京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第十三話・東山・囲まれた家(五)

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 空間がわずかに伸びた感覚が、家のあちこちへと広がっていった。
キッチンからリビングまで、綾女は普段なら三歩で着く距離を、今は五歩も歩かされていることに気づく。

足元を見下ろしても、畳の目の数は増えていない。

だが、身体の記憶ははっきりと告げていた――この道のりは長くなっている。

「なら、こっちも別の導線に挿げ替える。」

梁の上の劉立澄は、片手で梁をつかみ、もう一方の手のひらで壁を押し、その身をすべらせるようにして床へと降り立った。

足が着いたのは、リビングと廊下の境目の、あの一枚の板。

踏みしめたあと、彼はすぐには御子柴に向かわない。

むしろ家の奥へと一歩、引く。

その一歩で、彼は家の「中気」に立った。キッチンと畳の間をつなぐ、その空白の板敷きの上に。

右手をひねると、澄心の剣が掌に姿を現す。

刃は鈍い銀色で、灯りを受けた光は細い一本に収まり、外へ漏れ散ることなく、きっぱりと収束している。

剣先は、敵へではなく、まず床へ。

板に沿って、地面を舐めるように一筋、線を引く。

その一線は、リビングから玄関へ、玄関から再び家の中へ折り返し、畳の縁をなぞって閉じきらない長方形を形づくった。

刃は木材を傷つけず、跡も残さない。

だが目に見えない「寸法」だけが、その線に沿って静かに切り直されていく。

「一宅換気・四辺描き。」

心の中でそう名を付ける。

この一太刀は、木を切るものでも、影を断つものでもない。

ただ御子柴に引き伸ばされ、ねじ曲げられた家の「気の寸法」を、もう一度正しい位置へ戻すための一振り。

空気にまとわりついていた、「記憶よりも長い廊下」の違和感が、少しずつ剥がれ落ちていく。

キッチンからリビングは三歩に戻り、畳の入口も、いつもの「振り向けばちょうど届く」距離に戻る。

御子柴は眉をわずかにひそめた。

布尺をもう一度引き絞る。目盛りが一瞬、ぎらりと光り、そこへ剣先がそっと触れた。

巻尺のマス目には、本来「留守」「在宅」「店番」などの細かな文字が描き込まれていた。

刃がその上を滑った瞬間、文字はにじみ、ただの「長さ」だけが残る。

「あなたが持っているのは、誰かが渡した物差しだ。」

劉立澄は淡々と言う。「この家が覚えているのは、自分で歩いた距離。」

御子柴は巻尺のもう片方の端を強く引き、勢いのまま前へ跳んだ。

殴る者の動きではない。

長年、家の中を歩き回ってきた者だけが身につける身のこなし――

テーブルの角をすり抜け、椅子の脚ぎりぎりに足を置き、肩をひとひねりして、二つの家具の隙間を風のように抜けてくる。

その手は空ではない。

もう一方の手には、分厚いアルバムを広げていた。

アルバムのページには、一軒一軒の家の片隅が写っている。

玄関、靴がきちんと並んだ写真。

台所、油染みのついたふきんがぶら下がった写真。

居間、ソファの背もたれに誰かの上着が投げ出された写真。

どの写真の片隅にも、一人の人物が写り込んでいる。

「ちょっとそこに立ってて」と言われてポーズをとらされたような、何気ない佇まい。

だがその眼差しには、撮影の軽さはない。

「みんなが出て行ったあと、ここに残るのは自分だ」という重さだけが沈んでいた。

御子柴がアルバムを空中に放る。

写真は一枚ずつページから抜け、柔らかな紙片になって宙を舞い、床に届く寸前に淡い影へと変わる。

影は、卓の脚もと、椅子の背、窓辺に落ち、その場で人の形に立ち上がる。

襖のそばに立つ者。

椅子に腰かける者。

靴箱の前でしゃがみ込み、靴紐を結んだまま、いつまでも立ち上がらない者。

家の中の空間が、瞬く間に何十もの「留守番の姿」で細切れにされていく。

劉立澄は正面からぶつかろうとはしない。

後ろへ滑り込み、背中をキッチンの柱に預けると、左手を伸ばして、壁に掛けられた一本の刀を取った。

龍牙。

剣よりも厚く、だが刃は薄く、光を受けると一筋の水のようにきらめく。

右に剣、左に刀。

どちらか一方で押し切るのではない。

一本は空隙を縫い、もう一本は骨組みを断つ――家の「軟骨」と「硬骨」を同時に握るように。

足を出す。歩幅は低く、畳の縁に沿って滑るように前へ進む。

まず剣。

振り下ろすのではなく、宙を舞う二枚の写真を横一文字に裂く。

破られた写真が床に落ちた瞬間、そこに立ち上がろうとしていた残形は形を失い、椅子の輪郭だけが残る。

次に刀。

龍牙の刃先が、リビングと廊下の境目にある鴨居の下を、薄く削ぐように走る。

材を断つのではない。

さきほど御子柴の巻尺から引き写された「よそ者の骨組み」を、表面からきれいに削り落としたのだ。

家はぐらりと身震いし、背にしがみついていた何かを振り払った。

御子柴の手に、鋭い痛みが走る。

巻尺を握る掌に、細い血筋がひとすじ浮かんだ。

刀が直接刻んだ傷ではない。

自分の物差しで他人の家の骨を組み替えようとして、逆に家の骨組みに噛みつかれた痕。

「この家、ずいぶん気が強い。」

劉立澄が応じる。

「夜を二、三度守ってきた家は、そう簡単には大人しくならない。」

彼はふいに前へ踏み込んだ。

直線ではない。畳と畳の継ぎ目だけを選んで、少し歪んだ四角形を踏み描くように進む。

家の中でだけ通用する一種の歩法――

「屋脊逆行歩」。

一歩ごとに、刀の峰で卓の脚、戸枠、窓枠を軽く叩く。

そこはさっきまで、留守番の残形たちが陣取っていた場所だ。

その「軽い一押し」で、家の木々は、「ここは主の場所だ」と思い出し、影の輪郭が一つ分、薄れていく。

御子柴は巻尺を振り抜き、布を長い蛇のように宙から打ち下ろし、彼の足首に巻きつけようとする。

もし一度でも巻かれれば、その場に釘付けにされ、一生、その一点を守る「常駐の番人」にされるだろう。

布尺が、足にかかろうとした刹那。

彼は下がらない。むしろ一歩、踏み込む。

つま先で、ちょうど一つの目盛りを踏みつけ、踵をひねって、その一枡ぶんを踏み潰した。

その目盛りには、「留守・二十四時」と記されていた。

文字はあっけなく消え、ただの白い線だけが残る。

御子柴の身体が揺らぎ、

生涯ずっと「店番として留まっている」はずだった、自分自身のどこかが、一日分だけ抜き取られたような虚脱が走る。

その隙に、劉立澄は刀を振り上げていた。

龍牙の刃は、人に向かわない。

家の中央の空白へまっすぐに落ちる。

それは、宴席の真ん中の卓を一刀で割るような一撃だった。

「澄心・散席の印。」

刃が床に触れても音はしない。

だが刀先から放たれた気は、目に見えぬ波紋となって四方へ広がる。

床板の木目に沿って走り、卓の脚をすり抜け、椅子の足の間をくぐり、部屋の隅々まで行き渡る。

それに触れた残形たちは、ただ一つのことを理解させられる。

――この「帰りを待つ宴」は、もうお開きだ。

ある影は、足もとを見下ろす。

そこにある板は、自分の家のそれとは違う。

ある影は、窓の外を見やる。

そこに見える街灯は、自分の通りの灯りではない。

輪郭が、一枚、また一枚と剥がれ落ちていく。

あるものは光の糸になって、床板の木目を伝って遠く離れた本来の家へと戻り、

あるものは路地の方角へ散って、京都の夜の景色の一部に溶けていく。

空いた場所には、元の形が順に戻ってくる。

椅子の横には椅子だけがあり、ドアのそばには靴箱だけがあり、窓の前には、手を置けばひんやりと冷たい木枠だけが残る。

御子柴は、リビングの中央に立ち尽くしていた。

手の中の巻尺は垂れ下がり、その目盛りに刻まれていた多くの文字はすでに読めなくなっている。

長さだけが残り、意味はほとんど剥ぎ取られていた。

「彼らを、送り返したんですね。」

初めて、声に疲れが混じる。

「家を守る者は、自分の家にいるべきだ。あなたに引きずられて、他人の家に詰めさせられるものじゃない。」

劉立澄は刀を納める。

床下の竜脈が、そのとき長く息を吐いた。

積み重なってのしかかっていた影の重みから、ようやく解き放たれたように。
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