京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第三話・錦市場・影を食べる少年(四)

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 夕方が近づいていた。

 市場の灯りが、一つまた一つと点き始める。昼の自然光は暖かな電灯に取って代わられ、魚は氷とともにケースにしまわれ、残った串揚げやコロッケは端に寄せられる。店主たちは片付けをしながら、最後の一稼ぎに淡い期待を寄せていた。

「夕方から夜にかけてが、『影』が一番こじれやすい時間帯だ。」

 劉立澄は柱にもたれ、人影が足元の灯りで長く引きのばされていく様子を眺めていた。「昼間の疲れが全部足元に溜まってるくせに、夜になると誰も自分が疲れてるって認めたがらない。」

 綾女は、店に戻る準備をするため、少し改まった羽織に着替えていた。アーケードの天井を見上げ、「で、どうやって片をつけるつもり?」と尋ねる。

「どこまで食べようとしてるのか、まずは様子見だ。」

 その言葉のすぐあと、市場の反対側でどよめきが起こった。

 スーツ姿のサラリーマンらしき男性が、壁に手をついてふらついている。顔は青ざめ、呼吸も荒い。誰かが駆け寄って「大丈夫ですか」と声をかけると、彼は「平気、平気」と繰り返し、無理やり口元に笑みを貼り付ける。しかし、その目からは光がすっかり抜け落ちていた。

 彼の足元の影が、ぴたりと張りついていたはずの場所で、突然、沸騰した水のようにぐらりと揺れた。次の瞬間、その影がすっと長く伸び、膨らんで、小さな男の子のいるほうへとじわじわ滑っていく。

 少年が立ち上がった。

 その瞬間、彼自身の体がふっと軽くなったように見えた。自分の重さを、背中の残形にすべて預けてしまったみたいだった。

「おいしい。」

 少年が小さく呟く。

 目の前で誰かが食べ物を差し出しているわけでもないのに、彼の表情には満ち足りた色が浮かんでいた。

 周囲の人々は、ただ「今日は灯りが眩しくて目がチカチカする」とか、「今、足元で何か柔らかいものを踏んだ気がした」と感じるだけで、恐る恐る見下ろせば、そこにあるのはいつも通りの自分の影だ。みんな、自分の見間違いだと思い込んでしまう。

 ただ一人、劉立澄だけがはっきりと見えていた。

 そこかしこの足元から伸びる影の糸が、見えない誰かに引っ張られるように、音もなく一本の点へと集まっていく様子を。

「頃合いだな。」

 彼は小さく呟く。それは自分に向けた合図のようでもあった。

 袖口から、細長い黄色い符を数枚取り出す。親指の腹で軽く弾くと、符は空中でふわりとひらき、

 そこに描かれたごく簡素な線が、指先の一なぞりで淡い金色の光を帯びた。

「ちょっと天井、借りるよ。」

 誰もいないはずの頭上に向かって、彼は軽く声をかける。

 次の瞬間、符は目に見えない風に乗せられたようにまっすぐ舞い上がり、アーケードを支える四方の梁に、ぴたりと貼りついた。

 小さな「パチッ」という音と共に、空間全体がかすかに震える。

 市場の人々の足元の影が、一斉にびくりと震えた。

 灯りが一瞬だけ明るくなり、すぐに少しだけ暗く落ちる。光の一部が抜き取られ、どこか一点に集められたかのようだった。
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