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第八十八話 二核の黙契
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時:チップ断供から24時間。
所:世界金融市場/澄心・戦略指揮室
降伏しないなら、滅べ。ウォール街の頂点に立つ捕食者、ヘッジファンド王ゴードン・ヴァルチャー(Gordon Vulture)が号令をかけた。「澄心ホールディングスを空売り。目標株価:ゼロ。」
同時に、巨大な流言攻勢が襲う。
――「資金繰り崩壊」
――「機甲中核技術流出」
――「源田鉄男、重病」
噂は弾丸になり、ネットを埋めた。株価は寄り付きから崩落し、35%暴落。時価総額は数時間で数千億円が蒸発。銀行は豹変して融資を引き揚げ、取引先の督促電話が交換台を焼き尽くす。
――澄心・戦略指揮室。
そこは前線だった。煙が漂い、床には丸められた紙屑が散乱する。最高営業責任者の工藤孝太が机を叩き、コーヒーカップが跳ねた。ネクタイは緩み、目は血走っている。追い詰められた猛牛だ。
「アメリカの連中が俺たちを飢え死にさせる? 夢見るな!」
工藤はコートを掴み、龍立へ刺すように言う。「社長、プライベートジェットを一機。米国市場が閉じたなら、中東へ行く。欧州へ行く。アメリカの言いなりにならない場所へ全部当たる! サウジの皇太子はうちの機甲に食いついてる。ドイツのインフラ企業もだ。脚が折れても走る。――キャッシュフローを必ず持ち帰る!」
龍立は重く頷いた。「行け、工藤。朗報を待つ。」
工藤が出ていくと、重い木扉が再び開く。風塵をまとった男が入ってきた。いつものゲームTシャツではない。黒のタクティカルコート。手には銀色のアルミ合金ケース。
劉立(Liu Li)。
普段はGIGA互娯の事業を担うパートナー。だが今、軽口は消え、二重国籍(米/加)のビジネスエリートとしての冷酷さが前面に出ていた。
「相棒。」
劉立はケースを机に置き、開く。北米で築いた複雑な貿易ネットワークの図。赤い線が世界中へ蜘蛛の巣のように伸びる。
「金融戦はお前が強い。だがチップは、正面衝突じゃ勝てない。アメリカは本気で殺しに来てる。軍用も工業用も“高端プロセス”は全部封じた。作れる会社はあっても、誰も手を出さない。」
龍立が睨む。「じゃあ、手は?」
劉立は笑った。獲物を見つけた猟師の笑み。狡猾さと確信が混ざる。
「アメリカが封鎖してるのは“軍用級”。でも“最高級の民生コンシューマ電子”までは封鎖し切れない。海の向こうの大国が、3nmの“紅龍”チップを量産した。アメリカは認めなくても、物は本物。性能は米国品に負けない。」
「だが……」龍立が眉を寄せる。「その級のチップは監視が厳しい。うちは工業機器に分類される。中国側も二次制制裁を恐れて売れないはずだ。」
「そこで“商売の手品”だ。」
劉立は航路の上を指でなぞり、奇妙な弧を描いた。「誰が工業用チップを買うって言った? 俺たちは“次世代ゲーム機”のSoCを買うんだ。俺は米国とカナダの市民権を持つ。合法のゲームハード貿易会社もある。中国と“ゲーム機”の大口契約をまとめる。日本に入った後、ゲーム機に載せるか機甲に載せるか――それは“改造マニア”の勝手だろ?」
劉立はケースを閉じ、錠の音を鳴らした。龍立を見た。兄弟の間にしかない、無条件の信頼の眼だ。
「ここはお前が守れ。俺は深圳へ行く。死ななきゃ、チップは必ず届く。」
龍立は拳を差し出し、劉立と強くぶつけた。「危険なら即撤退だ。チップはまた探せる。お前は替えが利かない。」
「大丈夫。」劉立はサングラスをかけ、眼の冷光を隠す。「商売に行くんだ。戦争じゃない。――まあ、ほぼ同じだが。」
所:世界金融市場/澄心・戦略指揮室
降伏しないなら、滅べ。ウォール街の頂点に立つ捕食者、ヘッジファンド王ゴードン・ヴァルチャー(Gordon Vulture)が号令をかけた。「澄心ホールディングスを空売り。目標株価:ゼロ。」
同時に、巨大な流言攻勢が襲う。
――「資金繰り崩壊」
――「機甲中核技術流出」
――「源田鉄男、重病」
噂は弾丸になり、ネットを埋めた。株価は寄り付きから崩落し、35%暴落。時価総額は数時間で数千億円が蒸発。銀行は豹変して融資を引き揚げ、取引先の督促電話が交換台を焼き尽くす。
――澄心・戦略指揮室。
そこは前線だった。煙が漂い、床には丸められた紙屑が散乱する。最高営業責任者の工藤孝太が机を叩き、コーヒーカップが跳ねた。ネクタイは緩み、目は血走っている。追い詰められた猛牛だ。
「アメリカの連中が俺たちを飢え死にさせる? 夢見るな!」
工藤はコートを掴み、龍立へ刺すように言う。「社長、プライベートジェットを一機。米国市場が閉じたなら、中東へ行く。欧州へ行く。アメリカの言いなりにならない場所へ全部当たる! サウジの皇太子はうちの機甲に食いついてる。ドイツのインフラ企業もだ。脚が折れても走る。――キャッシュフローを必ず持ち帰る!」
龍立は重く頷いた。「行け、工藤。朗報を待つ。」
工藤が出ていくと、重い木扉が再び開く。風塵をまとった男が入ってきた。いつものゲームTシャツではない。黒のタクティカルコート。手には銀色のアルミ合金ケース。
劉立(Liu Li)。
普段はGIGA互娯の事業を担うパートナー。だが今、軽口は消え、二重国籍(米/加)のビジネスエリートとしての冷酷さが前面に出ていた。
「相棒。」
劉立はケースを机に置き、開く。北米で築いた複雑な貿易ネットワークの図。赤い線が世界中へ蜘蛛の巣のように伸びる。
「金融戦はお前が強い。だがチップは、正面衝突じゃ勝てない。アメリカは本気で殺しに来てる。軍用も工業用も“高端プロセス”は全部封じた。作れる会社はあっても、誰も手を出さない。」
龍立が睨む。「じゃあ、手は?」
劉立は笑った。獲物を見つけた猟師の笑み。狡猾さと確信が混ざる。
「アメリカが封鎖してるのは“軍用級”。でも“最高級の民生コンシューマ電子”までは封鎖し切れない。海の向こうの大国が、3nmの“紅龍”チップを量産した。アメリカは認めなくても、物は本物。性能は米国品に負けない。」
「だが……」龍立が眉を寄せる。「その級のチップは監視が厳しい。うちは工業機器に分類される。中国側も二次制制裁を恐れて売れないはずだ。」
「そこで“商売の手品”だ。」
劉立は航路の上を指でなぞり、奇妙な弧を描いた。「誰が工業用チップを買うって言った? 俺たちは“次世代ゲーム機”のSoCを買うんだ。俺は米国とカナダの市民権を持つ。合法のゲームハード貿易会社もある。中国と“ゲーム機”の大口契約をまとめる。日本に入った後、ゲーム機に載せるか機甲に載せるか――それは“改造マニア”の勝手だろ?」
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龍立は拳を差し出し、劉立と強くぶつけた。「危険なら即撤退だ。チップはまた探せる。お前は替えが利かない。」
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