カナダに追放された財閥の三男が帰国しました:父が「搾取は伝統だ」と言うので、「あらゆる手段」を使ってこの1兆円規模のブラック巨艦を完全ホワイ

RyuChoukan

文字の大きさ
89 / 140

第八十九話 深圳の雨夜

しおりを挟む
 時:同日22:00。

 所:深圳・華強北 某・密かな茶室

 外は豪雨。ネオンは雨に滲み、サイバーパンクの霞へ変わる。ここは世界の電子中心地。奇跡と混沌が同居する場所。

 目立たない茶室。湯気の向こうに、茶の香が立つ。劉立の向かいに座るのは「華芯科技」の責任者、王総。四十代。質素なジャケット。見た目は普通の技術者。だが眼だけが鋭い――封鎖線を突破してきた者の眼だった。

「劉さん、目的は分かっている。」

 王総は紫砂の茶杯を回し、静かに言った。「澄原さんの覇権への抵抗は尊敬する。だが米国商務省が見ている。3nmを澄心へ、機甲用途で売れば、明日には摩擦が起きる。そのリスクは背負えない。」

「誰が機甲だと言った?」

 劉立は鞄から、作り込まれたホログラムPPTを取り出し、茶卓に投影した。「王総、GIGA互娯は“全感覚没入型ゲームカプセル”を開発する。コードネーム『幻夢』。高演算・低遅延が必須だ。3nmは“必需品”。」

「これは『戦略調達契約』です。」

 劉立は書類を押し出し、数字を指で叩いた。「調達量:五百万個。前金:十億ドル。現金。即時。さらに、起動画面に永久表示する――『Powered by RED DRAGON(紅龍駆動)』。中国チップを世界の数億ゲーマーへ届ける、最高の広告になる。」

 王総の眉がわずかに上がる。拒めない誘惑だった。資金だけではない。西側の世論封鎖を破り、中国チップの実力を“市場”で証明できる。

「ゲームカプセル……」

 王総は含みのある笑みを浮かべる。「それは確かに“民生娯楽”だ。WTOの輸出規則にも合致する。」そして身を乗り出し、声を落とした。「ただし、劉さん。日本に着いた後、もし機甲に載せたと発覚したら……」

「それは“日本のゲーマー”が狂っていて、改造が好きだっただけ。」

 劉立は茶杯を掲げ、眼を澄ませた。「貴社には無関係。商売のルール、分かってます。」

 茶杯が触れ合う。「――成交。」

 劉立が契約書を手に、雨幕へ出た瞬間。黒いワゴンが数台、ヘッドライトで彼を焼くように照らし、進路を塞いだ。ドアが開き、屈強な外人の男たちが七、八人降りてくる。CIAが現地で雇った協力者だ。

「Mr. Liu, come with us.」

 劉立は動じない。走りもしない。彼はスマホを取り出し、佐久間から渡された“緊急ボタン”を押した。そして男たちへ向け、流暢な中国語で大声を張り上げた。

「助けてー!! 外国人が強盗だ!! 華強北で契約書を奪ってるぞ!!」

 この一声は、深夜の華強北では核爆弾だった。ここは何の街だ? 契約書は命だ。

「誰が抢东西だ!!」
「また鬼佬か!!」

 三分もしない。店のシャッターが次々と上がり、工具を手にした店主たちが飛び出してくる。はんだごてを握る者までいる。さらに遠くから、サイレン。巡警と治安連防がバイクで飛んできた。

 華強北の治安対応は、世界でも異様に速い。CIAの男たちは顔色を変えた。秘密拉致のはずが、この米籍華人は“ルール無用”で群衆戦を起動したのだ。

「撤退! 早く!」

 男たちは雨へ溶けるように逃げた。劉立は警官と店主の背中越しに手を振り、口だけで言った。“Suck it.”

 だが彼は知っている。これは第一関門に過ぎない。契約は取った。貨も確保した。本当の難関は“海”だ。数百万個のチップを、米海軍の公海監視と、日本公安調査庁の港湾検査をくぐらせて、どうF区へ入れる?

 そのとき、COO・鈴木彩音から電話が入る。声は冷静で揺るがない。「劉さん。日本の領海に入ったら、こちらに渡してください。大型トラックは動けない。でも――“蚂蚁(アリ)”はいます。澄心物流史上最大規模の“飽和輸送”を起動します。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...