戦国澄心伝

RyuChoukan

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第一百三十二話 火縄試門・雨路地の血

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     二夜目。東山の残院の門灯は、いっそう揺るぎなく灯っていた。

弥助はいつものように廊下で木刀を磨いている。

刀身は古いが、柄は日に日に手になじみ、滑らかさを増していた。

柳澈涵は、派手な型を教えたことはない。

教えたのは、ただ二つ。持ち場を守ること。心を守ること。

夜半、門の外でごく軽い瓦の音がした。

猫ではない。

人のつま先が塀の上にそっと触れた音だ。

弥助の目がぱっと光る。

立ち上がろうとしたところを、柳澈涵の手が肩を押さえた。

「先を争うな。」

柳澈涵は低く言う。「まずは守れ。」

次の瞬間、塀の影から二つの影が庭に降り立つ。

黒装束に覆面。

刀は短く速いが、足の運びは乱れない。

彼らは真っ直ぐ主屋へ突っ込むのではなく、まず脇の棟のほうへ回り込む。

まるで、どこかにある「門」を探しているようだった。

弥助の胸がどんと沈む。

彼らが探しているのは先生ではない。八重美だ。

門を奪われれば、先生のどれほど鋭い刀も、門の外に閉じ込められる。

柳澈涵は、あえてすぐには刀を振るわない。

まず、庭の「境界」を変えた。

前へ一歩踏み出しただけで、気配が潮のように押し寄せ、庭の空気が一気に押さえつけられる。

二人の刺客の動きが同時に一瞬止まり、呼吸のリズムが半拍ぶん乱れる。

その半拍が、隙間だった。

柳澈涵が刀を抜く。

刃の光は長くない。

袖の底から抜き出された一筋の冷たい月のように、最短の軌道をなぞって入り込む。

最初の刺客は、連続の突きを出そうとしていた。

二突目がようやく半ばまで出たところで、その刀勢は断ち切られ、手首が痺れ、身体ごと刀と一緒に半歩横へ押しやられる。

弥助はこの半歩の空白に飛び込んだ。

彼が向かったのは殺すためではない。

押さえるためだった。

木刀を横に張り出し、偏院の小さな門の前に、体ごと叩きつけるように立つ。

第二の刺客の目が鋭く光る。

短刀が一直線に弥助の脇腹を狙ってくる。

弥助は歯を食いしばり、腰をひねる。

木刀で斜めに受け、力をいなそうとしたが、半拍遅れた。

刃先が衣の横をかすめ、焼けつくような線が走る。

痛みで一瞬、視界が暗くなる。

それでも退かない。

彼は柳澈涵に教えられた言葉を思い出す。

――持ち場を守れ。門さえ守れば、先生が斬る。

柳澈涵は弥助の血を目にしても、心を乱されない。

彼は一歩踏み込んで刺客の影の中へ入り、刀身を相手の刃の背に沿わせるようにあてて、軽く震わせた。

短刀は、より大きな力にねじられたかのように方向を外される。

刺客は動揺し、息を吸い直して再び飛びかかる。

柳澈涵の目は、さらに冷えた。

幻にも頼らず、虚勢にも頼らず、ただ「お前が次に動く一瞬は、すでに見ている」という圧だけで。

刺客の呼吸が荒くなればなるほど、見えない手に喉を掴まれているようになる。

一閃。

刃の光が過ぎ、刺客の喉元に細い線が浮かんだ。

彼は二、三歩よろめき、倒れながらもなお、何かを掴もうとするように手を伸ばした。

もう一人の刺客は形勢の不利を悟ると、その場で踵を返した。

塀の外へ逃げるのではなく、路地のほうへ滑り込む。

あらかじめ足で確かめていた道があり、どこに暗い抜け道があるかを知っているかのようだった。

柳澈涵は深くは追わない。

路地の口まで追い、雨上がりの石畳の上に立って、闇に消えていく背中を見送るだけだ。

「先生……」

弥助は脇腹を押さえ、声を震わせる。恐怖ではなく、こらえていた息のせいで。

「入らせませんでした。」

柳澈涵は振り返る。

その目に、初めてごくかすかな承認の光が宿った。

「よくやった。」

二人は刺客の遺体を庭の片隅へ運ぶ。

柳澈涵は身を屈め、相手の袖の中から灰黒色の火縄を一本つまみ出した。

火縄の端には鉛粉がついており、南蛮物を思わせる匂いが微かに漂う。

弥助はその匂いを嗅いで、身震いした。

「これは……。」

柳澈涵は答えず、火縄を袖に収める。

そして塀のほうを見上げ、低く言った。

「やつらは門を試している。八重美の門も、我らの門も。」

弥助は歯を食いしばる。

「では、八重美殿は……。」

「今夜、彼女は来ていない。」

柳澈涵は言う。

「だからこそ、やつらは焦る。門が見えぬなら、門そのものを奪い返そうとする。」

彼が立ち上がると、東山から風が吹き抜け、庭の楓がさやさやと鳴った。

その音は、雨上がりの涼しさというより、闇の中で歯を研ぐ火の音に近かった。

庭の片隅で、刺客が息絶える間際に吐き出した二文字を、柳澈涵ははっきりと覚えている。

「帳を改める。」

この京で、誰かが帳面を書き換えようとしている。

書き換えられるのは銀ではない。命だ。
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