京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第十四話・平安神宮・正史として奉られた誤り(二)

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 夜の幕が完全に降りたころ、平安神宮の灯りがようやく本格的に点った。

 朱の大鳥居は、ぐいと支えられた門枠のように立ち、参拝客はだいぶ少なくなっている。

 残っているのは、鳥居の下を足音をわざと軽くして通り抜ける、スーツ姿の人びとが三々五々。

 本殿前の広場には白砂が一面に敷きつめられていて、灯りに照らされて、柔らかく、それでいてどこか刺すような白さを放っていた。

 その白は、雪の冷たさでも、塩のざらつきでもなく、何度もふるいに掛けて、天日に干して、「きれいな部分だけ」を残したような白だ。

 劉立澄は石段を越え、白砂の上へと足を踏み入れた。

 足裏から伝わるのは、細かく、それでいて非常に均質な摩擦の感覚だ。

 まるで、無数の文が同じ長さに切り揃えられ、一本一本、彼の足もとに敷き詰められているかのようだった。

 ふつうの人の目には、ここはただの整然とした広場にしか見えない。

 だが彼の目には、白砂の下に一本の、極太の光脈が押し込められているのが見えた。

 竜脈は東から西へとゆっくり流れている。

 本来ならば自然な波を打っているはずの光は、長年繰り返されてきた儀式と参拝と「公式写真」によって、一本のほとんど直線に近い光へと押し潰されている。

 光の縁にあったはずの自然な揺らぎは、何度も定規をあてて描き直された線のように、すっかり削ぎ落とされて、ただ不自然な端正さだけが残っていた。

 広場の端では、濃い色のスーツを着てネクタイを締めた人びとが、数人、本殿に向かって頭を下げていた。

 御守りの入った小袋を、ぎゅっと握りしめている者。

 小声で何か願い事を呟いている者。

 ただ黙って立ち尽くし、「礼儀にかなった厳かさ」の表情を保っている者。

 だが彼らの背後には、影が一つだけではなかった。

 灯りに照らされて落ちる、普通の影の横に、ぼんやりと第二の影が重なっている――

 ある者の背後には、作業着姿の自分が立っていた。

 ヘルメットにはセメントの粉がつき、袖口は擦り切れて白くなっている。

 ある者の背後には、安物のインカムをつけ、コンビニの制服を着た自分が立っていて、手にしたレシートロールはまだ印字の途中のまま。

 また別の影には、明るい色のスーツを着た輪郭が浮かび上がる。

 胸元は開きすぎており、ネクタイは飾りのようにだらしなく緩められている。

 それは、かつてホストクラブの灯りの下に立っていたときの姿勢だ。

 こうした「第二の影」は、最初は本体のかかとにぴったりと貼りついていた。

 彼らが一歩、一歩と前に進むたびに、その影の底辺が、なにかにそっと引かれるように揺らぐ――

 第二の影たちは、かかとから少しずつ抜き取られていく。

 完全に剥がれ落ちることはなく、ただ目に見えない力によって、少しずつ平安神宮の奥へと引き寄せられていく。

 履歴から削除されたアルバイト歴。

 「空白期間」としてまとめて処理された数年間。

 略された倒産、浮気、裁判――

 本来なら履歴の行間に書かれていたはずの文たちは、正行から切り離され、この竜脈の下へと投げ込まれていた。

 劉立澄は、白砂の中央に立った。

 彼はそっと目を閉じる。

 空気には独特の匂いが混じっていた。

 線香でもなく、砂や土の匂いでもない。

 古い紙が何度もめくられ、書類箱が長く積み重なったあとのような乾いた匂い――

 乾ききったインクの酸味と、何度も押された判子の油が鈍く残る匂いだ。

 「正史残形。」

 彼は心の中で、そっと呟いた。

 人が何度も何度も、自分の「体裁のいい部分」だけを外に向かって語るとき、切り捨てられた経験は、本文から切り取られた段落のようなものになる。

 消え去ることができなかったそれらの段落は、互いに引き寄せ合い、やがてきちんとした服を着ていながら、顔を失った影となる。

 彼らは、この白砂の下で回収され、整理され、「削除された部分だけ」を記録する暗い台帳として綴じられていく。

 彼は内苑のほうへと歩みを進めた。

 足もとの竜脈の光が、わずかに足取りに反応して揺らぎ、なにかに気づいたように見えた。

 だがすぐに、「整然たる状態を維持しなければならない」という圧力に押し戻される。

 白砂の縁には、回廊の影が長く伸びていた。

 その影のいちばん濃くなっているところに、周囲よりも暗い空隙がひとつあり、まるで彼を待っていたかのように、じっと口を開けていた。
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