カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

文字の大きさ
77 / 140

第七十七話 五億円の領収書

しおりを挟む
 時刻:当夜 20:00

 場所:日本中のリビング/居酒屋/澄心衛星放送 スタジオ

 日本のメディア史で、最も暗い夜だった。民放五局、全国紙三紙が、まるで同じ指令を受けたかのように同時砲火。画面には赤太字の見出し、陰湿なBGM。

【独占:澄心グループは外資のトロイの木馬!】
【F区:洗脳カルトの独立王国か?】
【澄原龍立:日本の伝統を壊す悪魔、国家経済転覆を企図】

“経済評論家”を名乗る連中が、スタジオで唾を飛ばす。「龍立の“高給”と“安売り”は悪質なダンピングだ! 中小企業を潰し、独占したら値上げして吸血するつもりだ! F区の学校は愛国を教えず、崇洋媚外を教えると聞いた! 次世代を壊す教育だ!」

 世論は一気に燃え上がった。事情を知らない過激派が澄心銀行の前で赤ペンキを撒き、澄心物流の運転手は配送中に「売国奴」と罵倒され、澄心社員の子どもが学校でいじめられて泣いて帰る。

――澄心衛星放送・バックヤード。

 浅見玲奈はモニター映像を見て、怒りで震えていた。爪が肉に食い込む。「……捏造よ。これは集団リンチ。集団殺人じゃない!」彼女はマイクを掴み、スタジオへ飛び出そうとした。「私が訂正する! 封鎖されても、真実を言う!」

「落ち着け。」修長で力のある手が、肩を押さえた。振り向くと、龍立がいつの間にか背後に立っていた。画面の中で彼が“悪魔”と叫ばれているのに、表情は退屈な芝居を見るように平坦だった。

「社長……悪魔だって……」玲奈は目を赤くし、涙をこらえる。「反撃しないと、言葉の洪水で殺されます!」

「反撃は、声の大きさじゃない。」龍立は吉岡と佐久間に視線を投げた。「用意は?」

「GIGA互娛、全プラットフォームのポップアップ準備完了。ユーザー八千万人に届きます。合法のシステム告知枠です。」吉岡の指がエンターキーの上で止まっている。

「情報部が集めた素材は編集済みです。……芸妓の証言まで入ってます。」佐久間が暗号化されたハードを差し出した。龍立はそれを玲奈へ渡した。

「弁解はいらない。俺が善人だと証明する必要もない。」目が冷える。「――罵っている連中が、何者かを見せればいい。」

 午後 20:05。主流メディアが最も騒いでいる、その瞬間。日本中の数千万の若者のスマホ、タブレット、PC画面が、同時に一度だけ震えた。

【システム告知:澄心グループ調査の真相と、“拾った領収書”について】

 開いた先に、長い弁明はない。あるのは、たった二枚の画像だけ。

 画像1:
 くしゃくしゃで油染みのあるコンビニのレシート。
 ・商品:値引きおにぎり(梅)×2
 ・金額:220円
 ・時刻:23:45
 ・注記:これは、澄心が出会う前の“ある清掃員”の夕食。子どもの参考書代を捻出するため、彼女は三カ月、肉を口にしていない。

 画像2:
 赤坂の高級料亭「松屋」から流出した内部伝票(鮮明、店印あり)。
 ・時刻:昨夜
 ・客:大門剛造および派閥議員
 ・内容:特上懐石(河豚刺身含む)、極上大吟醸×5、芸妓サービス料
 ・金額:5,800,000円
 ・注記:【「政治活動費」として計上、国民の税金で精算】

 画像の下には、赤く刺さる一行。
「この一食は、清掃員二万六千人の夕食だ。これが国会で“守る”と叫ぶ『日本の伝統』なのか?」

――泣きどころは、容赦なく突き刺さった。

 コメント欄が爆発した。抽象的な正義論ではない。目の前に突きつけられた“具体の格差”が、社畜の怒りを一斉に点火した。「俺の税金、これに消えてるのか? オムツ代を節約して一日一食なのに、あいつらは一晩で五百万? 返せ。血税を返せ!」

――大門事務所。

 大門剛造はスマホを見て、手が激しく震えた。ワインが高価な絨毯にこぼれる。「くそ……プライバシー侵害だ! 訴える!」

 秘書が青ざめた。「先生、無理です……それは“政治資金”で、用途は本来公開対象です。彼は“前倒しで公開”しただけで……世論が暴走しています。抑えなければ選挙が……」

 大門の目に凶光が走る。追い詰められた獣の眼。「大きく出るつもりか。なら、国会で潰す。澄原龍立を証人喚問しろ。偽証を背負わせて牢に叩き込め。二度と喋れないように。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...