?」
秋吉に右腕を捕まれて、私は深いため息をつく。
いかん、いかん!仕事に集中しなければ。
「いや、大丈夫。少し目眩がしただけだから。
なんの話だったかな?スカラベの話?」
「北宮尊徳先生の話ですよ。」
秋吉は少し呆れながらも、私の様子にホッとしたような穏やかな笑みを浮かべていった。
「尊徳先生の…そうだ、この雑木林は、北宮家の夏の避暑地で、少年の尊徳先生も、この林で色々な昆虫を採取して標本にされたと聞いたことがあるよ。」
私は、高校時代のクラブ活動を思い出していた。
「でも、妖怪を捕まえようとしていた事は、知らないでしょ?」
「え?」
私は、シンプルに驚いて秋吉を見た。
妖怪捕獲…そんな、ふざけた話を聞いたことはない。否、興味がなくて頭に残したりはしていなかった。
私の驚く顔に、秋吉は満足そうにニヤリと笑う。
「どうも、これから向かうため池に、いるらしいですよ。妖怪が。」
秋吉が嬉しそうに先を行く。
私はその後ろ姿を見つめながら、不思議な気持ちになった。
池の妖怪といえば、カッパだろうか?
少年の尊徳先生がカッパを探す様子を思い浮かべた。
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