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7話 慟哭の銃声
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二課突入数十分前。
「いいよなぁ後方の連中は。俺らと違って仕事全然しないんだぜ?」
「おい、指揮長に聞こえるぞ。やめとけって。」
「大丈夫だって音声だけ切ってるから!はぁ、こんなことなら行動六課にでも入って、空から優雅にコーヒーでも」
「…聞こえているぞ成瀬一等機動官。」
「うっわやっべ。」
行動三課は現在、14エリア支部局内部への突入を試みていた。
14エリア支部局前には、開けた大通りが存在する。
左右にそびえるビル群から狙撃される可能性を考慮し、
三課第一部隊は、大通りを両挟みする形で班を分け、それぞれの対角線上に位置するビルを警戒していた。
三課指揮長の澤部は、行動六課に協力を仰ぎ、左右のビル群に対して上空からの熱源探知を行っていた。
「六課より三課へ。熱源反応なし。熱源反応なし。」
「ねぇのかよ。じゃあ全員仲良くあの中に籠城ってことか?」
「オープン回線でべらべら喋るな、成瀬一等。」
「回線の切り方が分からないでーす。」
はぁ、と溜め息をつく。しかし澤部には、頭の悪い部下の相手をしている暇などない。
兎にも角にも、両側から狙撃などをされる事はないとわかったのは大きい。
evilらが籠城作戦を取っていたとしても、三課の戦力と六課の軍事ヘリを用いれば押し切れる。
澤部にとっての残りの課題は、いかに最小限の被害で14エリア支部局を攻略できるかであった。
「よし、第一部隊、前進し」
「六課より三課へ。熱源反応あり。こちらに接近する熱源反応あり。」
「…数は。」
「1です。」
言葉を失った。
1人で何ができるというのだ。
それとも、何かを狙っての行動なのか。
いずれにせよ、用心するに越したことはない。
「前進停止。総員、警戒せよ。」
各員に熱源反応がある座標を送信する。各員のヘルメット型の暗視ゴーグル内に、熱源が赤い記で表示された。
14エリア支部局を正面にして左側、第一部隊から20mほど離れた、ビルとビルの間の狭い路地だった。
ビルを盾にする形で、各員はその方向へ注意を向ける。
そして、
「来るぞ。」
トリガーに指が掛かる。いつどのタイミングで来ても、一瞬で射抜けるように。
しかし、現れたのは。
「…子供。」
ゆらゆらと、ふらふらと、狭い路地からその少年は現れた。
今にも転げてしまいそうで、片足を引きずり、腰は曲がり、両手はうなだれ、顔は黒い髪で隠され見えなかった。
全身は血で赤く染まり、あまりにも無残で惨めな姿だった。
彼は我々の存在に気づき、力を振り絞りながらも逃げようとしているように見えた。何とか、大通りの真ん中辺りまで辿り着いたところで、彼は力尽きたように倒れこんだ。
それでも彼は、地面を這って、地面を這って。這って這って這い続けた。
「指揮長。」
あまりにも惨めな少年の姿に、哀れみとも躊躇いとも違う何かが、彼らの中で湧き上がる。
彼がどのような経緯で、こうも無残な姿に成り果てたのかは、おそらく、彼らが一番理解していた。
すべてのevilを殲滅する。しかし、目の前に倒れているのは間違いなく、我々と同じ姿で、必死に、必死に生き延びようとしている一人の人間だった。だが無慈悲にも、evilはこの世界の害である。evilはすべて、排除しなくてはならない。誰がいつ、どこで決めたのかは分からない。疑うことも、不思議に思うこともなく、そういうものなのだと認識して彼らは生きてきた。しかし、彼らの目の前で苦しむ少年の姿は本物だった。
何故、同じ姿をして、あんなにもボロボロになってまで生きようとしている一つの命を奪わなくてはいけないのか。
だが、そうさせたのは誰なのか。誰がこのような慈悲無き世界を作り上げたのか。
まごうことなく、それは私たち自身だった。私たち一人一人が、この社会を作り上げたのだ。
誰もが世界の在り方やルールに疑問を持たず、ただ生まれ、育ち、そこにあったものを享受する。
そのような人間たちが集い、形成したのが今の社会・世界なのだ。
彼らの心に起こった、やり場のない思いは、自答と困惑と葛藤を越えて、一つの結論に辿り着く。
「…命令を下さい、澤部指揮長。」
諦めだった。
社会も何も、私たちでは変えられないと、この世界に生れ落ちてしまったのだから仕方がないと。
彼らは諦めたのだ。
そうであるならば、彼らは今一度自分の立場を理解し、今与えられた状況の中での最善の選択をすることを決めた。彼らは軍人である。自分を押し殺し、感情を消し、余計なことは考えず、狂人となり、上の命令に従う。
澤部は、それをすべて理解した上で、こう命令を出すのだった。
「…今作戦の規定に従い、対象をevilと断定。…対象を、殺せ。」
そして何十、何百もの銃声が、辺りに鳴り響いた。
「いいよなぁ後方の連中は。俺らと違って仕事全然しないんだぜ?」
「おい、指揮長に聞こえるぞ。やめとけって。」
「大丈夫だって音声だけ切ってるから!はぁ、こんなことなら行動六課にでも入って、空から優雅にコーヒーでも」
「…聞こえているぞ成瀬一等機動官。」
「うっわやっべ。」
行動三課は現在、14エリア支部局内部への突入を試みていた。
14エリア支部局前には、開けた大通りが存在する。
左右にそびえるビル群から狙撃される可能性を考慮し、
三課第一部隊は、大通りを両挟みする形で班を分け、それぞれの対角線上に位置するビルを警戒していた。
三課指揮長の澤部は、行動六課に協力を仰ぎ、左右のビル群に対して上空からの熱源探知を行っていた。
「六課より三課へ。熱源反応なし。熱源反応なし。」
「ねぇのかよ。じゃあ全員仲良くあの中に籠城ってことか?」
「オープン回線でべらべら喋るな、成瀬一等。」
「回線の切り方が分からないでーす。」
はぁ、と溜め息をつく。しかし澤部には、頭の悪い部下の相手をしている暇などない。
兎にも角にも、両側から狙撃などをされる事はないとわかったのは大きい。
evilらが籠城作戦を取っていたとしても、三課の戦力と六課の軍事ヘリを用いれば押し切れる。
澤部にとっての残りの課題は、いかに最小限の被害で14エリア支部局を攻略できるかであった。
「よし、第一部隊、前進し」
「六課より三課へ。熱源反応あり。こちらに接近する熱源反応あり。」
「…数は。」
「1です。」
言葉を失った。
1人で何ができるというのだ。
それとも、何かを狙っての行動なのか。
いずれにせよ、用心するに越したことはない。
「前進停止。総員、警戒せよ。」
各員に熱源反応がある座標を送信する。各員のヘルメット型の暗視ゴーグル内に、熱源が赤い記で表示された。
14エリア支部局を正面にして左側、第一部隊から20mほど離れた、ビルとビルの間の狭い路地だった。
ビルを盾にする形で、各員はその方向へ注意を向ける。
そして、
「来るぞ。」
トリガーに指が掛かる。いつどのタイミングで来ても、一瞬で射抜けるように。
しかし、現れたのは。
「…子供。」
ゆらゆらと、ふらふらと、狭い路地からその少年は現れた。
今にも転げてしまいそうで、片足を引きずり、腰は曲がり、両手はうなだれ、顔は黒い髪で隠され見えなかった。
全身は血で赤く染まり、あまりにも無残で惨めな姿だった。
彼は我々の存在に気づき、力を振り絞りながらも逃げようとしているように見えた。何とか、大通りの真ん中辺りまで辿り着いたところで、彼は力尽きたように倒れこんだ。
それでも彼は、地面を這って、地面を這って。這って這って這い続けた。
「指揮長。」
あまりにも惨めな少年の姿に、哀れみとも躊躇いとも違う何かが、彼らの中で湧き上がる。
彼がどのような経緯で、こうも無残な姿に成り果てたのかは、おそらく、彼らが一番理解していた。
すべてのevilを殲滅する。しかし、目の前に倒れているのは間違いなく、我々と同じ姿で、必死に、必死に生き延びようとしている一人の人間だった。だが無慈悲にも、evilはこの世界の害である。evilはすべて、排除しなくてはならない。誰がいつ、どこで決めたのかは分からない。疑うことも、不思議に思うこともなく、そういうものなのだと認識して彼らは生きてきた。しかし、彼らの目の前で苦しむ少年の姿は本物だった。
何故、同じ姿をして、あんなにもボロボロになってまで生きようとしている一つの命を奪わなくてはいけないのか。
だが、そうさせたのは誰なのか。誰がこのような慈悲無き世界を作り上げたのか。
まごうことなく、それは私たち自身だった。私たち一人一人が、この社会を作り上げたのだ。
誰もが世界の在り方やルールに疑問を持たず、ただ生まれ、育ち、そこにあったものを享受する。
そのような人間たちが集い、形成したのが今の社会・世界なのだ。
彼らの心に起こった、やり場のない思いは、自答と困惑と葛藤を越えて、一つの結論に辿り着く。
「…命令を下さい、澤部指揮長。」
諦めだった。
社会も何も、私たちでは変えられないと、この世界に生れ落ちてしまったのだから仕方がないと。
彼らは諦めたのだ。
そうであるならば、彼らは今一度自分の立場を理解し、今与えられた状況の中での最善の選択をすることを決めた。彼らは軍人である。自分を押し殺し、感情を消し、余計なことは考えず、狂人となり、上の命令に従う。
澤部は、それをすべて理解した上で、こう命令を出すのだった。
「…今作戦の規定に従い、対象をevilと断定。…対象を、殺せ。」
そして何十、何百もの銃声が、辺りに鳴り響いた。
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