京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第十六話 二条城・奪われた名前(三)

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 外壁に沿って堀端へ戻ると、風はさっきより細くなっていた。

細くなったのは風が弱まったからではない。「ここで誰かがお前の輪郭を決める」という殺気に押し込まれ、通れる隙間が狭くなったのだ。二条城の石垣は厚い紙束のように積み上がり、時間に圧されて硬くなっている。堀の水面はほとんど波を立てず、あらゆる動きを呑み込み、他人に見せるための表だけを薄く残している。

名札の者たちはまだ整列していた。

警備員が見たときより、列はさらに整い、顔の平らさは徹底され、名札は一層まぶしく光る。それぞれの名札は印刷済みの身分証のようで、「お前はこれからこの名前に属する」と告げているようだった。

劉立澄は暗がりに身を置き、すぐには前へ出なかった。呼吸を抑え、目だけを灯す。ここに流れているものは、十四話で見た「儀式によって引き延ばされた龍脈」ではない。もっと現実的で、もっとおぞましい流れだ。名声、功績、賞賛──それらが人から抜き取られ、いくつかの固定された名前に注ぎ込まれ、二条城という象徴に「正当」として捺印される。

綾女の言うとおりだ。これは「正史の書き換え」ではない。「署名権」の怪異だ。紙の上に名前を書く権利を握った者が、物語を所有する。

署名残形が生まれる仕組みは単純で、残酷だった。

いつまでも下層にいる会社員。企画を練り、徹夜し、客先を回る。だが会議で記憶されるのは、いつも上司の名前だけ。

業績を奪われる研究者。論文の構成も、データも、決定的な結論さえも自分が出したのに、最後の一行で指導教員や共同研究者が先頭を名乗る。

家庭では、功績のすべてを他人のものにされる人。世話をし、支え、耐えているのに、親戚の集まりでは「まあ、あの人はそういう性格だから」で片づけられ、説明しようとすれば自己弁護のように聞こえてしまう。

奪われた「署名権」は、消えない。

影になる。

名札の者たちの背後には、もっと淡く、もっと乱れた影がずらりと伸びていた。下書き。ラフスケッチ。ポートフォリオに入ることのなかった原稿。地面に延びるその線を辿っていけば、どこかの凡庸な部屋に戻り、深夜二時の灯りがまだ消えないオフィスに戻り、「考えすぎだってば」と言われ続けた台所に戻るだろう。

名札の者たちは観光客を襲うことはしない。ただ、影を止める。

堀端で電話をかけている男がひとり。「今回の提案、うちの部署よく頑張ったからさ」と楽しげに話している。本当に自分たちの功だと信じ切った声だった。だが足元の影は、ほんのわずかに別の方向へ歩き出したがっていた。

名札の男が近づき、身をかがめて、その影を押さえつける。

男本人は気づかない。話し続ける。むしろ、さらに自信を深めている。

名札が押しつけられたとき、影の胸にあたる部分に名前が浮かび上がる。

彼自身の名ではない。

影は途端に従順になり、判を押された書類のように反論をやめた。男の口調は一層確信に満ちる。自分の正当性にハンコをもらった人間の声だ。

「見えた?」と綾女が小さく言う。「署名を奪われた人たちはね、奪われた瞬間だけが痛いんじゃない。そのあとで、『最初から自分のものじゃなかったんだ』って信じさせられることが、いちばん痛い。」

劉立澄の指先が、わずかに動く。札を投げることはしない。まず腰の澄心剣の鞘に指を触れ、袖の内側に隠した竜牙の位置を確かめた。竜牙は短い。身体に沿うように収まっている。まるで、いつでも自分の名前を書き戻すための、一行のペン先だ。

「まだ出てきていない。」と彼は言う。

綾女はうなずく。「彼女はまず、みんなに『名札』を見せるの。」と続ける。「問題は名札にあるんだと思わせる。そこで勢い込んで名札を剥がしに飛び出した人から、先に自分の名札を貼られる。」

劉立澄は視線を堀の向こう側へ上げた。

暗がりの縁で、細い光がひときわきらりと動いた。金属に夜の光がかすかに当たったときの、あの光だ。

名札の留め金。

微かなクリックの音がした。それは、「本当に名前を奪う者の到来」を宣言する音だった。
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