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第七話 魔王の寝顔、百億ゴールドのライブ配信
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「催眠指令・強制シャットダウン。」
リンは指を鳴らした。乾いた音が、死に絶えた第九十九層に澄んで響く。
その瞬間、時間に一時停止ボタンが押されたかのようだった。
滅びの黒炎を燃やし、神々でさえ震え上がるはずの魔王アスモデの双眸。その瞳孔がカッと縮み――次の瞬間、ふっと焦点を失う。
リンの首を掴み、次の一秒で虚空ごと握り潰そうとしていたその手から、力がすうっと抜け落ちる。
だらりと垂れた腕。
そして、全世界を震え上がらせてきた深淵の覇者は、ぐらりと身体を揺らしたかと思うと――
どさっ。
全身の力が抜けた泥の塊のように、リンの肩の脇にあるソファの背もたれに頭から突っ伏した。
次の瞬間。
診療所の中に、規則正しく――しかし雷鳴のように豪快なイビキが鳴り響く。
「……ぐおー……ぐおー……」
窓の外。
さきほどまで空を引き裂き、大陸プレートごと飲み込もうとしていた黒い稲妻が、魔王の意識の沈降とともに、一斉に電源を落とされたネオンのように掻き消えた。
第九十九層は、再び死のような――だが安全な――静寂を取り戻す。
【システムメッセージ:宿主は神級(SSS)クエスト《世界滅亡を阻止せよ》を達成しました】
【報酬獲得:スキル《群体認知再構成》がLv.MAXに進化しました】
【称号獲得:《魔王の睡眠薬》】
リンは長く息を吐いた。背中は冷や汗でぐっしょりと濡れている。
あと〇・一秒遅れていたら、地下城そのものが宇宙の塵になっていた。まさしく「刃の上の綱渡り」だった。
彼はメガネを指先で押し上げ、自分の肩に頭を預けて気持ちよさそうに寝息を立てている魔王を見下ろし、力なく首を振る。
そして、すでに石像のように固まっている配信カメラに向かって、人差し指を立てた。
「……しーっ。」
「すみません、視聴者の皆さん。こちらの患者さんは症状が少々特殊でして、先ほどのは緊急的な治療手段です。」
「現在、魔王陛下は深い睡眠――REM期に入っています。これ以上刺激して起こしてしまうわけには……ん?」
リンの言葉が終わるより早く、配信のコメント欄が核爆発を起こした。
『うおおおおおお!!??』
『寝た!? あの滅亡魔王アスモデが、指パッチン一発で寝た!?』
『夢見てる? 一秒前まで世界の終わりだったのに、次の秒で魔王がイビキかいてるんだが??』
『ちょっと待て、魔王の口元……あれ、何か見えない?』
『あれヨダレじゃね??』
そう、間違いなく。
威厳たっぷりで、全てを見下ろしていたはずの魔王陛下は、今やだらしなく口を半開きにし、口端から透明なよだれを一筋垂らしていた。
しかも寝言で、はっきりこう呟いている。
「……プリン……それは……我の……だ、取るな……」
「滅世の魔神」から「プリン大好きポンコツ」に至る、この極端なギャップ。
それは一瞬で、世界中の視聴者の心理防御を粉々に打ち砕いた。
『ぶふっwwwww やめろwww 腹痛いwww』
『これがあの魔王さま!? 可愛すぎるんだが!?』
『スクショした! これは世界遺産だろ!!』
『【帝国一の大富豪】が「至尊ブラックカード」×10を投げました:配信者殿、どうかもう少し寝かせてあげてください。これは人類全体のご利益だ……!』
『【教皇】が「聖光の錫杖」×100を投げました:神跡だ! これは真なる神跡だ!!』
わずか数分のうちに、リンの配信部屋に入った投げ銭は、史上最高記録――換算値で百億ゴールドを軽々と突破していた。
今、世界中の人々が見つめているのは、たった一人の男の背中と――そこに寄りかかって高いびきをかく魔王の寝顔だった。
そしてこの魔王は、そのまま三日三晩、ぐっすりと眠り続けることになる。
リンは指を鳴らした。乾いた音が、死に絶えた第九十九層に澄んで響く。
その瞬間、時間に一時停止ボタンが押されたかのようだった。
滅びの黒炎を燃やし、神々でさえ震え上がるはずの魔王アスモデの双眸。その瞳孔がカッと縮み――次の瞬間、ふっと焦点を失う。
リンの首を掴み、次の一秒で虚空ごと握り潰そうとしていたその手から、力がすうっと抜け落ちる。
だらりと垂れた腕。
そして、全世界を震え上がらせてきた深淵の覇者は、ぐらりと身体を揺らしたかと思うと――
どさっ。
全身の力が抜けた泥の塊のように、リンの肩の脇にあるソファの背もたれに頭から突っ伏した。
次の瞬間。
診療所の中に、規則正しく――しかし雷鳴のように豪快なイビキが鳴り響く。
「……ぐおー……ぐおー……」
窓の外。
さきほどまで空を引き裂き、大陸プレートごと飲み込もうとしていた黒い稲妻が、魔王の意識の沈降とともに、一斉に電源を落とされたネオンのように掻き消えた。
第九十九層は、再び死のような――だが安全な――静寂を取り戻す。
【システムメッセージ:宿主は神級(SSS)クエスト《世界滅亡を阻止せよ》を達成しました】
【報酬獲得:スキル《群体認知再構成》がLv.MAXに進化しました】
【称号獲得:《魔王の睡眠薬》】
リンは長く息を吐いた。背中は冷や汗でぐっしょりと濡れている。
あと〇・一秒遅れていたら、地下城そのものが宇宙の塵になっていた。まさしく「刃の上の綱渡り」だった。
彼はメガネを指先で押し上げ、自分の肩に頭を預けて気持ちよさそうに寝息を立てている魔王を見下ろし、力なく首を振る。
そして、すでに石像のように固まっている配信カメラに向かって、人差し指を立てた。
「……しーっ。」
「すみません、視聴者の皆さん。こちらの患者さんは症状が少々特殊でして、先ほどのは緊急的な治療手段です。」
「現在、魔王陛下は深い睡眠――REM期に入っています。これ以上刺激して起こしてしまうわけには……ん?」
リンの言葉が終わるより早く、配信のコメント欄が核爆発を起こした。
『うおおおおおお!!??』
『寝た!? あの滅亡魔王アスモデが、指パッチン一発で寝た!?』
『夢見てる? 一秒前まで世界の終わりだったのに、次の秒で魔王がイビキかいてるんだが??』
『ちょっと待て、魔王の口元……あれ、何か見えない?』
『あれヨダレじゃね??』
そう、間違いなく。
威厳たっぷりで、全てを見下ろしていたはずの魔王陛下は、今やだらしなく口を半開きにし、口端から透明なよだれを一筋垂らしていた。
しかも寝言で、はっきりこう呟いている。
「……プリン……それは……我の……だ、取るな……」
「滅世の魔神」から「プリン大好きポンコツ」に至る、この極端なギャップ。
それは一瞬で、世界中の視聴者の心理防御を粉々に打ち砕いた。
『ぶふっwwwww やめろwww 腹痛いwww』
『これがあの魔王さま!? 可愛すぎるんだが!?』
『スクショした! これは世界遺産だろ!!』
『【帝国一の大富豪】が「至尊ブラックカード」×10を投げました:配信者殿、どうかもう少し寝かせてあげてください。これは人類全体のご利益だ……!』
『【教皇】が「聖光の錫杖」×100を投げました:神跡だ! これは真なる神跡だ!!』
わずか数分のうちに、リンの配信部屋に入った投げ銭は、史上最高記録――換算値で百億ゴールドを軽々と突破していた。
今、世界中の人々が見つめているのは、たった一人の男の背中と――そこに寄りかかって高いびきをかく魔王の寝顔だった。
そしてこの魔王は、そのまま三日三晩、ぐっすりと眠り続けることになる。
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