京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第十四話・平安神宮・正史として奉られた誤り(一)

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 岡崎あたりから吹いてくる夕風には、わずかな水気と、木の葉をかすめる音が混じっていた。

 平安神宮のあの朱の大鳥居は、暮れなずむ空の中に、わざと大きく描きすぎた門のように立っている。

 その背後には街路樹が整然と並び、街灯に伸びた樹影はきれいに揃えられていた。岡崎公園のほうの水面には、きっちりとした光が浮かび、映り込んだ影までが、レタッチ済みの写真みたいに、おとなしく収まっている。

 綾女は傘を半分ほどたたみ、大鳥居をしばらく見上げていた。

 「ねえ、」と、彼女は小さな声で言った。「京都を一枚の絵にするとしたら、最初にどうしても描き込まなきゃいけない、一筆みたいじゃない?」

 劉立澄は「ふむ」とだけ応えた。

 彼も、彼女の視線を追う。

 彼の目には、竜脈が一本の、やや太すぎる光の筋として見えていた。

 鳥居の根元から抜けて、白砂の奥へとゆっくり流れ込み、その表面は、幾重にも重ねられた「整然」とした儀式に押しつけられて、真っ直ぐに伸ばされている。

 ふたりは正面の参道へは向かわず、大鳥居の脇から伸びる細い路地へと折れた。

 路地の灯りは強くない。

 両側の壁は、ほとんどが古い住宅の外壁で、ときおり小さな店が一、二軒まじっている。

 入口には、頭がぶつかりそうなほど低い暖簾が下がっていて――

 綾女は、そのひとつの前で足を止めた。

 暖簾には、ごくありふれた「食」の一文字だけが描かれている。

 墨は雨や霧に洗われて、すっかり薄くなってしまっていた。

 馴染みでもなければ、古い布切れを適当に吊して風よけにしている家だとしか思わないだろう。

 綾女は暖簾の端を持ち上げた。

 「今夜はここ。」と振り返り、彼を一瞥する。「ここの料理も、『公式バージョン』を書くのが得意なの。」

 店内は狭く、カウンター席が一列と、低い卓が二つほどあるだけだ。

 今夜はほかに客はおらず、厨房から顔をのぞかせた料理人は、綾女を見ると、ただ軽くうなずき、「本日終了」の札を裏返して、黙って入口のそばに掛け直した。

 ふたりはカウンターに腰を下ろした。

 天板はよく拭かれていて、木目には、磨かれすぎて丸くなったような柔らかな光沢が灯っている。

 最初の一皿が運ばれてきたとき、店じゅうの香りに一本、はっきりした筋が通った気がした。

 白い長皿の上には、ちょうどいい加減に焼き上がった鰆が一切れ、静かに横たわっている。

 身はあらかじめ白味噌と甘い酒粕に漬け込まれていて、表面にはこんがりと焦げ目がつき、縁には琥珀色の薄い殻がひと周りしていた。

 箸を入れると、中の身は、ほとんど白く発光しているようで、きめ細かな筋が静かに並び、脂は繊維のあいだにきれいに収まっていて、滴りすぎもせず、乾いた感じもない。

 綾女はその切り身を見つめ、ふっと笑った。

 「鰆の西京焼き、ね……」箸先で角をそっと持ち上げる。「ちょっと、出来すぎなくらいきれい。」

 次の皿は生麩田楽だった。

 生麩はきっちりと立方体に切り揃えてあり、細い竹串に刺さっている。

 甘い味噌が薄く塗られ、炭火の上でゆっくり焼かれていた。

 表面には細かい気泡が浮かび、味噌の色は薄茶から、縁に焦げ目を帯びた濃い色へと変わっていく。

 見た目には、すべてが同じ「味」に覆われているようだ。

 だがひと口噛めば、中身のやわらかな層が歯先のところでふわりと崩れ、まったく別の質感が静かに立ち上がる。

 続いては、蕪と湯葉の炊き合わせ。

 小ぶりな鉢の中で、京蕪は箸先が触れただけで崩れそうなほど柔らかく煮えている。

 出汁の色はほとんど透明に近く、底にうっすらと淡い金色が沈んでいるだけだ。

 薄い湯葉は、一度折り畳まれた紙切れのように表面に浮かび、縁が少しだけくるりと丸まっていた。

 口に含んだ瞬間には、ほとんど味を感じない。

 喉のあたりが温まってきたところで、ようやく出汁に隠れていた甘みと旨みが、ゆっくりと浮かび上がってくる。

 最後は、小さな黒蜜きなこ蕨餅。

 小さな立方体に切られた蕨餅の表面は、きめ細かい黄な粉で覆われている。

 黒蜜はきっちりと一列にだけ掛けられ、どの角にも、小さな句点を打つように落ちていた。

 綾女は箸で皿を正しながら、何気なく言った。

 「見て、この辺り一帯って、まさに――」

 彼女は箸先で窓の外を指した。

 ちょうどそこから、大鳥居の一隅と、街灯の下できれいに揃って伸びる樹影が見える。

 「『ちゃんとしてる人』に見られたい人たちが、わざわざここを選んで参拝して、写真を撮って、無難な言葉を一段書く。」

 彼女は続けた。

 「それを、自分の人生紹介として差し出すの。……ほら、この魚みたいに、見えている部分だけを、やたらときれいに漬け込んで。」

 劉立澄は、鰆をひと切れつまんだ。

 味噌の甘さと魚本来の旨みが舌の上で極めてフラットな結び目を作り、余計な角はほとんど感じられない。

 だが喉の奥で、竜脈の気配が、かすかに彼をくすぐった――

 それは伏見稲荷のような、軽やかな流れではない。

 むしろ、無理に真っ直ぐに伸ばされてしまった、均された流れだ。

 まるでこの街全体が、「表に出せる物語」だけを光の下に並べて、その裏側の見苦しいものは、すべてきちんと地下へ押し込んでしまったかのようだ。

 「ここの気は、平たい。」

 彼は箸を置いて言った。

「平たい?」綾女は首をかしげる。「『何もかも順調です』っていう平らさ? それとも、『余計なことは言うな』っていう、あの平らさ?」

 彼は少し考えた。

 「剪定された平らさ。」と答える。「履歴書に載せる年と載せない年を選んで、残りの何年分かは切り落として、背中側に押し込んだみたいな。」

 綾女はくすりと笑い、それ以上は深く追及しなかった。

 彼女は生麩をひとつ自分の小皿に移し、さらに蕨餅を一切れつまんで、角のところだけに黒蜜を一滴落とした――その一滴は、黄な粉の色を押し込むように、つやつやと黒く輝いた。

 「平安神宮のこの竜脈は、『オフィシャルな物語』のノードなの。」彼女は静かに言った。

 「今夜あなたが見る残形は、『あのとき、こうできていたら』でもないし、『理想の完璧な自分』でもない。」

 彼女は目を上げ、彼を見た。

 「――正史を書くときに、切り捨てられたほうの自分よ。」

 黒蜜が蕨餅の角をつたって、皿の上に小さな弧を描きながら滑り落ちていく。

 劉立澄が窓の外に目をやると、夜の鳥居は、一行の書き切られた文章のように見えた。

 その行間に、切り取られた注釈を書き込む誰かを、じっと待っている。

 彼は最後のひとつの生麩を食べ終えると、立ち上がって会計を済ませた。

 店を出るころには、路地はすでに静まり返り、白砂の広場のほうから漏れてくる灯りだけが、かすかに残っていた。

 彼は大鳥居のほうへ歩き出した。
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