オーデション〜リリース前

のーまじん

文字の大きさ
80 / 208
パラサイト

ウスバキトンボ

しおりを挟む
ガイア理論…1960年代に流行した概念だ。
地球自体が大きな生き物で、生物と地球は相互関係にあり、お互いがより良く生きて行けるように自己制御していると言う考え方である。

雅徳さんは、そのガイア理論に独自の仮説を追加していた。
その相互関係の伝達者が昆虫であり、ウイルスである…と言うのだ。

彼は昆虫と細菌、ウイルスをまとめて『蟲』と表現した。

これは、三尸さんしと呼ばれる伝説をもとにしている。
これは、元々は道教から由来した伝説で、人間の体には虫がいて、それらは庚申と呼ばれる日の夜に這い出してきて、神様に宿主の悪さを告発して寿命を縮めると言うのだ。

雅徳さんは、三尸のような役割を細菌やウイルスが担当し、様々な生物間の情報を交換しながら調整をしていると考えていたようだ。

ふと、雅苗の栞を思い出した。
あれが挟まっていた本を思い出した。
子供用の昆虫の本のウスバキトンボのページだった。
おじいちゃまの虫

幼い文字で書かれた言葉が胸に鋭く刺さった。

何か、言い知れない重苦しい感覚と共に、かつてこの部屋でおこったろう情景が思い浮かんだ。

この部屋は、まだ、雅苗の書斎ではなく、机の横の立派な革製の椅子は、雅徳さんを主と認めていた頃。
雅徳さんに抱えられるように座り、あの本に少女の雅苗が文字を書いていた。
おじいちゃまの虫…

空想の雅徳さんは、優しく娘の耳元で囁く。

「そう、雅苗のおじいちゃまは、遠い南の国の土になってしまったけれど、その肉体や魂は、虫たちに受け継がれて世界を回っているんだよ。」


肩の辺りが、邪悪な重苦しさに包まれる。

ウスバキトンボは、中国や東南アジアから飛んでくる。
あの小さな体を極限まで軽量化し、グライダーのように空を泳ぎ……。

深い森の奥で、数多(あたま)の生物に蝕まれながら、土へと同化し、沈む尊徳先生の屍が見えたような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...