京都残形録 —— 中華道士・劉立澄の怪異食堂

RyuChoukan

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第十八話 貴船神社・彼女を連れ帰りたい夜(二)

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          翌日の夕方、山の冷え込みは前日より早く降りてきた。

  貴船口の街灯が一本また一本と灯り、針のような細い雨を照らし出す。駅のそばの数軒の店は暖簾を半分だけ下ろし、どうやら今日はもう客を多く取る気はないらしかった。

  綾女は、どこが開いているかを最初から知っているような歩き方で、その前を行く。

  低く下ろした傘の縁から、雨粒が骨を伝って転がり落ち、足元で小さな輪となって弾ける。今日は和服ではなく、深い色のニットにロングスカート、その上から羽織のような短いコートを引っかけている。山道を歩く姿は、よそ者というより土地の人間に近かった。

  「本当に、こんなところで食べるんですか。」

  劉立澄はコートのポケットに手を突っ込み、いつものように冷静な眼差しを山の空気に向けていた。留学生らしい控えめさと、どこにでも紛れ込めそうな中立さ。その奥に隠しきれないものがあるとしたら、それは手首に巻かれた時計の方かもしれない。

  綾女は振り返り、笑う。

  「先生は『食べ物』から手がかりを見つけるのが一番上手でしょう。貴船みたいな場所は、寒ければ寒いほど、人間の本音が出るんですよ。」

  彼女は、目立たない小さな暖簾をくぐった。

  店は狭いが、木のカウンターは磨き込まれており、奥の炭火からは脂と塩の匂いを含んだ熱が立ちのぼっている。壁には古い映画のポスターが数枚貼られ、隅には枯れかけの山茶花が一鉢置かれていた。

  今日の客は、やはり二人だけだった。

  大将は、彼女たちが来るのを初めから知っていたようで、多くは語らず、静かに会釈をする。綾女の「常連としての席」が、この店ではいつでも有効なのだとでも言うように。

  最初に出てきたのは焼き鳥だった。

  炭火で焼かれた鶏皮は、縁がかすかに反り、脂を含んだ表面は光を弾いている。塩が熱い油の中で溶け、香りが真っ直ぐに立ち上る。もも肉の串は表面が香ばしく、中はやわらかく、噛むたびに肉汁があふれて、骨の奥にこびりついていた冷えを押し出すような温かさを持っていた。レバーの串も、焼き過ぎず、表面には薄くタレがまとわせてある。口に含めば、最初にほろ苦さがきて、そのあとにゆっくりと甘みが追いついてくる。長いあいだ飲み込まずにいた感情が、ようやくひっくり返る瞬間のような味だった。

  綾女は一本を手に取り、すぐにはかじらず、その油膜を眺める。

  「こういうものは、飾り立てて書いたら嘘になるし、あまり冷たく書いても違うんですよ。」

  串を皿に戻しながら言う。

  「『生き返りたい人』って、これに似てます。説明すればするほど、自分で自分を誤魔化しているように見える。」

  劉立澄はすぐには応じない。窓の向こうに流れる雨筋を見ていた。山の水の音に耳を合わせるように。

  「昨夜の貴船の水脈はおかしかった。」

  そう言う。

  「誰かが契約で、あれを押さえつけていた。」

  綾女は、椅子のわきに立てかけた傘に目をやり、声を少し落とす。

  「誰だと思います?」

  劉立澄は、焼き鳥の最後の一口を飲み込み、喉仏をひとつ動かした。

  「普通の残形の集積じゃない。」

  「一人の人間の身体に、『失えないもの』が積み重なり過ぎている。」

  そこへ、オムライスが運ばれてきた。

  皿はごく普通のものだが、立ち上る湯気がそれを急に「本気」に見せる。薄く均一な卵の皮は、やわらかな黄金色で、破れそうで破れない優しさのようにも見えた。ナイフで線を入れると、卵皮が中央からゆっくりと割れ、半熟の卵がとろりと流れ出してケチャップライスを覆う。その色は、古いアルバムの中で、いまだに鮮やかさを残している黄昏の一コマのようだった。

  綾女は、その流れ出る卵を見つめながら、ふいに言った。

  「先生、一番怖いのは『復活したい』って願いそのものじゃないんです。」

  「一番怖いのは――復活を『実行可能なプロジェクト』に変えてしまうこと。想いをKPIにして、悲しみを『プロセスで解決すべきリスク』として扱いはじめること。」

  劉立澄が顔を上げる。

  その眼差しの奥に、ごく薄い、痛みに似たものが浮かんだのは、そのときが初めてだった。

  「もし、その人間が元経営者なら……死さえも『是正すべき決算』としか見なくなる。」

  綾女はうなずく。

  「昨夜、あの場所に漂っていたにおいは、会議室の匂いでした。」

  オムライスの皿を彼の前へ押しやりながら言う。

  「食べてください。先生がこれから向かうのは、妖怪退治じゃない。」

  「心の砕け方を、制度に変えてしまった人間と向き合うことです。」

  劉立澄は黙ってうつむき、スプーンで一口すくった。

  トマトの酸味と甘み、やわらかな卵がほとんど境界もなく舌の上で混ざり合い、その熱が胸の内側へと押し上がってくる。その一瞬、彼はごく小さな記憶を思い出す。

  まだ国内にいた頃、両親がたまに遅くまで帰ってこない夜、家の手伝いの女性が、いちばん簡単なオムライスで彼をなだめてくれた。彼は金に困ったこともなく、世話をしてくれる人間にも事欠かなかったが、それでもいつも足りないと感じていたものがあった。

  今ならわかる。人によって欠けているのは、「誰かが帰りを待っていてくれる時間」そのものなのだと。

  スプーンを置き、椅子から立ち上がる。

  「行きましょう。」

  「貴船へ。」
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