京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第十七話・東寺・押しつけられた債(二)

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     綾女は、人を案内するとき、決していちばん明るい道は選ばない。

東寺の南門の外、人が途切れた参道を外れて、細い路地へと入り込む。格子戸の古い町家が並び、軒先には小さな灯が一つ、二つ。光は強くないが、澄んでいる。灯の下の風には、うっすらと炭の匂いと、京都にしかないあの気配――「規矩」「含み」、そして袖口に切っ先を隠したような鋭さ――が混じっていた。

戸を押し開けると、店内には他の客はいなかった。

いつもの「二人だけ」の常連の席。カウンターは大きくはないが、木目が磨かれて艶があり、壁には一枚の古い絵、淡い墨で描かれた五重塔の輪郭が掛かっている。墨は今にも滲みそうな、かすかな濃さだ。

「まずは食べて」綾女は手際よくエプロンを結びながら言った。言葉も一緒にきゅっと結び直すような手つきで。

「お腹を満たしてから、人がどうやって押しつけられるかを見に行こう」

最初に出てきたのは、蒸し寿司だった。

木の箱の蓋を開けると、まず湯気がふわりと立ちのぼる。霧みたいに目の前にかかる。酢飯は一度蒸され、粒はふんわりしながらも崩れず、熱で酸味が少し丸くなっているのに、その酸は底でちゃんと立っている。上にはうなぎ、海老、椎茸、錦糸玉子が重なっていて、見た目は柔らかい「ちゃんと暮らしています」という顔をしている。だが一口頬張れば、その柔らかさの中に重さが潜んでいるのがわかる――湯気が喉元に味を押し上げてきて、帳簿をめくったときの紙の重みみたいな圧がかかる。

二皿目は、鰻肝の吸い物。

汁は文字通り白紙のように澄み切っているのに、その中に沈んでいる鰻の肝が、舌の根を最初にかすかに叩く。軽い苦味がそっと触れて、次の瞬間の余韻の甘みがゆっくりと這い上がってくる。その苦さは不快ではない。「ずっと我慢してきた」種類の苦さだ――口に出さなければ、周りは「平気なんだ」と決めつける類の。

綾女は、炙った聖護院かぶらも出した。

丸く厚く切った聖護院かぶらは、表面に焦げ目が浮かび、縁がぷつぷつと泡立っている。火にあぶられた正直さがにじみ出ているようだ。塩だけをぱらりと振り、柑橘を少し絞る。酸と塩が一緒になって、かぶら本来の甘さを最高に引き立てる。その甘さは、「本当は断るべきだと思いながら、頷いてしまった」瞬間の味に似ている。

最後に出てきたのは、酒盗クリームチーズ。

クリームチーズのまろやかさを、酒盗のしょっぱく濃い旨味が一口で噛み破る。それは、借金が喉元に噛みついてくる一瞬にそっくりだ――気づいたときには、もう印を押されている。

劉立澄は、外で何が起きているのかを急いで尋ねはしなかった。

食べている間じゅう、彼の視線は綾女の手から離れない。包丁を入れるとき、汁をよそうとき、焼き面を返すとき――ひとつひとつが過不足なく収まっている。京都の料理人に沁みついた「段取りの感覚」は、彼女の身体の上で薄い甲冑のように光っている。柔らかく見えるのに、一手ごとに計算がある。

「さっきの一列の連中」劉立澄は鰻肝の吸い物をひと口飲み、苦味と甘みが口の中で落ち着くのを待ってから言った。

「あれは、この前の『名前を奪われる』やつじゃない」

「違うわ」綾女は蒸し寿司の蓋を半分閉じ、言葉も一緒にしまい込むようにした。

「名前は奪われても、まだ取り返しようがある。債務を押しつけられたら――『私は同意してない』って言う暇すらない」

彼女はふっと顔を上げ、刃先の光のような声で続けた。

「ある人たちはね、功績を奪うんじゃないの」

「あなたが“尻拭いできる人”である資格を奪いに来る」

劉立澄は箸を置き、指先で卓を軽く一度叩いた。

龍脈が聞こえた。

東寺周辺の龍脈は、平安神宮みたいに一直線に押さえつけられてもいないし、二条城みたいに名前を貨幣に変えてもいない。それは鎖に近い――寺社、庶民、取引、誓い、言い訳。一つひとつが輪になり、最後には「誰かに押しつけられた責任」を締め上げる鎖になる。

「担保の残形だな」彼は胸の内で呟く。

綾女は肯定も否定もしない。ただ最後の小さな皿を出した。

最中。

薄い皮は、噛むとすぐに砕けるのに、中の餡はどっしりと重く、一冊分の帳簿でも詰め込んだようだ。その甘さは、愛想のいい甘さではなく、「十年も背負ってきた」甘さだ――慣れてしまったがゆえに、周囲も「これからも背負い続けて当たり前」と決めつけてくる。

「食べたら行こう」綾女は言った。

「今日は、遠くまで術を伸ばさないこと」

「わかってる」

「東寺の連中はね」彼女は言葉をひとつ足した。

「あなたを地面に押さえつけて、自分の口で『私がやります』って言わせるのが好きなの」

劉立澄は、最中の最後のひとかけらを飲み込んだ。

小豆の重い甘さが胸のあたりで石のように沈む。その石は同時に、文鎮のようでもあった――今夜書くべきなのは、請求書じゃない。「拒絶」という文字を、もう一度書き戻すことだと教えてくれる重さ。

彼は立ち上がる。

「行こう」そう言った。

「印を剥がしに」
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