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第五話 伏見稲荷・狐の嫁入りと捨てられた願い(二)
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千本鳥居は、奥へ進めば進むほど、色が「夜に一度漬けられた朱」のようになっていく。
最初のほうはまだ、笑い声やスマホのシャッター音があちこちから聞こえる。だがその喧噪も、階段を上がるうちに次第に薄れ、石段に落ちる足音の反響と、ときどき抑えた声が交わされるばかりになる。誰もが、いつの間にかこの場所の空気に合わせて、自然と声を落としていた。
灯りも少ない。
鳥居と鳥居のあいだに、一つ置きか二つ置きに小さな提灯がぶらさがっているだけで、その明かりが紙を透かして、やわらかな橙色の輪を地面に描く。その輪の外は、押しつぶされた影の領分だった。
「このあたりから、狐嫁の噂がよく出るようになる。」
綾女の声も、自然と低くなる。
彼女が指さした先に、小さな空間があった。
鳥居に囲まれた曲がり角で、石段がそこで少しだけ広くなっている。脇には一匹の石狐。口には石の鍵をくわえ、長年の香煙で全身が煤けていた。その前の地面だけ、周りよりも妙にきれいだ――何度も何度も列がそこを通り、足で落ち葉を左右に掃き分けたように。
「噂ではね。」綾女は言いながら、ゆっくりとその場所へ歩み出た。
「夜、この場所で灯りが全部消えるまで待ってると、『狐嫁行列』が通り過ぎるのが見えるらしい。」
「で、今日は俺を、そのまま売り飛ばすつもりか。」劉立澄は、何気ない調子で聞いた。
「先生みたいな人はね。」綾女はくすっと笑う。
「狐の花嫁のほうから、きっと距離を置くよ。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、風がふっと半拍だけ止んだ。
止まり方が、すこし不自然だ。
次の瞬間、山の下からかすかに届いていた車の音、人のざわめき、音楽――そういった雑音が一度にすべて抜き取られた。
千本鳥居のあいだに残ったのは、彼らの足音と――その足音とは違う、別の足音だけだ。
もっと奥から近づいてくる、ひどく軽くて整った足音。
軍隊とも、通勤通学でもない。儀式的な歩調だ。
一歩一歩が、前の足跡のちょうど上に重なっていくような、冷徹なまでに正確なリズム。
「来た。」
綾女は乾いた唇を舐め、思わず彼のほうへ身を寄せた。
目で見る前に、「聞こえて」しまったのだ。
霧のような笑い声が、鳥居の列の向こうから漂い、その整った足音に重なりながら、波のように押し寄せてくる。
劉立澄は、石狐の横に立って、一本の鳥居の柱に背を預け、視線だけを高く上げた。
梁に沿って走る灰色の亀裂が、微かに光っている。
眩しい光ではない。きわめて淡い、冷たい白――まるで月光を一本の線に圧縮して木と木の間に押し込んだような輝きが、千本鳥居の奥の奥から、外へ向かってじわじわと滲み出ている。
「見える?」
綾女が囁く。
「結婚式の赤いカーペットにされた“裂け目”が一本。」
彼はそう答えてから、視線を地面に戻した。
そして、ようやくその行列を目にした。
最初のほうはまだ、笑い声やスマホのシャッター音があちこちから聞こえる。だがその喧噪も、階段を上がるうちに次第に薄れ、石段に落ちる足音の反響と、ときどき抑えた声が交わされるばかりになる。誰もが、いつの間にかこの場所の空気に合わせて、自然と声を落としていた。
灯りも少ない。
鳥居と鳥居のあいだに、一つ置きか二つ置きに小さな提灯がぶらさがっているだけで、その明かりが紙を透かして、やわらかな橙色の輪を地面に描く。その輪の外は、押しつぶされた影の領分だった。
「このあたりから、狐嫁の噂がよく出るようになる。」
綾女の声も、自然と低くなる。
彼女が指さした先に、小さな空間があった。
鳥居に囲まれた曲がり角で、石段がそこで少しだけ広くなっている。脇には一匹の石狐。口には石の鍵をくわえ、長年の香煙で全身が煤けていた。その前の地面だけ、周りよりも妙にきれいだ――何度も何度も列がそこを通り、足で落ち葉を左右に掃き分けたように。
「噂ではね。」綾女は言いながら、ゆっくりとその場所へ歩み出た。
「夜、この場所で灯りが全部消えるまで待ってると、『狐嫁行列』が通り過ぎるのが見えるらしい。」
「で、今日は俺を、そのまま売り飛ばすつもりか。」劉立澄は、何気ない調子で聞いた。
「先生みたいな人はね。」綾女はくすっと笑う。
「狐の花嫁のほうから、きっと距離を置くよ。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、風がふっと半拍だけ止んだ。
止まり方が、すこし不自然だ。
次の瞬間、山の下からかすかに届いていた車の音、人のざわめき、音楽――そういった雑音が一度にすべて抜き取られた。
千本鳥居のあいだに残ったのは、彼らの足音と――その足音とは違う、別の足音だけだ。
もっと奥から近づいてくる、ひどく軽くて整った足音。
軍隊とも、通勤通学でもない。儀式的な歩調だ。
一歩一歩が、前の足跡のちょうど上に重なっていくような、冷徹なまでに正確なリズム。
「来た。」
綾女は乾いた唇を舐め、思わず彼のほうへ身を寄せた。
目で見る前に、「聞こえて」しまったのだ。
霧のような笑い声が、鳥居の列の向こうから漂い、その整った足音に重なりながら、波のように押し寄せてくる。
劉立澄は、石狐の横に立って、一本の鳥居の柱に背を預け、視線だけを高く上げた。
梁に沿って走る灰色の亀裂が、微かに光っている。
眩しい光ではない。きわめて淡い、冷たい白――まるで月光を一本の線に圧縮して木と木の間に押し込んだような輝きが、千本鳥居の奥の奥から、外へ向かってじわじわと滲み出ている。
「見える?」
綾女が囁く。
「結婚式の赤いカーペットにされた“裂け目”が一本。」
彼はそう答えてから、視線を地面に戻した。
そして、ようやくその行列を目にした。
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