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第二十二話 黒薔薇の真実と、全市ゾンビ化プロトコル
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「やめろおおおおっ! 電源を落とせ! あのスクリーンを叩き割れ!」
国王は、半ば錯乱状態で喚き散らす。
だが、遅かった。
アリスのコードが魔導装置の根幹を書き換えており、たとえモニターを粉々に砕こうと、映像は空中に直接ホログラム投影され続ける。
「国王は、私を“悪魔”だと言った。」
「だが――真実はどうかな。」
リンが軽く手を振る。映像が切り替わる。
そこに映ったのは、王城の地下室。
普段は“聖なる支配者”の仮面をかぶっている貴族たちが、ひしめき合うように輪になり、紫色の粉末――《黒薔薇》を貪るように吸っていた。
その足元には、金貨の山と――鎖で繋がれた、やつれた平民の子どもたち。
「この《黒薔薇》こそ、かつて第66層のカジノで使われていた“人心操作用ドラッグ”だ。」
「そして、その最大の買い手にして、国内最大のディーラーが――」
リンは、唇の端だけで笑う。
「他でもない。あなたたちの“敬愛すべき”国王陛下だ。」
「皆から搾り取った税金は、こうしてドラッグと享楽に変わる。」
「足りなくなれば、今度は君たちの子どもを“商品”として悪魔に売り飛ばし、さらにその代金で快楽を買う。」
広場は、完全な沈黙に沈んだ。叫び声も、罵声もない。あるのは、現実を理解できず、固まった顔だけ。
自分たちが敬ってきた“王”が――子どもを売り、ドラッグに溺れる化け物だったという現実。
「俺の……息子は……?」
「うちの娘、二ヶ月前から帰って来てない……」
「税金……何に使ってたって……?」
ぷつん、と何かが切れる音がした。
「俺の子を返せええええええっ!!」
誰かが投げた最初の石が、王の額を正確に打ちぬいた。べちゃり、と血が飛び散る。
次の石。さらに次の石。
数万人の群衆は、決壊したダムのように一斉に高台へとなだれ込んだ。
衛兵たちは、もはやそれを止める勇気を失っていた。武器を放り出し、暴徒側に混ざる者まで出る始末だ。
「や、やめろ! 私は王だぞ! 神に選ばれし存在だぞ! 護れ! 護衛せよぉぉっ!」
王は血でぬるぬるになった額を押さえながら後ずさる。だが背後は、底の見えない奈落だ。
スクリーンの中で、リンは静かにティーカップをソーサーに置いた。
「ふむ。――治療効果は上々だな。」
だが、そのときだった。誰もが、まもなく暴君が群衆に引きずり降ろされると信じていた、その瞬間。
血まみれの王の震えが、ふっと止まった。
顔をゆっくりと上げる。そこに浮かんだのは、人間の表情とは思えぬほどねじくれた笑みだった。
「私を引きずり下ろす?」
「貴様ら豚どもが? この私を?」
王は懐から、一輪のしおれた黒い薔薇を取り出した。ぎり、と握り潰す。
「本当はな、もっと静かに逝かせてやるつもりだったんだ。」
「だが、そこまで“生き汚い”というのなら――」
「皆まとめて、“肥料”になれ。」
「起動――【黒薔薇・全民忠誠プロトコル】。」
ブゥゥゥン――ッ!
不気味な紫色の波動が、王城を中心に王都全域へ放射状に広がった。
瞬きする間もなく、異変は起きた。
突撃していたはずの群衆が、ぴたりと足を止める。
瞳孔が一瞬でぐわっと開き、黒く塗りつぶされ、やがて眼球のすべてが漆黒のインクのような色に変わった。
紫の血管が肌の下を這い、蔦のように顔面を覆っていく。
「……あ……あぁ……」
さっきまでの怒号が嘘のように、広場は静まり返った。
そして――十万単位の人間が、同時にくるりと向きを変える。
皇城に向かって、一斉にひざまずいた。
「我らが王に……万歳……」
ガラガラに枯れたような声が、揃って響く。そこに意思はない。痛みも、恐怖も、考えもない。
あるのはただ一つ。
――命令を待つ“操り人形”としての機能だけ。
「ハハハハハハハハッ!」
王は高台の上で両腕を広げ、酔いしれるように笑いた。
「見たか、リン!」
「《黒薔薇》はただのドラッグではない!」
「これは“寄生胞子”だ!ほんの少しでも口にすれば、いや、花粉を吸い込むだけでも――このとおり、完全な“奴隷”になる!」
「今やこの都の二百万人、全員が感染している!」
「救いたければ――私を殺しに来るがいい!」
「ただし、その瞬間、こいつらもまとめて道連れだがな!」
スクリーンの向こうで、リンの笑みが消えた。
怪物と化した人々。狂喜する王。その光景を、彼は一瞬だけ黙って見つめる。
次に浮かんだのは、今までほとんど見せたことのない、純度の高い怒りの色だった。
これはもはや、単なる政争ではない。
――二百万人規模の、生体兵器テロだ。
「……そうか。」
リンは静かに眼鏡を押し上げた。レンズの奥で、氷の刃のような光がきらりと走る。
「王様。君はようやく――」
「“本気で怒らせてはいけない相手”を怒らせた。」
「アリス、空輸準備。」
「これから王都全域に――“大規模開頭手術”を施す。」
国王は、半ば錯乱状態で喚き散らす。
だが、遅かった。
アリスのコードが魔導装置の根幹を書き換えており、たとえモニターを粉々に砕こうと、映像は空中に直接ホログラム投影され続ける。
「国王は、私を“悪魔”だと言った。」
「だが――真実はどうかな。」
リンが軽く手を振る。映像が切り替わる。
そこに映ったのは、王城の地下室。
普段は“聖なる支配者”の仮面をかぶっている貴族たちが、ひしめき合うように輪になり、紫色の粉末――《黒薔薇》を貪るように吸っていた。
その足元には、金貨の山と――鎖で繋がれた、やつれた平民の子どもたち。
「この《黒薔薇》こそ、かつて第66層のカジノで使われていた“人心操作用ドラッグ”だ。」
「そして、その最大の買い手にして、国内最大のディーラーが――」
リンは、唇の端だけで笑う。
「他でもない。あなたたちの“敬愛すべき”国王陛下だ。」
「皆から搾り取った税金は、こうしてドラッグと享楽に変わる。」
「足りなくなれば、今度は君たちの子どもを“商品”として悪魔に売り飛ばし、さらにその代金で快楽を買う。」
広場は、完全な沈黙に沈んだ。叫び声も、罵声もない。あるのは、現実を理解できず、固まった顔だけ。
自分たちが敬ってきた“王”が――子どもを売り、ドラッグに溺れる化け物だったという現実。
「俺の……息子は……?」
「うちの娘、二ヶ月前から帰って来てない……」
「税金……何に使ってたって……?」
ぷつん、と何かが切れる音がした。
「俺の子を返せええええええっ!!」
誰かが投げた最初の石が、王の額を正確に打ちぬいた。べちゃり、と血が飛び散る。
次の石。さらに次の石。
数万人の群衆は、決壊したダムのように一斉に高台へとなだれ込んだ。
衛兵たちは、もはやそれを止める勇気を失っていた。武器を放り出し、暴徒側に混ざる者まで出る始末だ。
「や、やめろ! 私は王だぞ! 神に選ばれし存在だぞ! 護れ! 護衛せよぉぉっ!」
王は血でぬるぬるになった額を押さえながら後ずさる。だが背後は、底の見えない奈落だ。
スクリーンの中で、リンは静かにティーカップをソーサーに置いた。
「ふむ。――治療効果は上々だな。」
だが、そのときだった。誰もが、まもなく暴君が群衆に引きずり降ろされると信じていた、その瞬間。
血まみれの王の震えが、ふっと止まった。
顔をゆっくりと上げる。そこに浮かんだのは、人間の表情とは思えぬほどねじくれた笑みだった。
「私を引きずり下ろす?」
「貴様ら豚どもが? この私を?」
王は懐から、一輪のしおれた黒い薔薇を取り出した。ぎり、と握り潰す。
「本当はな、もっと静かに逝かせてやるつもりだったんだ。」
「だが、そこまで“生き汚い”というのなら――」
「皆まとめて、“肥料”になれ。」
「起動――【黒薔薇・全民忠誠プロトコル】。」
ブゥゥゥン――ッ!
不気味な紫色の波動が、王城を中心に王都全域へ放射状に広がった。
瞬きする間もなく、異変は起きた。
突撃していたはずの群衆が、ぴたりと足を止める。
瞳孔が一瞬でぐわっと開き、黒く塗りつぶされ、やがて眼球のすべてが漆黒のインクのような色に変わった。
紫の血管が肌の下を這い、蔦のように顔面を覆っていく。
「……あ……あぁ……」
さっきまでの怒号が嘘のように、広場は静まり返った。
そして――十万単位の人間が、同時にくるりと向きを変える。
皇城に向かって、一斉にひざまずいた。
「我らが王に……万歳……」
ガラガラに枯れたような声が、揃って響く。そこに意思はない。痛みも、恐怖も、考えもない。
あるのはただ一つ。
――命令を待つ“操り人形”としての機能だけ。
「ハハハハハハハハッ!」
王は高台の上で両腕を広げ、酔いしれるように笑いた。
「見たか、リン!」
「《黒薔薇》はただのドラッグではない!」
「これは“寄生胞子”だ!ほんの少しでも口にすれば、いや、花粉を吸い込むだけでも――このとおり、完全な“奴隷”になる!」
「今やこの都の二百万人、全員が感染している!」
「救いたければ――私を殺しに来るがいい!」
「ただし、その瞬間、こいつらもまとめて道連れだがな!」
スクリーンの向こうで、リンの笑みが消えた。
怪物と化した人々。狂喜する王。その光景を、彼は一瞬だけ黙って見つめる。
次に浮かんだのは、今までほとんど見せたことのない、純度の高い怒りの色だった。
これはもはや、単なる政争ではない。
――二百万人規模の、生体兵器テロだ。
「……そうか。」
リンは静かに眼鏡を押し上げた。レンズの奥で、氷の刃のような光がきらりと走る。
「王様。君はようやく――」
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