雲海に溺れる

びび

文字の大きさ
上 下
4 / 10

ちょっとした彼女の水の話

しおりを挟む
恋って、水みたいだ、海みたいだ。

溺れてしまったら苦しい。けれどそこに好きな人が来たら、その人が酸素となってその水の中に揺蕩うことができる。


これは私のちょっとした水の話。


不毛な恋、絶対に叶わない恋。
そんなの分かっていたくせに、背徳感に溺れていたのは、私。

最後にあの人が好きなのだと判断し、そう告げる決心をしたのは、私。

バラしてしまおうと思ったのも、私。


結局全部が全部自分で決めたことのくせに、私はまだまだソレを引きずっていて、そんな自分が、気持ち悪い。信じる確かな物体はなかったのに、私は彼から与えられる目に見えない愛とかいうやつを必死に信じていた。

『好きだよ』

その言葉と、薬指へのキスとかいう形のないものを私は信じ続けていた。

先生と、生徒。

その言葉が私の感情を昂らせ、気持ちを変に発展させた。

溺れてた。

先生との恋に、溺れて、周りが見えなくなっ
てて。知らないふりをして恋の中で揺蕩うのは幸せで、忘れたふりを、見ないふりをし続けていた。前後左右、どこを向いても私には先生しかいなかった。
そんな世界、ありえないのに。

それなのに信じて、挙げ句の果てにはこんなところにまで来て。自分自身が気持ち悪くて反吐がでる。溺れるのは、いい。でも、溺死なんてしてたまるものか。苦しいだけのあの恋を忘れたい。

前の学校で、放課後空き教室で好きだななんだの言い合っていた自分を思い出すと、くらくらしてしまう。
夢の中を歩いているようだったあの日々は、本当にまぼろしになってしまったみたいだ。

恋に効く薬は恋だと思う。
私を彼の中から救い出してくれるのは他の男でしかない。先生の中から救い出してくれるのが、先生なんて、ありえない。

だったら、私のためにこの泥沼に飛び込んで人工呼吸をしてくれる人に助けてもらうしかないじゃないか。


ふじすばる


彼がそれだと、私は勝手に期待している。



しおりを挟む

処理中です...