悪魔の国

謎の人

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12話 喰らうもの

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「随分必死だなぁ、お前。」

拾い上げた散弾銃を右肩に担ぎながら蔵馬はそう言った。


「ハァ…、ハァ…。」


その時、後方で咳音がした。

少年が視線を向ける。
少年の攻撃とヘリの爆発で死んだと思われた機動官の一人がまだ生きていたのだ。


刹那、少年が右手から黒を這いずらせ、その機動官を刺した。


そのまま黒をまるで食器のように素早く起用に動かし、彼の頭上に機動官の体を持って来る。

人間の腕のような形状をした無数の黒が、体から這い出る。

黒い腕は彼の頭上の機動官の四肢を掴み始める。

少年は機動官の腹部に刺したままだった黒を抜いた。


ぽっかり空いた穴から血が降り注ぐ。


「…まさか。」


蔵馬が何かを悟る。


「三課総員!あれを撃て!」


「は、はい!?」


「いいから撃て!」


三課の機動官たちは、何が起こっているのかわからぬまま、命じられたままに斉射を始める。


「くそっ!」


蔵馬はハンドガンを撃ちながら急いで彼へ走る。




「あーん。」




上を向き大きく口を開けた。降り注ぐ紅い液体を飲み込み始める。

降りしきる銃弾はお構いなしに。

蔵馬が少年を屠れる程の射程に収める。



しかし



「ごちそうさま。」



ボゥン、という音とともに、溢れ出し、粒子が一つの束の様になり、途端に暴発する。


「ぐっ!」


その風圧で蔵馬が後方に吹き飛ばされる。

溢れ出た粒子達は、無数の銃弾を跳ね除け、やがて彼の体へと帰する。

傷ついた彼の体が癒えていく。


「あいつ、人間の血が力の根源ということか。」


少年の両手から再び、複雑に絡み合った黒が爆発的に鋭く展開されていく。

だが、二度も同じ攻撃を、そう易々と喰らう蔵馬ではない。
蔵馬は先行する一段目を、体を右に傾けて回避し続く二段目三段目も悠々と避けて見せた。

しかし少年の狙いは蔵馬の後方にあった。


「逃げろ!」


前衛に位置していた三課の機動官らは、ほとんどが貫かれ、その他の機動官もなんとか一段、二段目を躱す者もいたが、程無くして蜘蛛の巣の様な複雑さで襲い掛かる黒の餌食となった。

機動官の貫かれる様を左目に捉えていた蔵馬は、瞬間的に哀憐の情を抱いたが、すぐに拭い去った。

そのような感情を抱きながら戦闘を続ければ、屠られるのは自分だと理解していた。

蔵馬にとって、それ程今の少年の力は油断ならないものだったのだ。

再び少年に視線を向け、突撃する。反撃の好機だ。


向かってくる黒を、紙一重で躱しながら全速で接近し、彼の首を狙って蹴りを差し込んだ。

少年は、接近戦は不利だと悟り、黒の固定を崩壊させ、顎を上に向け後方へ退き、一寸ばかりの差で蹴りを流した。

さらに接近してくる蔵馬を牽制するため、少年は後方に退くそのまま後方回転に繋げ、倒立状態のまま勢いよく両足を振り回す。続けざまに地面に接触している両手の指先から幾本もの黒槍を出現させた。


「ちッ、鬱陶しい」


攻撃こそ躱せるものの、人間とはかけ離れた手数の多さに翻弄される蔵馬。

隙が発生するごとに散弾を放つが、全て黒に阻まれる。


倒立から直った少年が、地面に両手をつき、先ほど三課の機動官らを殺ったよりも多く粒子を出現させ、
正面上左右からの攻撃を繰り出す。

網目の様に展開した黒の隙間は、一匹の羽虫をも通さぬ程の目の細かさだった。
加えて展開した黒の左右から、殺意溢れる黒槍が無数に飛び出す。


蔵馬はすぐさま後方へ引き、迫ってくる巨大な黒い蜘蛛の巣との距離を測りながら、次々に飛び交う黒槍を何とか回避する。


しかし、視界に集中を裂きすぎた。

新たな位置からの黒槍の出現に対応するのが1コンマ遅れる。



正面からの巨大な一閃。



左右に対応するばかりに、体勢が安定していなかった。


少年は反応が遅れた蔵馬を見逃すはずもなく、網目状に展開していた黒を、

蔵馬という一点に集中するように鋭く仕向ける。


蔵馬は攻撃から目を離すことなく、今の体勢から最も被弾回数の少ない方法で回避する最適解を導き出そうとする。



躱しきれるか。いや、仮に一段目は流せたとしても、後ろが無理だ。
まあ、いいさ。片腕の一本くらい。



その時、蔵馬の正面に人影が現れる。

一点に集中する攻撃をすべて彼は左の手のひらで受け止める。

いや、受け止めているのではない。



『喰っている』のだ。



あのおびただしい量の、禍禍しく瘴気を放つ、殺意溢れる黒をすべて。



眼前の黒をたらふく喰った彼は、背中を向けたまま彼女にこう言った。



「遅れてすみません。少尉。」



「…あぁ、大遅刻だ。」


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