カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

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第八十七話 シリコン・スクリーン降臨

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 時:澄心精工がフル稼働に入って三か月目――午前09:55。

 所:東京湾F区・澄心精工 第一総組立工場

 巨大な工場の空気には、機械油と金属切削液が混ざり合った独特の匂いが漂っていた。源田鉄男(六十二)にとって、それはどんな香水よりも甘美な香りだった。

 数百台の精密CNCが心地よい唸りを奏で、ロボットアームは疲れ知らずの舞手のように空へ優雅な弧を描く。源田は、仕立てたばかりの銀色の「タイタン機甲(EXO-Titan)」を纏い、ラインの中枢に立っていた。半年前なら、彼は車椅子の上で震える手を見つめるしかなかった。だが今は違う。油圧の骨格が彼を支え、若き指揮官のように現場を統べる。五十キロの脚部ユニットを、片手で持ち上げられるほどに。

「おい、山田! そっちの油圧ラインの取り回しが違う!」

 源田の声は機械の轟音を割って、鋭く通った。「このロットは北海道・夕張の老人ホーム行きだ! 今日は大雪だぞ。向こうの老人たちは、この機甲で雪を掻くのを待ってる。あれは“脚”だ。――“命”だ。雑にやった奴は、俺が許さねえ!」

「はい、総工!」

 若い弟子の山田は汗を拭い、誇らしげに笑った。ここで働く者たちの胸には、強烈な使命感があった。彼らが造っているのは機械ではない。尊厳だ。

 ――10:00 ちょうど。

 爆発も、煙もない。だが“死”より恐ろしい静寂が、前触れもなく降ってきた。

「ジ――」

 目に見えない巨大な手が、工場の喉を一息で締め潰したかのように。高速回転していた数百台の主軸が同時に低い溜息を吐き、止まった。表示灯は健康な緑から、刺すような赤へ一斉に変わる。コンベアが止まった。組み上げ途中の機甲は、機械腕をだらりと垂らす。魂を抜かれた死体の群れだ。

 そして――源田のタイタン機甲までもが、「カチッ」と嫌な音を立ててロックし、動力を失った。重い鉄の枷となって彼の身体を沈め、膝を折らせかけた。

「どうなってる!? 停電か!?」

 山田が青ざめて叫ぶ。

 ――CEOオフィス。

 CTO・吉岡俊介は、六枚の監視モニターに釘付けになっていた。エラーコードは出ていない。ただ、画面の中央に“血のように赤い”巨大なポップアップが一つ。そこには米国商務省の鷲章。

【SYSTEM LOCKDOWN】
【Unauthorized Hardware Detected. Violation of U.S. Export Administration Regulations (EAR).】
【システムロック:未承認ハードウェアを検知。米国輸出管理規則(EAR)違反。】

 吉岡の指が痙攣するように震え、冷汗が背中を一瞬で濡らした。「社長……“ロックされた”んです。」

 技術者として最悪の絶望が、声に混じる。「米国商務省が新しい“エンティティ・リスト”を出しました。“澄心の機甲は潜在的に軍事転用の可能性がある”――それが理由です。米国アーキテクチャの高性能制御チップ、ジャイロセンサーが……衛星リンク経由で、ファームウェアを遠隔ロックされました。」

「遠隔処刑だ。」

 情報主管の佐久間が電話を叩きつけ、顔を鉄のように固くした。「断供じゃない。向こうは“自壊プロトコル”まで起動した。生産ラインの機甲も、すでに売った機甲も――今この瞬間、全部ただの鉄屑だ。」

 ――一時間後。F区・VIP応接室。

 米国商務省の特使スミス(Smith)が本革のソファに沈み、高級モンブランの万年筆を弄びながら、傲慢な視線を向けていた。他国の命運を握り慣れた宗主国の目だ。

「澄原さん、はじめまして。私は“あなたを助けに”来ました。」

 スミスは笑って、分厚い英文書類を龍立の前へ滑らせた。表紙:『技術托管およびコンプライアンス再編契約』

「これに署名しなさい。タイタン機甲の中核運動アルゴリズムのソースコードを我々の審査に提出し、米国グリーン・セコイア(Green Sequoia)に60%の出資を受け入れる。そうすれば“暫定一般ライセンス”を発行できます。」

 彼は窓外の死んだ工場を指し、天気の話でもするように言った。「さもなければ……高価な設備も、あなたの誇りの機甲も、全部鉄屑。会社は明日、破産です。」

 龍立は書類を見もしなかった。スミスの顔すら見ない。彼はただ、ゆっくりとシャツの袖を捲っていた。

「スミスさん。来る前に、俺の経歴は読んだか?」

 龍立が突然、問う。

「もちろん。君は優秀だが、理想主義が過ぎる。」

「なら知ってるはずだ。――俺が一番嫌いなのは、脅しだ。」

 龍立は立ち上がった。「ついて来い。」

 二人は、停止した精工の組立工場へ入った。そこには千人を超える労働者が残っていた。去らない。去れない。止まった機械の周りに集まり、恐怖と迷いと無力感を眼に滲ませている。

 住宅ローンを組んだばかりの若い組立工は、レンチを握りしめ、涙を堪えたまま震える声で言った。「……俺たち、潰れるんですか? この仕事失いたくない……妻が……妊娠したばかりで……」

 源田は機甲が死んだせいで、作業台にもたれかかるしかない。かつて不遜なほど強かった男の眼は今、“捨てないでくれ”という絶望の懇願で満ちていた。――また無力な老人に戻るのは嫌だ。そう言っている。

 龍立は足を止め、彼らの顔を指し、スミスへ向き直って吼えた。

「よく見ろ!!」

 怒号が空洞の工場に反響し、スミスは思わず一歩退いた。「こいつらは財務諸表の数字じゃない! お前らの言う“国家安全保障の脅威”でもない! 父親だ。息子だ。自分の手で生きようとしてる人間だ! やっと“人としての尊厳”を取り戻したんだ! ワシントンのオフィスでペンを動かすだけで、何千の家庭の命綱を切るつもりか? なら――こっちはお前らの喉を噛み千切る。」

「ビリィ――!!」

 龍立は“降伏協定”の束を掴み、両手で力任せに真っ二つに裂き、紙片をスミスの顔へ叩きつけるように投げた。白い紙が舞う。雪のように。

「白宮へ帰って伝えろ!」

 龍立は扉を指し、眼を刃にした。「太平洋は封鎖できても――人の心はロックできない! うちはリストラしない! 給与は払う! 売らないなら、こっちで道を探すだけだ! ――送客だ!!」

 スミスは乱れたネクタイを直し、すぐに毒の表情へ戻った。出口で振り返り、悪意の笑みを浮かべる。

「いい骨だ。澄原龍立。その骨が食い物になるといいな。それと一つ知らせておく。ウォール街の“ハゲタカ”はもう飛び立った。ナスダックの寄りまで、あと10分だ。骨が硬いか、ドルの鎌が硬いか――見せてもらおう。」
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