戦国澄心伝

RyuChoukan

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第一百四十九話 諸将後到・笑裏に刀を蔵す

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      翌日、澄斎の門前は、賑やかでありながら騒がしくはなかった。

それは「鞘と鞘が触れ合う」熱だ。清洲の主だった将たちがそれぞれ廊に入り、その一歩一歩に、自らの身分の重みを乗せてくる。

最初に姿を見せたのは柴田勝家だった。座もまだ定まらぬうちから声が飛んでくる。

「お前というやつは、ひとたび出ていけば戻るまでが長い。戻ってきたと思えば、女房ひとり抱えておるとはな!」

言葉は荒い。だが、その荒さはそのまま本音だった。

続いて丹羽長秀が現れる。その顔つきは帳簿のように落ち着いている。

「主上は、すでに名分をお認めか。」

柳澈涵はうなずく。

「御記しになりました。」

丹羽は「真偽」ではなく、「そのあとどう動くか」だけを問う男だ。

佐久間信盛が入ってくるころには、視線はすでに四方へ走っている。彼は一語のうちに、必ず半歩分を「外」のために残しておくのが癖だ。

最後に廊に入ってきたのが木下藤吉郎である。

彼は廊に足を踏み入れた瞬間から笑っている。その笑みは飴の中に針を忍ばせたようだ。

「いやはや、柳殿。ようやっとお戻りで。京の風がこちらまで吹いてきましてな――『澄原先生』とやらのお噂が、耳を痒うしておりましたわ。」

「澄原」の二文字を冗談めかして口にしながら、目は柳澈涵から片時も離れない。その反応ひとつで、「古い名」がどこまで彼の気を乱すかを見ようとしている。

柳澈涵は、ただひと言返すだけだ。

「名を取り違える者は、刀も見誤る。」

藤吉郎は一層おかしそうに笑う。

「そりゃあいい。いっそ好きなだけ言わせておきましょう。舌を噛み切るまで。」

前田利家がやや遅れて現れる。

廊に入るなり、しばし黙したまま八重美を一瞥し、ついでに柳澈涵を一瞥する――見ているのは女自身ではない。「この一歩が清洲の足手まといになるか否か」だ。

八重美はその視線を受け、軽く礼をして、澄んだ笑みのまま、いつも通り「夫君」と呼ぶ。

利家の眉がわずかに動き、それから拳を合わせ、低くまっすぐ言う。

「おめでとう。」

その「おめでとう」は祝福というより、「認可」に近い。

茶が置かれる。礼式は煩わしくない。清洲の将たちが好むのは、「早く、揺るがぬ」やり方だ。

丹羽がまず京や堺の風向きを問う。柳澈涵は感情の襞を広げず、「使える骨」だけを並べる。

塩、布、紙、油、薬、鉄――堺から山城へどう入るか。京でどのように「値を替えられ」、帳簿の上でどう「きれい」になるか。

南蛮渡来の品へ話が及んだとき、柳澈涵はわずかに言葉を置く。

「火器の値は安くはありません。今すぐ他国の大名に振りまくものではない。――だが、いずれ清洲が『新しい戦い方』を選ぶなら、この道は切らしてはならない。」

柴田勝家が鼻を鳴らす。

「人間を篩にかけるつもりか。」

柳澈涵は淡々としている。

「人を篩にかけたいのは、器ではなく、局のほうです。」

藤吉郎はすかさず、見事に受けてみせる。

「柳殿の申される通りですな。帳簿もまた刀――わしは帳簿を、もっとよく研いでおきましょう。」

利家は冷ややかにひと言。

「口を甘くするのはたやすい。難しいのは、人に恐れられることだ。」

短いやりとりのうちに、三つの処し方が机の上に並ぶ。

柳澈涵は黙ってそれを聞き、目の色も変えないまま、それぞれの「刀の刃先」を心に刻んでいく。

ここで八重美がふいに口を挟んだ。一見すると冗談めいているが、その実、話を本筋へと打ち返す一言だ。

「これだけの大人方がお揃いですのに、門や道の話ばかりではもったいのうございますわ。夫君がわたしを連れて戻ったのは、清洲に口をひとつ増やすためではなく、灯をひとつ増やすためですもの。その灯を誰かに吹き消されるようなことがあれば、吹き消した者には、まず顔を見せていただかなくては。」

利家は一瞬目を見開き、それから声を立てて笑った。

「まっすぐな物言いだ。刀のようだな。」

柴田勝家も鼻で笑う。

「柳よ、今回は厄介を抱えてきたわけではないようだ。」

藤吉郎は茶碗を軽く掲げる。

「ご夫人、豪胆なお方だ。」

八重美は礼を返し、笑みを崩さない。

「ただ、夫君を信じているだけにございます。」

諸将が次々と引き上げていったあとで、柳澈涵は佐吉にひと言だけ告げた。

「幸蔵を呼べ。」

八重美は横目で笑う。

「夫君、あの刀傷面の目付け役を、いよいよ表へ出されるのですね。」

柳澈涵は淡々と答える。

「やつが表に出るということは、暗がりで手を伸ばす者がいるということだ。」
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